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新型トヨタ・ランドクルーザー300、注目のGRスポーツを選んだ人は40%!?
冒頭から私事で恐縮だが、現在乗っている愛車がこの夏に車検を迎えることから、今年冒頭から噂のあった新型トヨタ・ランドクルーザーには興味津々だった。トップグレードはどうせ“満艦飾”だろうから、一番シンプルなベーシックグレードを狙っていこうかなどと、密かに考えていたのである。
果たして6月10日、日本では午前2時半という深夜に新型ランドクルーザー(通称300系)はワールドプレミアされた。以前より、新型のデザインについては漏れ伝わっていたのでそれほど驚かなかったが、「GR SPORT」の存在には驚かされた。その理由については追ってお話するが、いずれにせよランドクルーザーは14年ぶりに新型へと生まれ変わった。
日本ではコロナ禍の影響もあったのか、発売日が二転三転した。僕は4月からトヨタモビリティ(旧トヨタ店系列)に連絡を取り、新型の情報や先行予約について問い合わせていたが、当初はゴールデンウイーク明けには情報が入ってくるということだった。しかし、結局具体的な情報が販売店に下りてきたのは、ワールドプレミアから半月以上も経った7月1日だったのである。
この日より先行予約も始まったが、地方にあるトヨタモビリティ店では、営業力や顧客人数の違いを理由に6月下旬より先行予約が開始していたという。しかし、多くのユーザーはモデル情報を聞いてから購入を検討するわけだから、それほど急がなくても大丈夫なのではないかとタカをくくっていたのが正直なところだ。
しかし、実情はまったく違っていた。7月上旬には年間目標台数を遙かに超える受注が入り、先行予約だけで2万台を超えたというのである。そのため、7月14日で受注は一端停止となり、正式発売日の8月2日から再開されるということだった。しかし、現時点で納車はすでに1年以上先と言われ、今年中に納車される幸運なユーザーは希有という販売店情報だった。
発売1か月前にはある程度の情報をユーザーに知らせなければならないというコンプライアンス上の制約があるので、7月1日時点で日本仕様の情報はかなり詳細に知ることができた。
新型トヨタ・ランドクルーザーは「GX」「AX」「VX」「ZX」「GR SPORT」の5グレード構成
まず、ボディデザインには標準ラインとGR SPORTが設定されたのは、ワールドプレミアでも発表されていたが、標準ラインは下から「GX」「AX」「VX」「ZX」というグレード構成だ。
意外だったのは、ベーシックグレードである「GX」が510万円というプライスだったことで、想像よりも安めの値付けだったことだ。一方、最上級グレードの「ZX」は760万円(ディーゼル)、さらに上位に位置する「GR SPORT」は800万円(ディーゼル)という堂々たるプライスが付けられている。このプライスが高いか安いかは個人の印象もあると思うが、内容を考えればトヨタの企業努力が窺えるものだと思う。
意外だったのは、GR SPORTの位置づけだ。他モデルの例を考えれば、GRという名が付くものは、オンロード性能に特化したスポーティモデルを想像するが、ランドクルーザーに関してはまるで逆であった。
マスクは60系後期型を彷彿させるデザインとなり、前後バンパーにはスキッドプレート風の意匠が奢られている。また、タイヤサイズも標準ラインが20インチを採用しているのに対して、GRスポーツは悪路走破性を意識したハイトの高い18インチが装着されている。極めつけは、前後の電動デフロックや電子制御でスタビライザー効果を変化させる機構が採用されていることだ。トヨタはランドクルーザーというキャラクターを考慮して、同モデルのGRスポーツはオフロード仕様で造られているのである。
一方の標準ライン、とくに「ZX」、「VX」の上位グレードは徹底的にオンロード指向に振られており、「ZX」には20インチというオンロード重視のタイヤサイズのほか、リヤにトルセンLSDが採用されている。
ランドクルーザーの日本仕様は100系以来、オンロード指向の強いSUVとして進化してきたが、一方でオールドファンからは不満の声があったことも確かだ。そこでトヨタは、オフロード性能に特化させた「GR SPORT」と、従来路線の中で正常進化させた標準ラインの2つのベクトルを作ってきた。これは、今のユーザーの空気感を考えると正解だったのではないだろうか。
個人的には、さらにエアロの形状が先鋭化した「ZX」や「VX」には惹かれないが、「AX」や「GX」の前後バンパー形状は非常にシンプルで好感が持てた。特にGXは想像通りのシンプル装備で、新型の目玉装備である指紋認証スターターはおろか、ドアのメッキモールもサイドステップも付いていないワークホース仕様だ。よく世界の僻地で実用車として使われている、ランドクルーザーそのものといった感じだ。あまりに何も付いていないので、200系の中古車を買ってもいいのではないかとも思うが、旧型との大きな違いはやはりパワーユニットにあるといっていい。
日本仕様はランクル200以来のディーゼルエンジン復活!
まず日本仕様のエンジンについてが、今回は3.5L V6ツインターボガソリンと、3.3L V6ツインターボディーゼルの2種類のユニットが採用された。ランドクルーザーに6気筒のガソリンエンジン、そしてディーゼルエンジンが搭載されたのは、2代前の100系以来のこととなる。
3.5L V6ツインターボガソリンは、ご想像の通り、ダウンサイジングターボで、415ps/650Nmという200系の4.7L V8エンジンを上回るスペックを発揮する。WLTC燃費は7.9km/ℓ(AX、GXは8.0km/ℓ)と、まずまずの数値となっている。200系の実用燃費が3.0km/ℓ程度であったことを考えれば、大幅な向上といってだろう。
試乗していないので何とも言えないが、ジープ ラングラー・アンリミテッドのダウンサイジングターボの特性を考えれば、低回転からトルクがモリっと立ち上がる、おもしろいエンジンなのではないだろうか。
さて、日本のユーザーにとって注目なのは、なんと言ってもディーゼルエンジンであろう。完全に新開発された3.3ℓV6ツインターボディーゼルは、現代的な動力性能と環境性能を併せ持っている。コモンレール式の噴射方式と可変バルブで燃料調整を細かく制御しながら、加えてプライマリー、セカンダリーのタービンで走行に合わせた過給を行う。さらにアドブルーを使った尿素SCRシステムによって、クリーン性能をさらに高めている。
車両価格はディーゼルが30万円高いがリセールバリューはガソリン有利!?
ガソリン価格がますます高騰していることもあり、ディーゼルはユーザー注目のユニットだが、購入に二の足を踏む情報をトヨタモビリティで聞いた。というのも、トヨタ本社が設定している残価設定型ローンの残価率が、ガソリン車の方が高いというのである。具体的には、3年後のディーゼル車が67%なのに対してガソリン車は70%、5年後はディーゼル車が53%なのに対して、ガソリン車は56%と、それぞれ3%ずつ高く設定されている。
車両価格はディーゼル車が30万円高い設定になっているが、リセールバリューは3%低いという逆転現象が起こるというのである。この理由は「中古車になった場合、中東などの海外にはガソリン車の方が需要があるから」ということだという。「VX」「AX」「GX」を買うのであれば、ディーゼル車の設定がないので関係ないが、「ZX」や「GRスポーツ」を狙っている人は考えどころかもしれない。
さて、個人的にはシンプルな外観の「AX」か「GX」を狙いたいところだが、やはり「GR SPORT」の内容は魅力的だ。往年のモデルを思わせるスタイリングとランドクルーザーの本領とも言える悪路走破性に強く惹かれる。しかし、何分高い。「GX」が510万円であるのに対して、「GR SPORT」のディーゼル車は800万円。レンジローバーに比べるとリーズナブルだが、おいそれと買いますと言える金額ではない。
ちなみに取材をした時点では、現状の受注において「ZX」「VX」が多いようだが、「GR SPORT」も4割近くの注文が入っているという。やはり分かりやすい“ランドクルーザーらしさ”は日本のファンの心を掴んでいるようだ。