決して手を出してはいけない!? 禁断の中古ジャガーを買うとドロ沼にハマるのか? 【XK8購入記 Vol.1】

中古ガイシャのなかで手を出してはいけない筆頭のように例えられるのがジャガー。曰く「壊れる」「修理代が高い」などなど、すでに都市伝説のように語られている。でも果たしてそうなのか? ここでは筆者自ら清水の舞台から飛び降り、人身御供となって中古ジャガーの真実を探ってみる。
PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)

20数年落ちのジャガーはどうなのか?

1997年式ジャガーXK8クーペを買ってみた。

今から30年ほど前、「いだてん」という輸入車専門誌の編集部に在籍していた。まだまだバブルの余韻が残る時代で、高級ガイシャが街に溢れていた。誌面に登場するのも高級車が多かったわけで、必然的に20代の編集部員には似合わぬ高級車を運転するのが日常だった。それは楽しい取材の連続だったが、この時期に経験したなかで最も感銘を受けたのがジャガー。デイムラー・ダブルシックスとXJ-Sの広報車を借りて乗る機会に恵まれ、それはそれは良い経験になった。それ以来、いつか買おうと考えてきたのがジャガーなのだ。

伸びやかなスタイリングはEタイプの再来とも言われた。

長年の憧れだったジャガーとはいえ、意中の5.4リッターV12エンジンはさすがに手が出ない。故障時の修理代や高額な自動車税(まして重課税される)は貧乏な筆者にとり現実的ではない。ただ、フォード傘下になって開発された4リッターV8時代なら大丈夫そうに思える。事実、以前に比べたら故障やトラブルは少なく、知り合いのX300乗りに聞けば「エンジンは大丈夫だけどミッションは3回壊れた」とのこと。とはいえ、ミッション以外で困ったことは少ないそうだ。1996年に発売されたXK8は、まさにフォード傘下になり新開発したV8エンジンを初搭載したモデル。スタイルは往年のEタイプを彷彿とさせる流麗なもので、個人的にジャガーの歴代モデルで屈指の名デザインだと思う。新車価格は1千万円近かったから絶対買えないと思っていたが、近年は中古車価格が底値ともいえ現実的な選択肢になっていた。

スーパーチャージャーがつかない自然吸気モデルのXK8。

貧乏な筆者でも買えたのだから格安物件だったカーニバルレッドが麗しいXK8クーペ。内外装とも色々とダメな部分はあるのだが、乗るのが恥ずかしいレベルではない。購入からすでに1000キロ以上を走って、電装部品などに困った点が複数あるものの深刻なトラブルには遭遇していない。困った点の一つにリモコンキーが使えないことが挙げられる。ディーラーに持ち込み診断してもらうと、本体が壊れているため新品交換しか対処法がないとのこと。おまけにリモコン1つが11万円もする! 帰宅して修理できる業者を探したところ、良心的に思える価格設定をしている専門店を見つけた。早速相談メールを送って点検に持ち込むことにした。

V12の後継として新設計された4.0リッターV8エンジン。

専門店であるJ-Gear Labの長澤秀則さんはジャガーディーラーにお勤めだった方で、X300系XJ6やX100系XK8が新車だった時期の全国サービスコンテストで優勝した経歴の持ち主。信頼に足る方と巡り会えたことは幸運だったが、点検してもらい愕然とする事実が発覚。盛大にエンジンからオイル漏れを起こしているのだ。この4.0リッターV8はタイミング機構にベルトではなくチェーンを用いているため、定期的な交換は不要。だからメンテナンス不足になる個体が多いと思われ、我がXK8もそのような状態だったのだろう。その場で補修部品の手配を頼み、後日XK8を預けることとなった。

V8エンジンのオイル漏れを直す

フロントカバーから大量のオイル漏れ発覚!

エンジンのフロントカバーからのオイル漏れを直すには、ヘッドカバーとフロントカバーを外してパッキンやガスケットを交換すれば良い。だが長澤さんの経験によると、このV8エンジンはタイミングチェーンに使われているテンショナーやダイドに問題が多々あるとのこと。そこでタイミングチェーンやテンショナーなど一式を交換することになった。まずフロントカバーを開けるためラジエターの強制ファンなどを外す。さらにドライブベルトを外したのが上の写真だ。

カバーを外してタイミングチェーン周辺を確認。

続いてヘッドカバーを外してからフロントカバーを外したのが上の写真。すでにタイミングチェーン周りの部品を外した状態で、こうして見ると整備性は悪くないように思える。

内側が元の部品で外側が対策部品。
樹脂製テンショナーは崩壊寸前だった。
チェーンガイドには無数のひび割れが。

タイミングチェーン周りの部品を改めて見ると、いやはや酷いことになっていた。チェーンの弛みを調整するテンショナーは樹脂製で、ここが割れて粉砕するとチェーンの張りを維持できずコマ飛びを起こす。バルブ開閉のタイミングがズレてしまうため、最悪ヘッドのオーバーホールが必要になる。

我がXK8ではテンショナー本体がすでにひび割れ粉砕寸前だった。おまけにテンショナーのチェーンと当たる部分は触っただけでポロリと剥がれ、こんな状態で1000キロ近く走っていたことが怖くなるほどだ。さらにチェーンガイドにもひび割れが多数発生していて、いつ割れてもおかしくない状態。対策部品を揃えておいて良かったと心底思えた。

フロントカバーのパッキンやシール類を全交換。
ヘッドカバーガスケットも交換する。

タイミングチェーン周りを組み付けたら、最後にパッキンやガスケット、シール類を交換して各種カバーを閉じれば作業は終了。いきなりの大手術となったわけだが、気になるのは費用だろう。長澤さんはこの手の修理に純正部品を使わない。というのもヨーロッパ車、特にイギリス車は豊富な社外部品が揃うことで知られ、それらの多くは純正の弱点を補うように対策が施され、しかも安価。

定期的なメンテナンスや部品交換が前提で設計されるヨーロッパ車だから、高価な純正部品より安価な社外部品を選ぶのが現地では自然なことなのだ。ここまでの作業にかかった費用の合計は、驚きの10万円台後半。ディーラーに頼んだら倍以上の金額になったことだろう。

右バンクのVVTが作動しない。

ただ、おまけもある。今回の作業で右バンクのVVTが作動しないという事実が明らかになった。このV8エンジンには可変バルブ機構が採用されている。低速側と高速側へ油圧により切り替わるもので、高速側へなった後で低速側へ戻るにはスプリングの反力を使っている。このスプリングが寿命なのか不明だが、左バンクは大丈夫なのに右バンクでは工具を使って高速側に切り替えても元に戻らないことが確認された。乗っていて不具合は感じないため、しばらく頻繁にオイル交換をして様子を見ることにした。

このように買ってはいけない中古ガイシャの代表と言われるジャガーは、やはり手がかかるものだった。ただし、すべての修理や作業をディーラーに頼まず、長澤さんのようなスペシャリストを頼りつつオイル交換などの基本的なメンテナンスを自ら行えば、決して維持できないものではないことも見えてきた。まだまだ問題の多いXK8なので、他にもトラブルの見本を紹介できるだろう。近いうちに続編をお伝えするつもりだ。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…