通信障害の発生に備える
指向信号灯はいわば大光量の「懐中電灯」、フラッシュライトだ。とはいえ、写真をご覧いただければおわかりいただけるとおり懐中に入るほど小型ではなく、むしろ超大型の部類。
使用する電力は外部から専用線で供給され、最高光度は10万カンデラにもなるのが特徴だ(光量のイメージとしては、灯台を想像してもらうのがいいだろう)。
指向信号灯が使われているのは航空自衛隊の航空基地や民間空港にある管制塔だ。
管制塔最上部の管制室に常備され、航空機の離着陸を支援するための灯火として必要な状況で機能する。航空交通の安全のために、航空機等へ必要な信号を送るために設置する灯火であると航空法で定められ、飛行場灯火、航空灯火のひとつに分類される。
大光量・収束された光のビームを発して離れた相手と意思疎通を図る手作業道具で、管制室の窓際の定位置に専用吊り下げ装置で常備されている。
通常、管制室の航空管制官と空港内の航空機や地上の各種車両などの人員は無線で交信し、指示や確認を交えて必要な手順や作業などを進める。
しかしその無線装置が故障したり、悪天候などによる通信障害の発生は考えられること。安全運航の生命線である通信手段が絶たれる事態に備えてこの指向信号灯はある。
指向信号灯は相手に対して大光量ビームを照射したり、光を点滅させたり、「赤・白・緑」各色の光信号を送ることができる。
たとえば離陸に向けて地上走行中の航空機が管制からの無線交信に応えなくなった場合、その航空機に向け指向信号灯で光を照射、パイロットに管制塔への注意を向けさせ、必要な指示を光信号で送る。無線交信による通常の意思疎通の代わりに光信号でこれを行なうというわけだ。
国土交通省「航空機と管制業務を行なう機関との間における信号に関する告示」によると、航空法施行規則第202条の規定により、航空機と管制業務を行なう機関との間における信号に関する告示、光信号の内容は別表のように定められているという。
また、とある管制官の方のブログを読むと「指向指示灯(指向信号灯)は無線通信途絶の代替手段と認識されているが、管制官にとって実際は無線が途絶する前に指示した内容を補足する程度のもの」と解説している。
航空機パイロットから応答がない場合には、まずは世界共通の緊急用周波数で通信可能か試すほうが実践的だと解説は続き、それでも応答がない場合の「選択肢のひとつがライトガン(指向信号灯)」であり、コックピットに光を照射し続けて管制官が管制塔からライトガンで指示していることをパイロットに気づかせるものとして捉えているという。
注意信号は大きく強力な光が好都合ということか。
アクション映画などでは、通常の通信手段やハイテク通信が途絶した場合に「モールス信号」を使って離れた相手と交信し、事態を打開する場面が描かれることが多い気がする。
これと同じように指向指示灯でモールス信号を送り交信する実態が航空管制の現場にあるのか否かは筆者には不案内なのだが、別表の内容と措置や前述の管制官ブログでの解説からすると、そうした映画的な手法ではないようだ。
まず指向信号灯で注意を惹きつけつつ必要な指示を送り、状況を一時停止等させたのち、別周波数での交信を試みるなど有効な手段により事態の解決を図るのだと思われる。
ともあれ、バックアップにアナログ手段を常備することは大事だ、ということですな。これは自衛隊にかぎったことではなく、我々もね。