ガソリンとディーゼルどちらを選ぶ? 大幅に進化した3世代目カングー待望の国内試乗! 【新型ルノー・カングー試乗記】

日産エクストレイルや三菱アウトランダーとも供用する最新CMF-C /Dプラットフォームを得て、大幅にブラッシュアップされた新型カングー。「商用」をベースとするカングーだが、最新世代は「乗用」としての乗り心地や快適性が大きく向上している点が見逃せない。ADASの大進化もそのひとつだ。
REPORT:安藤 眞 PHOTO:中野幸次

ADASのデキの良さは感動レベル!

スリーサイズは全長4490mm×全幅1860mm×全高1810mm。先代にあたる二代目カングーは4280mm×1830mm×1810mmだから、210mm長く、30mm幅広になった。全高は先代と同じ。
「クレアティフ」は日本独自に用意される無塗装のブラックバンパー仕様。“商用車感”が人気だ。
日本導入仕様は人気の6:4分割観音開き仕様。車幅拡大はわずか30mmだが、どっしりとワイドに見える。

“デカングー”と呼ばれたカングー2のデビューから数えて14年。いよいよカングー3がデビューした。カングー2の最終型で大人気となったディーゼルモデルも正式にラインナップされ、ADAS(運転支援システム)も充実したカングー3の魅力を探っていこう。

ボディサイズについてはスペックを参照いただくとして、ここではインプレッションを中心にお届けする。まずはディーゼルエンジン搭載車から。エンジンは旧型最終限定車と同じK9K型だが、最大トルクは260Nmから270Nmへと高まっており、発生回転数も250rpm低い1750rpmとなっている。トランスミッションは6MTではなく、湿式多板クラッチ式の7速EDCを組み合わせる。

ディーゼルは、1.5Lターボ。旧型最終限定車にも搭載されるK9K型だが、270Nmへとトルクアップされている。
ガソリンは、キャプチャーやルーテシアにも積まれる最新の1.3Lターボで、131ps、240Nmのスペックだ。

アイドル時の振動・騒音はディーゼルのそれだが、アイドルストップ装置が付いているため、暖機が済めばアイドリングはほとんどしなくなる。低速走行中もエンジン音はそれなりに聞こえ、ロードノイズや風騒音が優位になる60km/h程度までは、ディーゼルらしい音質が伝わってくる。低回転から加速する際のゴロッとした振動も、ディーゼルのそれだ。

低速域のトルクは力強い。過給圧が高まらない領域はEDCが賢くカバーし、発進時は2300rpmぐらいまで引っ張ってから2速にシフトアップ。過給圧が高まってからは、太いトルクでグイグイと加速していく。130kg増加した車重もものともしない。

人気の観音開きドアは、内側にも開閉ノブがあり、室内側からもスムーズに開けることができる。
通常約90度まで開くドアは、ストッパーを外せば写真のように約180度まで開くことも可能だ。

変速マナーも良く、ショックレスでポンポンと上の段にシフトアップしていく。高速合流時のダウンシフトも素早く、滑らかさは遊星歯車式ATにも遜色はない。

少し物足りなさを覚えたのが、80km/hからの追い越し加速だ。低速域の力強さからイメージされる加速感には、少し及んでいない。この領域は最新ディーゼルを搭載するライバルに分があるが、カングーを好む層なら、あまり気にしないかもしれない。

高速走行に入ると、ディーゼルエンジンであることはまるでわからなくなる。100km/h走行時のエンジン回転数は、タコメーター読みで1700rpm。静かな巡航が楽しめる。

タイヤサイズは205/60R16。今どき希少な60扁平だ。クレアティフには、写真のハーフキャップが付属する。
日本仕様のためにわざわざ用意された前後の無塗装ブラックバンパー。“バン”を強調したスタイリングが好みならおすすめ。

高速道路ではADASを試してみたのだが、このデキがすこぶる良い。レーンセンタリングアシストの制御が滑らかで、車線内を行ったり来たりする“ピンボール現象”はまるでないし、遅いクルマに追いついて追い越し車線に出る際も、車線を跨いだタイミングで素早く加速が開始される。

特に気に入ったポイントがふたつ。まず、ハンドル保持警告が神経質でないこと。この手のシステムを使用する際、僕はほとんどハンドルに力を入れないので、モデルによっては頻繁に保持警告が出るのだが、新型カングーはその頻度が低いし、警報も表示だけなので煩わしさがない。センサーは静電容量式ではなくトルク式なのだが、さじ加減が絶妙だ。

もうひとつは、ブラインドスポットインターベンション(後側方車両検知警報)の警報が適切であること。車線変更を行う際に、後方から併進する車両をやり過ごしてウィンカーを操作すると、すでに対象車が通り過ぎかけているのに警報を発するシステムが多い。しかし新型カングーでは、そういうことは一度もなかった。しかも本当に危険なシーンになると、電動パワーステアリングを使って回避方向に操舵アシストが行われる(らしい)。

新型カングーのADASは、キャプチャー以下Bプラットフォーム車より1クラス上のシステムを使用しているそうで、制御も総じてドライバーの感覚にフィットするものだった。

最新のCMF-C /Dプラットフォームで乗り心地が大進歩

インテンスグレードは前後カラードバンパーとフルホイールキャップを装着。
ブラックバンパー仕様とはだいぶ印象が異なるが、乗用としては、もちろんこちらが世界中の市場における標準仕様だ。

続いてガソリン車に乗り換える。エンジンもトランスミッションも刷新されており、キャプチャーやルーテシアと同じ1.3Lターボと7速EDCの組み合わせとなる。

先代のラウンド形状から直線基調でシャープなイメージに変わったインパネ。ヘアライン仕上げも施され、上質感がアップした。

発進から一般路走行時のトルク感はディーゼルと大きな差はなく、むしろディーゼルより過給前後のトルク差が小さいので、車速のコントロールは滑らかにできる。シフトアップは5速ぐらいまでは2200rpm前後で律儀に行われる。最高出力発生回転数がディーゼルより1250rpm高いこともあり、追い越し加速の伸び感はディーゼルを上回る。100km/h走行時のエンジン回転数も約1800rpmと、十分に低い。

ディーゼル、ガソリンともに、トランスミッションは7速AT(7EDC)を採用する。
7インチのカラー液晶メーターは、クレアティフ、インテンスに標準装備。

ライドフィールにも、微妙な差がある。ディーゼルより車重が軽い(前50kg/後40kg)ため、操舵応答の軽快感はガソリン車のほうが良好。一方で、相対的にバネ上が軽いため、荒れた路面でのバウンシング(上下動)は、ディーゼルモデルより少し大きい印象がある。

左右独立温度調整が可能なデュアルゾーンオートエアコン。ダイヤルもデジタル表示クリック感も上質だ。
8インチタッチスクリーンはUSBポートを備え、Apple CarPlayやAndroid Autoとの接続も簡単。

とはいえ、刷新されたプラットフォームは日産“エクストレイル”や三菱“アウトランダー”と供用する最新のCMF-C/D。そこに最大積載量1トンを見据えた補強が加えられているため、操舵応答性や旋回中の安定性、荒れた路面での乗り心地の良さは、エンジンに関わらず大進歩している。特にサスペンションのフリクション感や、減衰の立ち上がりすぎが抑えられており、うねった路面で左右に揺さぶられる挙動は大幅に小さくなっている。

旧型オーナーが気になるとしたら、最小回転半径が5.4mから5.6mへと大きくなっていることか。実際、狭い道での鋭角ターンや駐車場で取り回した際、「自分のカングーなら、ここからもう少し切れ込むんだけどな」と感じたシーンが何度かあった。

2列目は、フランス車ではお馴染みの3座独立レイアウト。頭上空間は広大だ。
先代比で肩まわりやサイドサポート部分が広がった。税妙な高さが視界の良さを生む。

燃費についても報告しておこう。一般道約5km+高速道路約45kmを50分前後で走るというコースを往復し、ディーゼルモデルが20.8km/l、ガソリンモデルが17.2km/lという結果となった。燃費に有利な環境とはいえ、なかなか優秀な値である。

では旧型オーナーは買い換えるべきかというと、これはなかなか難しい。動力性能や乗り心地など、基本性能は大進化しているし、ADASやスマホ連携ディスプレイなども最先端のレベルに追いついた。しかし、車両本体価格は384万円からと、130万円ぐらいのアップとなり、ディーゼルモデルは400万円を越えた。

とにかくスクエアで、左右の内張りに出っ張りがないのが特徴。最大荷室長は1880mm。
2列目使用時でも1030mmの奥行きを確保する。

品質や装備、為替レートの変動を考えれば「妥当」というほかはないのだが、チープ&シックに惹かれてカングーを選んだ層に、響くかどうか。不便さや飾り気のなさを自分流のカスタマイズでカバーするのもカングーの楽しみのひとつだっただけに、そうした隙がなくなった新型では、物足りなく思うユーザーもいるかもしれない。

2列目格納状態はサイドから見るとこんな感じ。倒したシートバックは完全にフラットにはならず、多少の傾斜が残る。

とはいえ、裾野は確実に広がるだろう。シトロエン・ベルランゴやプジョー・リフターと比較するユーザーが増えそうなのも、間違いないと思うが。

購入を決めてからも悩ましいのが、ガソリンとディーゼルのどちらを選ぶか。動力性能に大きな違いはないし、操安性や乗り心地も「味」が違う程度で、優劣があるわけではない。低速域でのドライバビリティや振動騒音の面ではガソリン車に分があるが、それが気にならないならディーゼル、という選びかたでも良いのかもしれない。

走りの質感、ADASを始めとする先進装備や上質感が大幅に高まった3代目カングー。
ルノー カングー(ガソリンモデル)

インテンス                3,950,000円
クレアティフ               3,950,000円
ゼン(受注生産車)            3,840,000円
プルミエールエディション(特別仕様車)  4,005,000円

ルノー カングー(ディーゼルモデル)       

インテンス                4,190,000円
クレアティフ               4,190,000円
プルミエールエディション(特別仕様車)  4,245,000円
ルノー カングー インテンス(ガソリン)


全長×全幅×全高 4490mm×1860mm×1810mm
ホイールベース 2715mm
最小回転半径 5.6m
車両重量 1560kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン R:トーションビーム
タイヤ 前後:205/60R16
ホイール 6J×16 

エンジン 直列4気筒DOHC 16バルブターボ
総排気量 1333cc
最高出力 96kW(131ps)/5000rpm
最大トルク 240Nm(24.5kgm)/1600rpm
トランスミッション 7速AT(7EDC)

燃費消費率(WLTC) 15.3km/l

価格 3,950,000円
ルノー カングー クレアティフ(ディーゼル)


全長×全幅×全高 4490mm×1860mm×1810mm
ホイールベース 2715mm
最小回転半径 5.6m
車両重量 1650kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン R:トーションビーム
タイヤ 前後:205/60R16
ホイール 6J×16 

エンジン 直列4気筒SOHC 8バルブターボ
総排気量 1460cc
最高出力 85kW(116ps)/3750rpm
最大トルク 270Nm(27.5kgm)/1750rpm
トランスミッション 7速AT(7EDC)

燃費消費率(WLTC) 17.3km/l

価格 4,190,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…