法律が定める「徐行義務」の対象
道路交通法第42条では、ドライバーは次のような場所で徐行しなければならないと規定している。
- 道路標識などで徐行が指定されている場所
- カーブや交差点の付近
- 上り坂の頂上付近や、勾配の急な下り坂
- 見通しの悪い交差点など
ここで重要なのは、「見通しが悪い場合のみ」ではなく、「上り坂の頂上付近」であれば原則として徐行義務があるという点である。つまり頂上からの景色がよく、直線が続いていても法的には徐行を怠れば違反となる可能性があるのだ。
「頂上付近」が危険とされる理由

上り坂の頂上は、ドライバーの視点から見ると一瞬、空白のゾーンになる。坂の向こう側が見えているようでも、実際には視覚の死角が存在する。
頂点を越えた先に、停車車両や歩行者、自転車、対向車がいる場合、発見がわずかに遅れるだけで回避が難しくなる。特に、下り坂へつながる構造では、頂点での速度超過がそのまま減速不能に直結することも少なくない。
また、夜間や雨天では路面の摩擦が低下し、ブレーキ距離が想定以上に伸びることも少なくない。これらの状況は、ドライバーが「目で確認した時点」ではすでに回避が難しいことが多い。
さらに坂の傾斜変化により車体姿勢が不安定になり、ブレーキの効きやハンドルの反応が変化する。見通しが良くても「急な挙動変化」が起こるリスクがあるため、法律上は条件付き安全ではなく必ず徐行という扱いになっているわけだ。
道路交通法上の「徐行」とは、「すぐに停止できる速度で進行すること」を指す。
一般的には時速10km以下が目安とされるが、数値で定められているわけではない。重要なのは、「危険を感じた瞬間に確実に止まれる速度であるか」という点である。
上り坂の頂上付近では、たとえ前方が直線で見通しが良くても、万が一に備えてブレーキに余裕のある速度を保つ必要がある。
上り坂の頂上付近は“見えない先”を意識して減速を実務ドライバーが取るべき対応

上り坂の頂上付近に差しかかったら、まずはアクセルを緩め、軽くブレーキを踏んで車速を落とすことが重要だ。
見通しの限られた区間では、先にカーブや路肩へ停車している車両、自転車、歩行者などがいないかを、できる範囲で確認しておきたい。対向車のライトや車影が見えた場合は、さらに減速し、すぐに停止できる体勢を整える。
頂上を越える直前では、「いつでも止まれる速度」に抑えるのが理想だ。これらの操作は単なる徐行義務の遵守にとどまらず、危険を予測して行動する運転技術の向上にもつながる。