オトナだってやってみたい! クルマ職業体験「アウトオブキッザニア」をドラゴン山崎が大人気なくやってみた!【ジャパンモビリティショー2023】

現行型の日産フェアレディZの1/1クレイモデル。実際に日産が開発に使用したものを展示。
2019年の第46回『東京モーターショー』で好評だった『Out of KidZania in 東京モーターショー』が、さらに内容を充実して『Out of KidZania in JAPAN MOBILITY SHOW』として『ジャパンモビリティショー』でも開催されている。参加メーカーは子どもたちへの安全に配慮しつつ、リアルな職業体験ができるように充実したコンテンツを用意。大人から子どもまで、学び・楽しめる内容になっており、正直参加できる子どもたちが羨ましい。
REPORTZ&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

日本のくるま文化と自動車産業を次世代へ!

あれは15年くらい前のことだっただろうか? 何気なくTVの情報バラエティ番組を見ていたら、プリウスとランボルギーニの2台を並べて子どもたちにカッコ良いと思う方を選ばせるという企画をやっていた。当然ランボルギーニが選ばれるものと思っていたら、子どもたち全員がプリウスを選ぶという予想外の結果に……。
レポーターが理由を聞くと「燃費が良いから」「エコだから」「たくさん人が乗れるから」という理由で子どもたちは前者が好ましいと答えていた。反対にそうしたものを何ひとつ備えないスーパーカーは、存在そのものが悪であり、反動であり、社会から排除すべきもの故に「カッコ悪い」というのが彼らの主張だった。

カーボンニュートラルやSDGsを目指す一方で、各社はクルマの楽しさを多角的にアピール。ミニバンはもちろん、各社がスポーツカーのコンセプトモデルも展示した『ジャパンモビリティショー2023』。

まあ、所詮はテレビの企画だから仕込み(ヤラセ)である可能性は否定できないが、この時代はエコカーやミニバンが全盛期にあり、国産車のラインナップからスポーツカーなどの夢のあるクルマが絶えて久しく、子どもたちがクルマに興味も関心も持たなくなっても仕方がない状況にはあった。
筆者のような自動車に人生を捧げてきた人間からすると少々ショックな結果であり、このまま行けばいずれは社会からクルマ趣味などというものが存在する余地がなくなり、クルマ文化もまた消え去ることになるのだろうと悲観的な気持ちにさせられたものだった。

職業体験を通じてクルマに興味を持つことの意義とは?

人生の半ばも過ぎた筆者のような人間からすれば、もはや将来がどうなろうが知ったことではなく、「お前ら、エコと燃費だけが取り柄のつまらんクルマに乗ってせいぜい長生きしろ!」と悪態を吐きつつ、社会を諦観し、自分の殻に閉じこもってクルマ趣味に没頭し続ければ良いのかもしれない。

スバルは2016年のニュルブルクリンク24時間レースで優勝した「SUBARU WRX STI NBR チャレンジ 2016」を用いたタイヤ交換作業を体験できる。ボルトは子どもでも緩めやすく締めつけやすいトルクに設定するなどの配慮がなされている。市販車ベースとはいえ、レースを戦ったホンモノのレーシングカーを自分の手でいじれる機会は貴重だ。

だが、自動車ビジネスを永続的に続けて行くメーカーはそうはいかなかない。2010年代に入ると、目先の利益を追い求めてクルマのコモディティ化を押し進めた結果が「クルマの死」であることに遅まきながら気づき始め、こうした状況を放置する「やらないことのリスク」の危険性をハッキリと認識したというわけだ。

マツダはエンジンパーツで使用される砂型鋳造を体験できる。実際に使うアルミ素材よりも加工がラクな錫を用いてロードスターのメダルを製作する。

とくに先代トヨタ社長の豊田章男氏の危機感は本物だったようで、86(ハチロク)を復活させたり、ピンクのクルマを売り出したり、スープラをカムバックさせたりと、取りうる手段を最大限使って足掻いて見せた。そうしたトヨタの姿勢がわが国の自動車工業会全体にも影響したようで、各社は数が売れないことは承知の上でユニークで個性的な車種のラインナップを徐々に増やして行き、若年層にもクルマの楽しさや魅力をアピールするように変わって行った。

トヨタ「GRスープラ 100th エディション・トリビュート」(欧州仕様車)

 「東京モーターショー」としては最後となった2019年に、初の試みとして子ども向け職業体験型施設『キッザニア』とコラボレーションした『Out of KidZania in 東京モーターショー』を開催したのも、そうした流れによるものだろう。

『Out of KidZania in JAPAN MOBILITY SHOW』のトヨタブース。

これは大変ユニークな体験型アトラクションで、普段メーカーの第一線で活躍するカーデザイナーやメカニック、ベテランの職人がホスト役を務め、安全に配慮しつつ子どもたちが楽しく職業体験できるように手ほどきする。その内容はカーデザイン、エンジンの組み立て、タイヤ交換などさまざまだ。子どもたちの目は大人が考えるよりもずっと厳しい。

職業体験に取り組む子どもたちは真剣そのもの。メーカーが用意するコンテンツの本気度も高い。

職業体験という「ごっこ遊び」とは言え、本気でコンテンツを作り込まないと底の浅さを見透かされ、感動を与えることはできない。参加メーカーもそのことは重々承知しているようで、本物のレースカーを持ち込み、実際に現場で使っているツールの中から子どもたちが安全に使えるものを厳選して使わせていた。

『ジャパン“モビリティ”ショー』 ということで、ホンダはクルマからやや離れ、バーチャル空間で除雪機を使った雪かきを子どもたちに体験してもらう。出展内容は被らないようにメーカー間で事前協議しているのかと思ったが、そんなことはなく、各々が体験展示したい内容を自由に決めているそうだ。

前回はプログラムの充実度、各コンテンツの作り込み、安全に配慮しながらも現場のリアリティを伝える工夫などに感心させられた。そして、1万人が参加し、好評を得たことから、今回は内容をより充実させて『Out of KidZania in JAPAN MOBILITY SHOW』として開催されることになった。

実は親の方が楽しい!? 本物クレイモデル体験もできるクルマ版“キッザニア”はキッズ必見!【ジャパンモビリティショー2023】

ジャパンモビリティショー2023(旧:東京モーターショー)の会場に、人気のこども向け職業体験施設「キッザニア」とコラボレーションした「こども達が働く街」が出現! カーモデラ―やメカニックなど、クルマに携わる様々な職業を体験できるので、クルマ好きキッズには必見のエリアだ!

子どもたちがガチで羨ましい! 大人も学び楽しめる充実の内容

スズキはプロデューサーとして新しいモビリティの企画プレゼンを体験するというコンテンツを用意。

結論から言おう。今回は思わず大人でも参加したくなるようなプログラムが目白押しだ。子供でもクルマの開発・生産工程や整備作業が理解できるように展示が工夫されており、その内容がじつに深いので大人でも思いがけない発見や学びがある。

タブレットで背景やドライバー、車体色、積荷などを選んで、どのような用途に製品を使うかを子どもたちが考えるというもの。未就学児童でもエントリーが可能となっている。

しかも、使っている道具や素材は多少のデチューンこそあれ本物だ。筆者はこの取材にかこつけてマツダブースで砂型鋳造を体験させてもらったが、初めての作業ということもあり大いに楽しめた。
また、実際に参加はできなかったが、日産ブースのGT-Rのエンジンを使ったバルブクリアランスの調整は、旧車やバイクなどをDIYメンテしている人なら関心があるはずだ。なんと言っても先生役はR35のエンジン組み立て作業を行う匠である。日頃自己流で作業しているサンメカなら学び直しの意味でもトライしてみたいと思うことだろう。残念ながらこちら大人はエントリーできないのだが……。

日産は映像でGT-Rの紹介をしたのちにR35のエンジン製造を受け持つ匠の指導のもとでバルブクリアランス調整や、工具を使ってボルトの締め緩めを体験させる。
日産GT-R(R35型)。

エントリー対象は小学校1年生~6年生の子供たちとなるが、スズキブースの「新しいモビリティのプロデューサおの仕事」や三菱ブースの「カーモデラーの仕事」のように未就学児童でも参加できるプログラムもある。

Out of KidZania公式HPの予約フォームからのエントリーが基本だが、
会場で受付の当日参加枠も用意されている

参加方法はOut of KidZania公式HPからの事前予約が基本となるが、すでに土日は予約でほぼいっぱいに埋まっているという。救済策として当日予約の設定もあり、その場合は朝一番で入場し、キッザニアの受付からスマホを使って空いている枠を予約することになる。平日はまだ枠に余裕があるそうなので、学校の問題さえクリアできれば、空いているウィークデーを狙ってのエントリーが良いかもしれない。

『Out of KidZania in JMS2023』は南3・4ホールに配置。トミカやロボット、スーパーカーなど、キッズが楽しめるコンテンツが揃うエリアだ。

どの職業体験も参加は無料で、枠さえ空いていれば複数の仕事体験にエントリーすることも可能だ。エントリーは公式HPからの事前予約が確実だが、受付からスマホを使っての当日予約も可能となっている。その場合は先着順となるので、朝一番で入場し、東京ビッグサイト南館にあるキッザニア会場に直ちに向かおう。

日常生活ではなかなかできない貴重な体験ということもあり、エントリーした子どもたちの心には何かしら残るものはあるだろう。これをきっかけに乗り物に関心を持つ子は確実に増えるだろうし、そうなれば親子の共通の趣味としてクルマやバイクを一緒に楽しめるようになるかもしれない。ひょっとしたら将来技術者を目指す子や、メカニックになる子が現れるかも知れず、次世代の自動車工業会を支える若手を育成するという意味でも意義がある体験イベントだ。ぜひ今後とも継続してもらいたい。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…