サクラの意外な実力発見……FF電気自動車で氷上を走る! ビッグパワーFRスポーツ、フェアレディZではどうなる? 日産氷上試乗会・2WD編

日産の氷上試乗会が開催された。e-4ORCEを筆頭に最新4WDモデルが揃えられたが、2WDモデルも試乗車として用意された。やはり注目は2022-2023の日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝いた「サクラ」。2WD軽EVの氷上での走りはどのようなものだったのだろうか? そして日産FRスポーツの代表である「フェアレディZ」は?
PHOTO:MotorFan.jp/日産自動車 REPORT:MotorFan.jp

氷雪路での4WDの2WDに対する優位性は今さら述べるまでもなく、今回の氷上試乗会でもe-4ORCEやe-POWER 4WDといった電動4WDシステムの安定した走りを体感することができた。しかしだからと言って全ての人が4WDを選ぶわけもなく、2WDで氷雪路を走る人も多いことだろう。
まして、2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝いた軽電気自動車のサクラの人気を考えれば、サクラで氷雪路を走る可能性はこれから高くなってくるのは間違いない。
そんなサクラ、そして日産を代表するFRスポーツであるフェアレディZの氷上走行体験をお伝えしたい。

フェアレディZ Version ST(6速MT)

日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞の軽EV「サクラ」

日産サクラが2022年12月に発表された「第43回 2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー」において三菱eKクロスEVと共にイヤーカーに選出され、さらに軽自動車を対象とした「K CAR オブ・ザ・イヤー」も受賞し、史上初のダブル受賞の栄誉に輝いたのは記憶に新しい。実用的な軽自動車のEVということもあり、この受賞は日本の”電気自動車元年”を印象づけるものとして話題になった。

サクラ「G」
サクラ「G」

試乗車として上級グレードの「G」が用意されていた。普及グレードの「X」で254万8700円に対しGは304万400円。昨今は全体的に価格設定が上昇傾向とはいえ軽自動車としては少々お高めの印象だが、日産EVラインナップのみならず、BEV車全体で見れば最安クラス。
グレードの価格差は装備の違いでメカニズムは同様。1モーターのFFのみだ。

搭載されるモーターはe-POWER 4WDのリヤにも搭載されるMM48で、出力は軽自動車自主規制値の64ps(47kW)/19.88kgm※(195nM)に設定されている。
※編集部換算値
試乗車の装着タイヤはブリヂストン・ブリザックVRX3。サイズは165/55R15。

64psという軽自動車のパワーとTCS(トラクションコントロール)のおかげで、他の4WD試乗車のようなトルク感や力強さこそないものの2WDでもスムーズに発進することができた。TCSの制御技術の進歩の賜物か、モーター駆動制御の賜物か、最初から想像以上だ。
今回の試乗コースは平坦なので上り坂や上り坂でのゼロ発進といった2WDが不利な状況まではわからないが、少なくとも平坦であれば2WDでも大丈夫そうだ。

発進後の直線であえてステアリングを左右に振ってクルマの挙動を試してみたところ、電動4WDのように駆動制御でピタリと収まるというのは流石になかったが、VDC(ヴィークルダイナミクスコントロール)の制御と簡単な修正舵で姿勢を回復できたのは好印象だった。

思った以上にスムーズに加速していくのはモーターのトルクをTCSが上手くコントロールしているからか。モーターの駆動力制御にはe-4ORCEも含めた日産電動4WDの技術的蓄積が生かされているように感じる。

ブレーキからのコーナーへの進入も、やはりe-Pedalでブレーキを踏まずに減速できる安心感は滑りやすい氷上では大きな美点。ステアリングを切っての動きも軽く、あえて大袈裟に操作した時の動きも制御しやすく感じられた。試乗車中最軽量の車重(1080kg)が効いているいるのは間違いないだろう。”軽さは七難隠す”とはよく言ったものだ。

平坦路ということもあって2WDにもかかわらず全く不安なく走ることができたのは正直意外であった。これなら、よほどの悪コンディションでなければスタッドレスタイヤで十分氷雪路を走ることはできるだろう。ある意味サクラは、その意外性も含めて今回の試乗車の中で最も好感触な1台であった。
残念なのは試乗会という条件下での軽EVということもあり、試乗時間が他の試乗車に比べて短かった点だ。もう少し、氷上でのサクラの走りを確かめたかった。

カッパー加飾は「G」ならではのインテリア。プロパイロットも標準装備となる。
「G」のホットプラスパッケージにはステアリングヒーターと運転席シートヒーターが標準装備。

では、サクラにe-4ORCEを搭載すれば最高なのではないだろうか? 確かに、日産自動車パワートレイン・EV技術開発本部エキスパートリーダーの平工良三博士は「開発側としては日産の4WDは全てe-4ORCEにしたいくらい」と語り、それにはもちろんサクラも含まれていた。
一方で、柳 信秀チーフマーケティングマネージャーは、軽自動車であるサクラにe-4ORCEを搭載した際の価格をユーザーが受け入れてくれるかどうかがネックになるのでは、と語った。

日産4WD復活の鍵は電動化にあり! エクストレイル&アリアに搭載された「e-4ORCE」は最強の四輪駆動システムか? その実力を氷上でテスト!!

日産の氷上試乗会が開催された。日産の4WD(四輪駆動)モデルを一堂に揃え、その走りを一気にテストできるまたとない機会だ。注目はやはりBEV(バッテリー電気自動車)であるアリアとe-POWERによるモーター駆動のエクストレイルに搭載された新たな4WDシステムである「e-4ORCE」。特にアリアのe-4ORCEは初の4WD・BEVだけに、注目せざるを得ない。 PHOTO:MotorFan.jp/日産自動車 REPORT:MotorFan.jp

確かに、2WDでもここまで走れたわけだから、250万円〜300万円にe-4ORCE分の価格を上乗せするとコストパフォーマンスは厳しいものにならざるをえないだろう。
それでも将来的にサクラe-4ORCEに登場に期待せずにはいられない。

日産伝統のFRスポーツ「フェアレディZ」・6速MT編

フェアレディZ Version ST(6速MT)

R35型GT-Rを運転したのが今回の氷上試乗会が初めてなら、このフェアレディZを運転するのも今回が初めて。しかも、FRでの低μ路走行自体、その昔スプリンター・トレノ(AE85)でフラットマディなダートコースを走った時のみ。
その時は、真っ直ぐ走ることもままならず、スタックしないでコースを一周して帰ってくるのが奇跡に思えたくらいで、FRでの低μ路走行にはまったくもって自信がない。

フェアレディZ Version ST(6速MT)
フェアレディZ Version ST(6速MT)

フェアレディZと言えば日産を代表するFRスポーツカーで、現行モデルは6代目にあたるRZ34型。試乗車は6速MTの「Version ST」が外周路に、同じく「Version ST」の9M-ATx(9速AT)がスキッドパッド(スラローム、定常円、8の字)に用意された。
1.6tのボディを軽々と加速させる405ps/48.4kgmを発揮するVR30DDTT型3.0L V6ツインターボエンジンを搭載したFRはGT-R以上に操れる気がしない。まして、自分のクルマ以外のMT車に乗るのも久しぶりなのだから大変だ。

VR30DDTT型3.0L V6ツインターボエンジン
タイヤはブリヂストン・ブリザックVRX3。

MT車の方で実際に走り出してみると、加速時のリヤタイヤの空転が如実に感じられるし、荷重移動ができていない時のアンダーステアとコーナーリング中にアクセルを開けすぎた時のオーバーステア、カウンターステア量を誤った際の”タコ踊り”やスピンは”ザ・FR”といった挙動で、ある意味わかりやすい。
かといってそれが適切に制御できるかと言えば、そこまでの運転技術は持ち合わせていないわけで、できれば大排気量FR車で氷雪路は走りたくないし、もし走らなければならないならとにかく慎重にソロソロと走る他ないと思い知らされた。

レッド/ブラックのインテリアはスポーティでドライバーの気分を盛り上げる。
バケット形状のシートはホールド性抜群。
今や貴重な6速MT。トランスミッションと近く、ダイレクトな操作感は小気味良い。

もう少し乗り込んで、ドライビングポジションもじっくり設定できれば多少は違ったかもしれないが、いずれにせよ初めて乗るフェアレディZの6速MTで氷上を走るというのは難しいの一言に尽きる。
とは言え、次は氷雪路ではない路面で走ってみたいと期待させるだけの走りの片鱗を感じらたのは幸いであった。

写真のようにカウンターステアでドリフトしながらコーナーをクリアできればさぞ気持ちがいいことだろう……。

快速GTスポーツ「フェアレディZ」・9速AT編

フェアレディZ Version ST(9速AT)

元々アメリカ市場をメインターゲットに生まれたフェアレディZだけに、”スポーツ”というだけでなくグランツーリスモ、つまり”GT”的な性格も求められる。そういう意味では9速AT車もフェアレディZのキャラクターだ。
6速MTでは”FRの洗礼”を激しく受けたわけだが、ATであればまだまともに走れるかもしれない……。

フェアレディZ Version ST(9速AT)
フェアレディZ Version ST(9速AT)
ATのシフトればー形状は、日産の他車種ともよく似ている。ただし、パターンはストレート+「P」スイッチ。
走行は「STANDARD」モードで行った。

9速AT……とは言っても、結局「D」レンジでしか走っておらず、マニュアルモードでのシフトチェンジは全くしなかった。そのせいなのか、そもそもAT車の設定なのか、6速MTで嫌というほど体感した”FR的挙動”が出なかった。
スタート時のリヤタイヤの空転感もエンジン回転の割に動かないスピードメーターで確認できるくらい。ステアリング操作に対する挙動は始終安定方向に保たれており、オーバーステアに転じることがほぼない。アンダーステア中にアクセルを大きく開けてパワーオーバーステアでリヤを振り出そうとしても制御が介入してパワーが絞られてしまう。

明らかに6速MTよりイージードライブではある。

FR的挙動を楽しむことはできなかったが、氷雪路であればむしろこちらが正解かもしれない。慎重に走っている分には、6速MTよりもイージードライブで安心感も高いと思う。常に操作に緊張が強いられるよりは疲労感も少なくなるのは間違いない。
氷雪路とはいえ、フェアレディZにこのようは設定は正直意外ではあったが、ドライブモードを変えればまた違ってくるのだろう。自分にそこまでの技量がないことが重ね重ね悔やまれるが、とても貴重な体験ではあった。

どうすればこのような姿勢が作れたのだろうか……?

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