ユーノスロードスター(NA)に今乗るとどうなのか
1989年(平成元年)発売のユーノスロードスター(NA型)は、いつの間にか消えてしまったオープンボディの「ライトウェイトスポーツ(LWS)」をなんとか復活させたいと、発売当時最先端の高い技術を導入し、安全性と信頼性を担保しつつこれを見事に実現させたモデル。しかも専用開発された4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションとパワープラントフレーム(P.P.F.)を備え、ダイレクト感のあるマニュアルミッションのFRというとても魅力的なメカニズムを持っていた。
サスペンションアームは頑丈な前後のサブフレームに装着され、衝突安全性が高く、サスペンションの支持剛性やアライメントの自由度がとても高そうに見えた。小さなオープンカーでありながら、安全性と走りには手を抜いていないことがはっきりと伝わり、スポーツカーファンを唸らせた。
世界中のメーカーから似たようなクルマが発売されるほどの一大ブームを巻き起こし、それから30年以上、ライバルたちは消えてもロードスターは改良とフルモデルチェンジを重ね、今も最新のマツダロードスター(ND型)が現行モデルとして売れ続けている。世代を追うごとに時代に合わせ、乗りやすく、快適性も向上したロードスターは多くの人々に今も愛されているのだ。
その一方で「あの、初期型NAの走りが好きだ!」というファンは今なお多い。「NAの走り」を気軽に体感できるのは、あと何年だろうか。そんなことを考えている時に当時、筆者が購入したユーノスロードスター1600(NA6CE)と全く同じ平成2年(1990年)のほぼフルノーマルの車両を知人から譲ってもらえる機会に恵まれた。
初代ユーノスロードスター(NA)開発責任者の平井敏彦氏が開発にあたり提唱されたのは、「人馬一体」と「感性」である。「一体感」、「緊張感」、「走り感」、「ダイレクト感」、「爽快感」を統合したものが「人馬一体」であるが、「元祖の人馬一体」の走りはその全てにおいて、やはり凄かった。
そのひとつひとつが人々の心に訴える「感性」の問題であると考え、絶対的な「速さ」は重要視されていない。「クルマを操る楽しさ」をドライバーが感じるフィーリングを「どこで、どのように際立たせるか」の方を優先に開発されというNAは「モノよりコト」が大事な現代こそ、見直されるべき、貴重なフィーリングを持っている。
勇ましいエンジンの音、抜群のアクセルレスポンス、小舵角で曲がれる超クイックなステアリングとハンドリング。高い直進安定性、ダイレクト感溢れるシフトフィール。手足のように操れる車体はまるでバイクに乗っているかのようである。まさに「人馬一体」で、ワインディングは「楽しくて仕方ない」。誤解を恐れずに言えば、「最もバイクに近いクルマ」、「バイク感」というのが初代ユーノスロードスター1600(NA6CE)だ。
軽量化と「割り切り」の精神も初期型NAの大きな魅力だ。「大男は対象にしない。定員2名に必要な最小限の室内空間と限られたラゲッジスペースがあれば良い」という割り切りの元、10年以上前の他車種の軽い内装部品を流用するなど、必要最小限の装備で手頃な価格と940kg(ベースグレード)の軽さを実現した。
筆者のようにSサイズの服を着るようなドライバーにとってちょうどジャケットを羽織るように「着れる」数少ないスポーツカーなのだ。今乗ると軽自動車より小さく感じられるほどの「サイズ感」はNA独自のものだ。
小さく丸く、愛らしいデザインは老若男女、誰にでも似合いそうな佇まいで、どこか中性的かつ、ノスタルジックな雰囲気もあり、とても新鮮だ。
ロードスターはNB、NC、NDと歴史を重ねるごとに「誰にでも乗りやすく、快適性は向上した」のは間違いない。「安全性は向上し、最新の快適装備や見栄えの良い格好良さ」も手に入れたが、「元祖の人馬一体」からは遠ざかり、NDはかなり快適だ。「バイク感」はもはや感じられない。
ここでの「バイク感」とは、ブレーキングや曲がるための「荷重移動」や正確なクラッチミートやアクセルワークなど、上手く乗りこなすためには乗り手がそれなりにドライビングテクニックを磨き、練習しなければならないものであったり、路面からの振動やタイヤの感覚がダイレクトに感じられるものであったり、オープンによる風の巻き込みの多さであったりする。それは人によっては「乗りづらい」と感じたり、快適性が低く「疲れる」と感じたりするものである。
自動車メーカーとして「不具合の対応」や「お客様の快適性向上への要望」に応えていくのは当然のことであり、「良くなって何が悪い!」と言われそうだが、それらの改良によって初代NAにしかない「楽しさ」や「走り感」との差があるのは、紛れも無い事実である。「いや、全く同じだよ!」と感じる人はそれで良いけれど、筆者やNAをこよなく愛するオーナーたちは「NAとNDの違い」を大きく感じている。
「一体なぜだろう?」と筆者が長年に渡って考えてみた結果、初代ユーノスロードスター(NA )はフレッシュでピュアな「アイドル」のような存在なのではないかという結論に達した。例えば、突然現れ、魅力的なデビュー曲を緊張しながら、一生懸命に歌って踊るが、まだ「歌も踊りも未熟」なアイドル歌手を応援して、成長を見守りたいと人が感じる場合、「欠点」=「個性」であり、それが「魅力」なのではないだろうか。
そうだとすれば、ロードスターも初代NAだけが持つ「魅力」とは、デビュー時の「個性」であり、人によっては「欠点」と感じられるものなのかもしれない。「欠点」は改良され、やがて成熟した大人になっていくのは、人も車も同じで、ロードスターは長い時間をかけて、アイドル(NA)から、アーティスト(ND)になったのかもしれない。
正直、今NAに乗ると「欠点」だらけだ。ボディのチリはあってないし、インテリアの質感は低い。エンジン音は大きいし、サスペンションブッシュは硬い。ツッコミどころは満載である。キーレスエントリーやオートライトなどないのでドアの鍵は自分で開けて、エンジンは鍵を差し込み、回してかけるし、ライトは自分でON/OFFしなければならない。
しかし、可愛い「バイク」のカウルのチリやエンジン音、乗り心地を気にする人は少ないし、運転操作を面倒と捉える人も少ない。これらの「欠点」をどう捉えるかでNAとの付き合い方は変わってくるだろう。ちょっと勘弁だという人には自分に合った新しい世代のロードスターの方が良い。
NA発売当初は赤、青、白、銀の4色のボディカラーのみだったが黄色や緑色など、何色でも似合いそうだと感じた。「もし買ったなら将来何色にオールペイントしようか」「なんだこの程度なのか、仕方ないなあ。もっとこうすればいいのに・・・」「どんなパーツを買って、どんな風に自分仕様のカスタマイズをしようか」。若かりし頃、購入前から、そんな妄想を頂いていたことを思い出した。そんな「妄想」をさせてくれるのが初代ユーノスロードスター、「NA」が持つ普遍的な魅力と世界観なのだ。