目次
大人気ジープのフラッグシップが10年ぶりにフルモデルチェンジ
周知の通り、20世紀に登場した量産型四輪駆動車の祖はJeep(ジープ)であり、同時に4WD市場を牽引してきたのもまたジープだ。SUVという言葉がまだそれほど定着しておらず、どちらかというライトクロカンと言った方が日本では通じる20世紀末に、ジープから高級SUVとして登場したのが「グランドチェロキー」だ。
グラチェロの愛称で親しまれることになるこのモデルは、チェロキーの兄貴分として誕生した。ジープブランドには「コマンチ」というピックアップトラックがあり、そのSUV版が「チェロキー」、さらにその豪華版が「グランドチェロキー」という関係になる。
当初はチェロキーよりもやや大ぶりのコンパクトSUV(米国のフルサイズに対して)として登場したが、代を重ねるごとに大型化。初代が全長4488mm(前期モデル)だったのに対して、5代目となる現行型は520mmという堂々たる体躯になった。もはやコンパクトと呼べるサイズではなく、アメリカではミドルサイズSUVのカテゴリーになる。
ちなみにプラットフォームは、同じFCAのアルファロメオと共有している。ステルヴィオと基本は同じプラットフォームだが、グランドチェロキーLのものはこれをストレッチして使っているという。
デザインもまた、大きく様変わりした。4代目までは初代のイメージが残っていたものの、今モデルは1963年に登場した初代ワゴニアのエクステリアをインスパイアしてデザインされたという。言われると鋭角的に下部が下がっているグリルや、倒れ気味のAピラーが初代ワゴニアを彷彿させる。ちなみに本国には、顔はグランドチェロキー、ボディ後部をストレッチしたようなフルサイズSUVが「グランドワゴニア」として販売されている。
レトロフューチャー的なデザインは、ジープ好きには好意的に受け入れられるであろうもので、同ブランドのアイデンティティであるセブンスロットやヘッドライト形状は非常に美しい。サイドラインやリアデザインも、ジープらしさがしっかりと出ている秀作と言えるだろう。
インテリアも新しいものだが、初代から受け継いできたグラチェロらしさに溢れている。ブラックとベージュのツートーンカラーは同モデルでは定番だし、液晶ながらメーターやスイッチにも、歴代モデルが受け継いできたDANが感じられる。
おもしろいのは、駆動系をコントロールするインターフェイスだ。まず、ATのセレクトだが、ロータリースイッチにて行う。グランドチェロキーLの4WDシステムには、路面状況に合わせたトラクションをセレクトする「セレクテレインシステム」が搭載されているため、初めはそのスイッチかと思った。セレクテレインのスイッチは、ロータリースイッチの左脇にあり、路面をセレクトするとインジケーターが変化するようになっている。
一瞬戸惑うATセレクターだが、一度使うと実に塩梅がいい。昨今は国内外問わず分かりにくいATセレクターが多い中で、操作しやすく、ミッションの状態も明瞭に理解できる。Uターンなどで前進後退を繰り返さなければならない時など、スムーズに操作することができる。
クオドラトラックII・4×4システムは、ワゴニア系では伝統的なフルタイム4WDだ。余談だが、市販量産車で初めてフルタイム4WDを採用したのは、初代ワゴニアである。のそれは、当然その時代のものとは比べものにならないほど進化しているが、2WDモードがないのは血統ということになる。通常は前後輪の差動を電子制御でコントロールするアクティブトルクスプリットタイプのフルタイム4WDで走行し、「4WD LOW」を選択すると、センターデフのビスカスカップリングが差動吸収を停止して“直結”状態の4WDになる。
パワーユニットは3.6L V6ガソリンのみだが、本国では5.7L V8ガソリンやPHEVもラインナップされている。今後、PHEVが日本に導入される可能性もあるかもしれない。エンジンは非常にジェントリーなフィーリングで、同時に大きなグランドチェロキーLのボディを動かすのに十分なパフォーマンスを持っている。この3.6L V6ユニットは、ジープブランドの基幹エンジンで、ラングラーなどにも搭載されている。決して大排気量ではないが、8速ATを使っているため非常にスムーズに加速し、しかも静粛性が高い。
乗り心地も実にいい。同車はクォドラリフトと呼ばれるエアサスペンションを採用しており、そのセッティングは絶妙のひと言。エアサスの想像するようなピッチやロールはなく、路面のハーシュネスをきっちりと吸収する。さらに、カーブが連続するような道でもキビキビと曲がり、5.2mという巨軀をまったく感じさせない。
このサスペンションは車高調整機能も備えており、最大で609.6mmという地上高を確保することができる。これはオフロードを走行する時に使うモードだが、これだけのサイズのSUVでも本格的な悪路走破性を備えているところが、ジープブランドの矜持といったところだろう。
さて、グランドチェロキーLを語るときに、居住性についても触れないわけにはいかない。同車は3列シートを備えており、2列目のシートレイアウトによって6人乗りと7人乗りが用意される。3列シートはエマージェンシーではなく、大人でも快適に座ることができる。身長の条件は出てくるが、しっかりと作ってあるいいシートだ。
セカンドシートは前述の通り、センター部がシート、もしくはアームレストの違いで乗車定員が異なる。セカンドシートにはドリンクホルダーを装備しているほか、左右独立してコントロールできるエアコンのインターフェイスも備える。USBのAとCの端子もそれぞれ2口付いているので、ロングドライブでもガジェット充電の心配はいらない。
安全装備も充実しているが、特筆すべきはジープブランドで初めてナイトビジョンが採用されていることだ。もちろん、ACCも装備しているので、交通量の多い高速道路でも安心してドライブすることができる。
初め見た時は「デカい!」と思ったグランドチェロキーLだが、実際に運転してみるとその大きさを感じさせない各部のチューニングがなされている。日常的な駐車場所など、日本のユーザーには敷居の高さは残るが、例えば脱ミニバンユーザーなどにはうってつけと言えるだろう。788万円というプライスは少々高めに映るが、このラグジュアリーな空間とフィーリングを考えれば妥当と言える。
昨今はアメリカ車もトラブルが少なく、ジープはディーラー網も充実しているのでアフターケアもぬかりない。アメリアの象徴であるジープを、杞憂なく楽しむことができるだろう。大らか、かつスポーティなグランドチェロキーL。一度所有する価値は、十分にある。
ジープ・グランドチェロキーL サミットリザーブ 主要諸元
■ボディサイズ
全長×全幅×全高:5200×1980×1795mm
ホイールベース:3090mm
車両重量:2250kg
乗車定員:6名
燃料タンク容量:87L(無鉛レギュラー)
■エンジン
形式:水冷V型c6気筒OHV
排気量:3604cc
ボア×ストローク:96.0×83.0mm
最高出力:210kW(286ps)/6400rpm
最大トルク:344Nm/4000rpm
燃料供給方式:電子式燃料噴射装置
■駆動系
トランスミッション:8AT
駆動方式:4WD
■シャシー系
サスペンション形式:Fマルチリンク・Rマルチリンク
ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク・Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:275/45R21
■価格
999万円