目次
本格クロカン四駆軽自動車、ジムニーの「○と×」とは?
2018年7月に登場して以来、メーカーも予想だにしなかった大ヒットモデルとなったスズキ「ジムニー」。相変わらずの長納期待ちの状態が続いており、AT車にいたっては2年待ちの場合も。海の向こうではシエラの5ドアモデルがデビューし、ますます注目を集めているモデルだが、今回は日本で人気の660cc版について改めてその「○と×」をお伝えしたいと思う。
今更言うまでもないが、ジムニーは日本が世界に誇るミニマムオフロード4WDだ。元々は国内の360cc軽自動車規格として設計されたが、その後550cc、660ccと排気量をアップすると同時に、ボディサイズを拡大していった。
現在のジムニーは4代目モデルとなるが、2代目モデルの面影を色濃く反映し、デビュー当時のキャッチコピーは「原点回帰」だった。型式はジムニーがJB64型、シエラがJB74型となり、ユーザーには「64」「74」という数字で呼ばれることが多い。
ボディはオフロード4WDの基本となるスクエアなデザインで、これは障害物があったり、車体が斜めになるような場所を走った時に、車体の四隅がどこを走っているかが直感的に分かり、また車体がどれほど傾いているかがすぐ分かるようにという、四駆の元祖・Jeepの設計思想を受け継いだものだ。内装も車体の状態を把握しやすいように、限りなく直線的なデザインが採用されている。
トヨタ「ランドクルーザー250」がデビューし、「ランドクルーザー70」の国内販売が再開された現在は、スクエアなフォルムの四輪駆動車はよく目にするようになったが、ジムニーデビュー当時は鮮烈な印象をユーザーに与えた。ここまで四角いクルマと言えば、その頃はメルセデスベンツ「Gクラス」くらいであった。それゆえ、ジムニーのデザインを初めて目にした海外のメディアからは、「ベビーG」などというヒネリの利いたニックネームも付けられた。
スクエアでコンパクトなボディが◯だが、デメリットも…。
さて、ジムニーの「○」と言えば、一番はボディのコンパクトさだ。日本の軽自動車サイズが功を奏して、道路インフラの条件が厳しい国内において、入れない場所はほとんどないと言える。さらに、林業用の軽トラックしか入れないような林道でも、ジムニーなら4WDシステム、ロードクリアランスと相まって、ラクに走れる。
加えて、前述のスクエアボディのおかげで、樹木が道に張り出していたり、道に向かって灌木が生い茂っているような場所でも、簡単かつ直感的に避けることができるのも美点だ。
だが、その一方でこうした○が「×」に転じる場合もある。まずコンパクトゆえに、車内のスペースユーティリティはかなり低い。一応4名乗車となっているものの、後部座席の居住性はかなり厳しいものとなっている。また後席を倒して荷室にした場合も、多くのモノを積むスペースはない。そのため、レジャー派はルーフラックやルーフボックス、ヒッチキャリアを活用していることがほとんど。こうしたことから、5ドア(1.5L車だが)の日本登場が待ち望まれているわけだ。
スクエアなボディになったことにも弊害がある。それは、先代モデルよりも重心が高くなってしまったことだ。ジムニーのノーマルサスペンションが極端に悪いというわけでもないが、オフロード4WDに乗り慣れていない乗り替え組からは、「街中でもハンドルを切ると大きく揺れて気持ち悪い」とか、「コーナーで車体が傾くので怖い」といった声がそれなりにある。こうしたフィーリングは、サスペンションをアフターマーケット品に替えることで改善できるし、ノーマルサスで納得できるユーザーもいると思う。
扱いやすい直3ターボエンジンは◯なのだが…。
さて、搭載されているR06A型660cc直列3気筒インタークーラーターボエンジンは、スズキの様々な車種に使われている基幹ユニットだ。主にFF車で横置きに使われることが多いが、パートタイム4WDのジムニーのために縦置き用にリメイクされている。先代モデル搭載のK06A型エンジンに比べると、低回転から過給が始まり、万人に扱いやすいエンジンになっているのが「○」だ。
しかし、それはこのユニットのパフォーマンスが走行性能的に適正にセッティングされていればの話。周知の通り、昨今は世界的に排ガス規制が厳しくなっており、特に『CAFE規制』は自動車メーカーにとって生産活動に大きく影響する切実なものだ(ジムニーの長納期もこれのせいだと言われている)。こうした排ガス規制に適合するため、ジムニーのR06A型はECUのマッピングによって、かなり性能を絞られた状態に“デチューン”されているのである。
この設定は多くのユーザーがすぐに感じ取れるほどだ。具体的には、ゼロスタートから加速している途中で、いきなりECUが燃料を絞る制御を行うために“失速”するような感覚があるのだ。先代モデルのエンジンはピーキーな傾向があったが、高回転まできれいに回ったことから、それを知っているユーザーからは評判が良くない。
この症状は、回転数を上げがちなMTの方が強く感じるようで、ATの方がマシという声もある。こうした症状を改善するためアフターマーケットでは、ECUに疑似信号を送って騙す「サブコン」や、電子スロットルの開度を多めにECUに認識させる「スロコン」などを装着することで改善していた。しかし、今年に入ってからECUのデータ解析に成功したメーカーが現れ、改善のための交換ECUが発売され始めたのである。
筆者もこれを装着したJB64に乗ってみたが、同じクルマとは思えないほど軽快に走る。特に中速域、高速域での加速感は差が歴然。交換ECUは10万円前後のプライスで決して安いものではないが、あの走行フィールが得られるなら、どのチューニングよりもコスパがいいのではないだろうか。
トラクションコントロールが悪さをすることも…。
さて、再び「○」に戻ろう。ジムニーの4WDシステムは、初代JeepであるウイリスMB/フォードGPW以来のパートタイム4WDを採用している。雪道やフラットな砂利道などは4WD-Hiで走り、超悪路や牽引時には4WD-Lowを使用する。
先代はこの切り替えを電気スイッチで行っていたため、オフロードで全輪軸をタイヤに固定するオートフリーハブが外れてしまうとその後の操作が面倒だったり、車体が斜めになっている切り替えできないことあったりと、使いにくい部分があった。現行型はこれをオーソドックスな手動レバー式に戻し、かえって利便性が高まっている。さらに「トラクションコントロール」「ブレーキLSDトラクションコントロール」という電子デバイスを付けたことで、雪道や泥濘路、超悪路での走行経験がない人でもイージードライブが可能になった部分がある。
トラクションコントロールはESP内の機能のひとつで、2H、4H時にスリップを感知するとエンジンの出力制御とブレーキ制御を行う。一方のブレーキLSDトラクションコントールは、スリッピーな路面でタイヤが空転した時に、ブレーキでタイヤの空転を抑え、摩擦力を復活させて前に進ませるというものだ。また、前後輪対角線上のタイヤが空転することによって起こる「対角線スタック」を抑えることも可能だ。
昨今では多くのオフロード4WDやピックアップトラックに採用されているデバイスだが、ジムニーのものは時として“悪さ”をする。4Hでオフロードを走行中に、予期せぬ状態でトラクションコントロールが利き、エンジンパワーがいきなり失われて失速したり、エンジンを回して一気に障害地形を越えたいという時に、回転がまったく上がらないなど、ドライバーの意図にまったくそぐわない状態に陥ることがあるのだ。
4Lで作動するブレーキLSDトラクションコトンロールにしても、トルクダウンは行わないものの、ブレーキをつまむという制御が働くことで、思うように前進できないという現象が激しいオフロード地形で起こる。
これがATなら、トルクが失われてもトルコンでリカバリーする部分があるのだが、MTの場合は悲惨だ。1度外れてしまったトルクバンドに戻すことは、オフロードではかなり難しい。しかも、MTの場合はとにかく低回転トルクが乏しいため、オフロードでの走りの難しさ、というよりは厄介さはなおさら。
クロスカントリーランを本格的にやるユーザーは、トラクションコントロールのキャンセラーをアフターマーケットで購入して装着しているようだが、この商品は意外と高額だ。一層のこと、デフロックなどを装着してブレーキLSDトラクションコントロールが利かないようにしてしまった方がいいという声もある。