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ニッサンR381やスカイラインGT-Rの活躍に心踊らされた時代
古いクルマを表す名称としては、「旧車」、「クラシックカー」、「ビンテージカー」、「ヒストリックカー」といった具合にさまざまな呼び名が存在するが、今回取り上げる「ネオクラシックカー(通称:ネオクラ)」は、クラシックといえども1980年~1990年あたりに製造された比較的新しいクルマを指す名称だ。
筆者がクルマに乗り始めたのは1976年からだが、幼いころからクルマ好きだったこともあり、1960年代にレースで活躍したニッサンR381や3代目KPGC10型スカイラインGT-Rの雄姿に心踊らされたものだ。それだけに、スカイラインへの憧れがとても強い世代といえる。
1970年代~1980年前半はスカイラインとセリカに人気が集中
運転免許を取得する前からスカイラインに憧れていた筆者は、まだ学生だった1970年代後半に念願のC111型スカイライン(通称:ケンメリ)を中古で購入。当時、若者の間では、ケンメリとセリカ・リフトバック(通称:セリカLB)で人気が二分しており、両車の愛好者が想い想いのチューニングを施し、カッコよさや速さを競っていた。
その後もスカイラインへの情熱は冷めず、社会人になったと同時にC211型スカイライン(通称:ジャパン@角目)を新車で購入。当時は、第一次オイルショックや排気ガス規制対策の影響で、スカイラインGT-Rは姿を消していた時代だったが、スカイライン・ジャパンが角目にマイナーチェンジされたことを機に、お馴染みのL20型エンジンにターボチャージャーが装着されたので、飛びついて購入した記憶がある。
スカイラインの人気を決定づけたのは4代目スカイライン(通称:ケンメリ)
ニッサン・スカイラインは1957年の登場以来、60年以上13世代の歴史を持つ、日本を代表するベストセラーカーだ。その人気の火付け役となったのが、3代目 KPGC10型スカイラインGT-Rの日本グランプリでの活躍。これがきっかけで市販モデルの3代目スカイライン(通称:ハコスカ)は、「羊の皮を被った狼」と称されて当時のクルマ好きたちの心を鷲掴みにし、ここからスカイライン神話が始まった。
3代目スカイラインのハコスカは、現在でも旧車好きの間で人気のクルマだが、それ以上の人気を誇っているのが、1972年に登場した4代目スカイライン(通称:ケンメリ)だ。
ケンメリの愛称は、発売と同時にTVCM、新聞、雑誌などで展開された「ケンとメリーのスカイライン」という広告ンペーンに由来している。若い外国人風の男女が、4代目スカイラインに乗って全国各地を旅するストーリーだが、クルマそっちのけでデートシーンを繰り広げるロマンチックなCMは、社会現象を巻き起こすほど人々に強いインパクトを与えて一世風靡。その結果、歴代スカイライン中でトップの約67万台を販売し、不動の人気を得ることに成功した。
4代目スカイラインのケンメリが、大人気となった要因は広告以外にもある。それは、1973年に発売された2代目GT-RにあたるKPGC110型(通称:ケンメリGT-R)の存在だ。
エクステリアは、レースを意識したオーバーフェンダーやリアスポイラーが装着され、フロントグリルもほかのスカイラインとは異なるスポーティーなデザインを採用。エンジンは、初代GT-Rと同様に2ℓ6気筒DOHCのS20型を搭載し、スピードメーターは240km/hまで刻まれていた。
ケンメリGT-Rは1973年1月から生産を開始したが、当時、喫緊の課題であった排気ガス規制対策などの関係から、同年4月までの4か月間でわずか197台を生産しただけで生産中止となり、結局レースにも出場することなく姿を消した。
この希少性の高さから、ケンメリGT-Rは「幻のGT-R」と呼ばれるようになり、当時の若者の羨望の的となった。2代目GT-Rやケンメリが、現在でも旧車好きの間で珍重されているのは、ここが大きく影響しているわけだ。
ネオクラブームの背後にはアメリカの25年ルールと国内の事情が存在
今回、紹介した通称ケンメリやジャパンと呼ばれるスカイラインは、1970年~1980年代前半に販売されたクルマなので、ちょうどクラシックカーとネオクラシックカーの狭間にあたるカテゴリーかもしれない。参考までに、この記事を書くにあたって現在の市場価値を調べてみると、オリジナルに使い状態の場合、ケンメリ2000GTで1500万円、ケンメリGT-Rに至っては5000万円、ジャパンでも800万円程度の値を付けて取り引きされている事例があった。
これらのクルマを現役ユーザーとして乗っていた筆者とって、この高騰ぶりは異常に感じられるが、これには時代背景に関連する2つの要因がありそうだ。
ひとつめはアメリカにおける日本車の人気。通常、アメリカでは右ハンドル車を登録することが認められていなが、製造から25年を経過していれば輸入・登録ができる「25年ルール」という制度がある。さらに「25年ルール」には、関税や排ガス規制も対象外になる優遇措置もあるので、この制度に当てはまるネオクラシックカーに人気が出て価格が高騰するわけだ。
もうひとつは国内の旧車を取り巻く環境だ。平成27年から重課税制度が施行されたことで、製造から13年以上経過したクルマは自動車税が高くなるので、古いクルマのユーザーが手放すきっかけになっていること。その一方で、日本では2年ごとに厳しい車検があるので、ネオクラシックカーといえどもクオリティが高く、島国ゆえ欧米と比べると走行距離も圧倒的に少ない。つまり、アメリカ人にとってみれば、日本のネオクラシックカー上物が多く、とてもお買い得というわけだ。
とはいえ、国内でのネオクラシックカー人気は収まる気配がない。なぜならば、前述のとおり、この時代のクルマには数々の栄光や希少価値があり、新しいクルマでは味わうことのできないノスタルジックな雰囲気を持っていること。さらに、ほぼすべてを電子制御されている最近のクルマと異なり、アナログ的な要素が数多く残されているので、自分好みのカスタムをしやすいことが大きな要因なのだろう。