2022年は日本におけるEV元年! 軽EV「サクラ/eKクロスEV」が「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞!

2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのは日産サクラ/三菱eKクロスEVでした。40年を超える日本カー・オブ・ザ・イヤーの歴史を振り返ってみても軽自動車がイヤーカーとなったのは初めて。純粋なEVがイヤーカーとなったのは2011−2012年の日産リーフ以来となります。イヤーカーは単純に売れるクルマではなく、時代の節目を感じさせるクルマ、その年を象徴するクルマが選ばれてきたという歴史もありますが、軽EVが選ばれたということで、2022年は日本のEV元年になったといえるのではないでしょうか。
REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

軽EVがイヤーカーとなった意義とは

サクラ/ekクロスEVの受賞は、軽自動車としては史上初。EVとしては、11年前に受賞した日産リーフ以来二度目の記録となる。

モータージャーナリスト的な活動とは一線を画して、自動車コラムニストを名乗る筆者の率直な感想として、軽EVが日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたことは世界に対しても誇るべき事だと感じています。

日本カー・オブ・ザ・イヤーで選考委員を務められるような一流のモータージャーナリストの皆様からするとコラムニスト風情が生意気なことを言ってやがると怒られるかもしれませんが、あえて上から目線でいえば「EV普及の本質をわかっていなければサクラ/eKクロスEVを評価することはできない」と考えるからです。

おそらく海外のモータージャーナリストに、バッテリー総電力量20kWh、一充電航続距離180km、全長3.4mのコンパクトなEVを見せたとしたら、評価に値しないというふうに捉える人が多数派ではないでしょうか。おそらく、日本の一般ユーザーでも「いくら手頃な価格を目指したからといって、航続距離が短すぎる」と感じている人は少なくないかもしれません。

アイミーブは10ベスト止まりだった

10年以上前に三菱が初の量産EVとしてアイミーブを出したときには日本のモータージャーナリスト界隈も同様に、日常使いのできない軽EVという見方が主流だったかと記憶しています。しかしアイミーブの一充電航続距離は160kmでした。

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2009年、一般向けの販売が始まったころのアイミーブ。メディアでもキワモノ的な扱いだったと記憶している(撮影:山本晋也)

現在とは異なる測定モードなので横並びで比べるのはナンセンスですが、サクラ/eKクロスEVとさほど変わらない性能だったのです。それでも当時は満充電からの航続距離が200kmにも満たない軽EVは評価に値しないとされていたのです。

実際、2009−2010日本カー・オブ・ザ・イヤーでアイミーブは10ベストには選ばれましたが、イヤーカーに選ばれたのはトヨタ・プリウスで、僅差の2位はホンダ・インサイトでした。ひと昔前は近距離ユースの軽EVより、燃費性能に優れたハイブリッドカーが高く評価されていたのです。

軽EVがイヤーカーに選ばれたことの大きな意義は、近距離EVが市民権を得ることだと考えます。

EVは「大は小を兼ねない」乗りもの

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筆者が所有していた初代リーフ。急速充電を利用して遠出をすることは非日常だった(撮影:山本晋也)

日本では「大は小を兼ねる」ということわざもあるように、ユーザーマインドとしてもロングレンジのEVを求める傾向が強いと感じています。EVの車両価格はバッテリー搭載量に大きく影響されます。つまりロングレンジになるほど車両価格が高くなるということです。

費用対効果を考えると必要十分な航続距離のモデルを求めるほうがユーザーとしては合理的なはずですが、なかなかEVのある生活を体験してみないとそう考えるのは難しいのかもしれません、今回の結果をきっかけに、そうした頑なマインドを少しでも緩めることができれば、まさにEV元年の呼び水となるサクラ/eKクロスEVの受賞といえるのではないでしょうか。そうして軽EVが普及していけば、日本のEV比率は一気に高まるかもしれません。

軽EVに限らず、バッテリー搭載量の少ない近距離EVのメリットは、希少な資源を使うバッテリーのリソースを有効活用できるからです。たとえば、大型EVの中には100kWh級のバッテリーを積んでいるモデルも存在します。仮に同じバッテリーセルを使っていたとすれば、大型EV1台分のバッテリーで、軽EVは5台を生産することができます。そのエリアで用意できるバッテリーの総量が一定だと仮定すると、小さな近距離EVを作ったほうが普及のスピードが加速するのは自明です。

リーフ1台でサクラ3台が作れる

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近距離ユースに使われることが多い軽自動車が売れている日本市場では近距離EVのニーズが大きいはず(撮影:山本晋也)

もっと具体的にいえば、日産の中でいってもリーフe+のバッテリー総電力量は60kWhですから、サクラ/eKクロスEVの3台分といえます。同じ日産の最新EVであるアリアのバッテリー総電力量は66kWhとなっています。

自動車という工業製品においては様々なニーズを満たすために多様性が求められますから、単独車種の生産にフォーカスすることはユーザー目線としてはノーサンキューではありますが、仮に同じバッテリーセルを使っていたとして、リーフやアリアに使う予定のバッテリーをサクラにまわしていれば、台数ベースでの日産のEV生産能力は大幅にアップするわけです。

このロジックは世界的にも重要な見方となるはずです。単純にゼロエミッション車の普及を促進するのであれば、車両価格が高くて航続距離の長いEVに補助金を出すよりも、バッテリーのリソースを有効活用してエンジン車からゼロエミッション車への置換スピードを上げることに寄与する近距離EVを優遇したほうが賢いといえるからです。

「インポートカー・オブ・ザ・イヤー」もEVだった

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2022年に日本市場での乗用車販売をゼロエミッション車だけで復活させたヒョンデ。ブランド名称の変更も話題となった(撮影:山本晋也)

2022−2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーの結果が、そうした流れを世界的に生み出すキッカケとなれば、日本のEV元年を象徴するだけでなく、グローバルでのEV普及に寄与したといえるかもしれません。

ところで、2022−2023年の日本カー・オブ・ザ・イヤーでは、10ベストカーの中にBMW iXとヒョンデ・アイオニック5というEV専用モデルが選ばれ、インポート・カー・オブ・ザ・イヤーにはアイオニック5が選ばれました。両イヤーカーがEVというのもまた日本のEV元年を示した選考結果といえるのではないでしょうか。

インポートカー・オブ・ザ・イヤーもEVが獲得したのはニュースだった。日本再上陸間もないヒョンデのIONIQ5である。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…