内燃機関の底力を見せつけた新設計直6ディーゼル「マツダCX-60」【最新国産新型車 車種別解説 MAZDA CX-60】

新たに設計された直6ディーゼルエンジンが搭載された注目の「マツダ CX-60」。ディーゼルの他にも多彩なパワーユニットの組み合わせが用意され、ラインナップは16グレードに及ぶ。ラグジュアリーかつスポーティなスタイリングに、シンプルで上質なインテリアが好バランスだ。基本機能が10年間無料の通信端末を活用したコネクティッドサービスは全車標準装備で、安心と安全も提供される。
REPORT:安藤 眞(本文)/工藤貴宏(写真解説) PHOTO:神村 聖/中野孝次 MODEL:花乃井美優

トルクコンバーターレスのオートマチックを採用

日産と三菱から軽EVが発売され、「いよいよEVの本格普及期か!?」との声も聞こえた2022年。新設計のディーゼルエンジンを搭載して登場したのがCX-60だ。逆張りにも見える戦略だが、冷静に考えれば、カーボンニュートラルの目標とされる50年までまだ27年もある。

新エンジン用の金型や工作機械を20年間、使うとしても、7年の余裕があるから、むしろ今こそが「内燃機関を新設計できる最後のチャンス」と言うこともできるし、EVだってバッテリー性能や給電インフラがどうなるかで盤石とは言えず、「やっぱり内燃機関との共存が必要」となる可能性だってないわけではない。

エクステリア

ロングノーズのFRスタイルはこの角度からも確認できる。フロントドアとフロントタイヤの間隔が長くFFレイアウトにはない安定感がある。またゆったりとテールに向けて下がってくる造形がラグジュアリーでスポーティ。最小回転半径は5.4m。

そんな状況なので、ディーゼルエンジンに注目が集まりがちなCX-60だが、パワーユニットのラインナップは多彩。2.5ℓ直列4気筒ガソリンエンジンと、それに129kW/270Nmのモーターを組み合わせたプラグイン・ハイブリッド(PHEV)仕様も用意される。

後者は充電電力だけで75㎞走行可能(WLTCモード)。充電時間は一般家庭に設置しやすい3kW充電器で約7時間。急速充電器にも対応しており、電動化を視野に入れていないわけではない。

乗降性

専用開発されたトランスミッションもユニーク。トルクコンバータを廃止し、代わりに湿式多板クラッチを装備する。もとよりマツダのATは、発進するときだけトルコンを使い、あとはほとんどロックアップを解かないから、むしろ正常進化と言える。

しかもトルコンの代わりに電気モーターを入れ、その内側に多板クラッチをレイアウトすることで、エンジンを切り離してのモーター走行とエネルギー回生を可能にする〝1モーター+2クラッチシステム〞を成立させている。

インストルメントパネル

センターコンソールのワイド感も含め、上質な印象がある。物理スイッチの数は多いのだが、効率的にまとめたことで煩雑さのないシンプルな構成としている。

でもモーターで発進できるハイブリッド系はともかく、純エンジン使用の発進制御やクリープ走行は難しいのでは? という疑問にも対策済み。油圧だけでは制御の困難な微小トルク伝達のために、クラッチにプリロードを掛けるスプリングが付いている。

停止時にはこのスプリング力に打ち勝つ程度の油圧を掛けてクラッチを解放。油圧を抜けば、プリロードでクラッチプレートが密着し、そこから徐々にエンゲージ側の油圧を高めていけば、微小トルク伝達の制御が滑らかに行なえる。

居住性

サスペンションに対する考え方も一新。リヤサスは5リンクマルチだが、トーコントロールは積極的には行なわず、ジオメトリー剛性を高める設計。トーをフラフラさせないことで直進性を確保し、フロントサスのキャスター角を弱め、キャスターアクションによる操舵力の変動やトレールに起因するヨー方向の動きを抑制。操舵初期から滑らかでクリアなフィーリングを作り出している。

僕が試乗したのはディーゼルハイブリッドだけだが、発進は滑らかだし、エンジン稼働時の振動も極小。エンジンサウンドにはディーゼル特有の音質があるものの、煩わしさを感じるほどではない。乗り心地は低速域での硬さが指摘されがちだが、僕の感覚ではまったくの許容範囲だ。

うれしい装備

ボンネットフードのキャッチは左右2ヵ所。そして開閉にはダンパーを備えるので、開けた位置でそのまま止まる。閉めるときには、ダンパーが効かない位置まで下げると、あとはスムーズに閉じることができる。
「Lパッケージ」以上は、電動テールゲートを標準装備。従来に比べてトーイングヒッチをつけても非牽引時はハンズフリーが利用できるようになった
フルモデルチェンジ          22年4月7日発表
月間販売台数             1149台(8月~12月平均)
WLTCモード燃費            21.1km/ℓ ※XD-HYBRID Exclusive Sports/Modern

ラゲッジルーム

驚かされたのが実燃費。新東名高速道路の120㎞/h区間を走り、伊豆の山を登り降りして19.8㎞/ℓを記録した。1.9t超えのSUVが軽自動車並みの低燃費で走る日が来ようとは、誰が予想しただろうか。

※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.147「2023 国産新型車のすべて」の再構成です。

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