約1億2000万円の「BMW 3.0 CSL」に試乗「世界限定50台」

世界限定50台で約1億2000万円もする超希少車「BMW 3.0 CSL」に試乗して「走る伝説」を味わってみた

M4をベースとしたそのボディは「クーペ・スポーツ・ライトウェイト」(CSL)の名の通りに約180kgの軽量化を実現したという。
M4をベースとしたそのボディは「クーペ・スポーツ・ライトウェイト」(CSL)の名の通りに約180kgの軽量化を実現したという。
1970年代、ツーリングカー選手権で勝つために誕生したBMW 3.0 CSL。それは3.0 CSをベースにボンネット、ドア、ラゲッジコンパートメントなどをアルミ化、さらにウインドウを合成ガラスにするなどして215kg計量化されたホモロゲモデルだった。現在でもカルト的な人気を誇るそんな3.0 CSLが、いま復活を遂げた!(GENROQ 2024年2月号より転載・再構成)

BMW 3.0 CSL

50台の枠に対して500人以上の応募

搭載されるエンジンはM4譲りの「S58ユニット」。3.0リッター直列6気筒ツインターボのパワーは560PSにまで高められている。

1973年にデビューし、欧州ツーリングカー選手権で5連覇を達成した伝説のマシン「3.0CSL」。M社はこれを自身の50周年に合わせて現代版としてリメイク、75万ユーロ(約1億2000万円)というプライスを掲げて、わずか50台だけ限定販売して世界を驚かせた。

ちなみに市場では、その50台の枠に対して500人以上の応募が殺到し、厳選なる審査が行われた。

そしてこの幸運を、日本が誇るBMWワークスチームでありBMWのプロショップである「スタディ」がつかんだ。BMW側の判断基準はこれまでの同社に対する貢献度とのことだが、2008年にスーパーGTへ初参戦したあと2011年にはGT300クラスでチャンピオンを獲得し、その後もワークスドライバーを招聘しながら第一線で活躍し続けているその歴史が評価されたということだろう。まさにモータースポーツの記念碑である3.0CSLを有するに相応しいカスタマーだと、BMWが判断したわけである。

しかしそれにも増して驚いたのは、そんな貴重な3.0CSLを「試乗せよ」というオーダーが、スタディ鈴木康昭会長から下ったことだった。

カーボンパーツの採用などで約180kgの軽量化を実現

もちろんそれは、最高の栄誉だ。しかし同時に、恐ろしく胃が痛いことでもあった。日本に1台しか上陸していなかったM2 CS Racingで富士24時間を走ったときや、M6 GT3のステアリングを握ったときに勝るとも劣らないプレッシャーで、正直筆者は憂鬱だった。

しかしそんな気持ちを知ってか知らずか、3.0CSLは最上のドライビングプレジャーをもって筆者を迎えてくれた。

3.0CSLを走らせてまず何より先に身体に訴えかけてくるのは、“軽さ”だ。M4をベースとしたそのボディは「クーペ・スポーツ・ライトウェイト」(CSL)の名に恥じず、ふんだんにカーボンパーツを投入することで約180kgの軽量化を実現している。先んじて登場した「M4 CSL」が100kgのダイエットを果たしたときでさえその差に驚かされたが、それを遙かに上回る軽さを、動かした瞬間から3.0CSLから感じ取ることができる。

しかしその絶対的な軽さ以上に感心させられるのは、その車体の軽さと操作感の軽さが、トーンを揃えていることだ。ステアリング、シフト、そしてクラッチ。ドライバーがクルマからインフォメーションを得るための要となる操作系の反力や手応えが、ことごとく軽い。なおかつすべてに節度感があり、正確に操ることができてしまうのである。

エンジンはM4譲りの「S58ユニット」で、3.0リッター直列6気筒ツインターボのパワーは560PSにまで高められている。そんなハイチューンエンジンをしてクラッチの踏力は冗談のように軽く、つま先をゆっくり上げて行くだけで、ジャダーひとつなくボディが進み出す。

BMWといえばシャシーファースターの印象があるが

バンプ側に張りのある乗り心地は専用設計となるミシュラン・パイロットスポーツ4Sのキャラクターだろう。足まわりそのものは路面からの入力を瞬時にダンピングしてくれるから、乗り味はスポーティなのだが乗り心地はとてもいい。

ハンドリングは、低荷重領域でもかなりシャープだ。初めて現行M4クーペを走らせたときもその操舵レスポンスには驚かされたが、車重による抑えがない分だけ切れば切っただけ素直に反応してしまう。しかしながらそこにロールからの揺り返しがもたらす雑味が感じられず、切っただけ曲がって、スッと動きが収まる。まるで抜き身の刀のような、扱う者を試すかのようなキレの良さだ。BMWといえばシャシーファースターの印象があるけれど、3.0CSLはシャシーまで速い。

それだけに、アクセルペダルを踏み込むのには勇気が要った。本当にゆっくりじっくりと、アクセル開度を徐々に深めた。しかしそんな及び腰をクスクス笑うかのようにS58ユニットは、高回転までシルキーに吹け上がった。キツネにつままれたかのような拍子抜け感。クラッチはスパッと切れて、ギヤが恐ろしく気持ち良く次につながる。シフトフィールは極上の抵抗感で、やはり軽い。

ブレーキのタッチも素晴らしい。一切の唐突さがなく、低温時でも吸い付くようにカーボンセラミックローターをパッドが挟み込む。

クルマを操る喜びを最大限に引き出す

対してターンインは、呆れるほどにクイックだった。まだまだタイヤには十分な面圧が掛かっていないのに、ステアすればノーズはコーナーに切れ込んで行く。抜き身の刀が真の切れ味を発揮するには、もっと高い荷重が必要なのかもしれない。しかしオープンロードでそれを確かめることは、筆者にはできなかった。

それでも何度もしつこくワインディングを往復していると、段々とだが3.0CSLの良さが体に伝わってくるようになった。このBMWとしても類い希な、羽の生えたかのような乗り味こそが、3.0CSLのキャラクターなのだろう。巨大なフロントスポイラーと“バットモービル”と呼ばれたウイングをベースとした空力バランスには50時間の風洞実験と延べ200時間の開発時間を費やしたというが、その狙いはGTマシンのようなダウンフォースの獲得ではないと思う。あくまでドライバーがシャシーのバランスを取りながら、このエンジンでアクセルを踏み込んで行く、古典的だがクルマを操る喜びを最大限に引き出すドライビングフィールが、M社が50周年の節目に込めたメッセージなのだと感じた。

ちなみにM社はこの3.0CSLでレースやタイムトライアルに出ることを禁じている。それはこの3.0CSLが速さで評価されるべきマシンではないという、強い気持ちの表れなのだと思う。だからこそトランスミッションには、5万kmでオーバーホールという条件を与えてまで極上の6速MTを用意したのだろう。果たして何人のオーナーが、その気持ちに応えられるのか? それができたオーナーは、世界一の幸せ者だ。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/篠原晃一(Kouichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 2月号

SPECIFICATIONS

BMW 3.0 CSL

ボディサイズ:全長4911 全幅1946 全高1393mm
ホイールベース:2857mm
車両重量:1650kg
エンジン:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2993cc
最高出力:412kW(560PS)/7150rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/─
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前285/30ZR20(10J) 後295/25ZR21(11J)
車両本体価格:75万ユーロ

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…