艦隊防空、ミサイル防衛を担うイージス艦:海上自衛隊「こんごう」型護衛艦

護衛艦「こんごう」型(DDG-173)。写真/海上自衛隊
日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。本連載では、ここでは、そのなかからいくつかを紹介しよう。今回は、海上自衛隊「こんごう」型護衛艦、つまりイージス艦だ。日本の防空を担うイージス艦に迫る。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

イージスシステムを海自で初めて搭載した艦

艦橋構造物に設置された白い八角形の装置がSPY-1D多機能レーダー。水平垂直に360度を監視できる。これは「こんごう」型2番艦「きりしま」(DDG-174)で、艦体の放水は放射能塵洗浄装置を作動している様子。写真/海上自衛隊

護衛艦「こんごう」型はミサイル護衛艦などとも呼ばれるが、いわゆる「イージス艦」だ。イージスとは搭載する中核的な武器体系の呼び名で、対空(防空)戦闘を重視した艦載武器体系の「イージス武器システム(AWS:AEGIS Weapon System)」を指す。米海軍とロッキード・マーティン社が開発した同システムは艦隊を丸ごと防空する機能を持つ。

 イージスは「Aegis」と書き、ギリシャ神話の女神アテナが使う防具の「楯」に由来した単語の英語読みだ。この楯はあらゆる邪悪や災厄を払う魔除けの能力を持つという。この楯になぞらえたイージスシステムは相手の攻撃をすべて封じるものという意味になる。

システムはレーダー/センサー、制御装置、武器(ミサイル)の3分野から成る。長距離・広範囲を探ることのできるSPY-1D多機能レーダーを備え、高性能コンピュータ群は攻撃相手の脅威度を自動判定し射撃(反撃)も自動制御する。反撃手段は「スタンダード対空ミサイル(SM-2、SM-3)」などだ。こうしたシステムを搭載した戦闘艦をイージス艦と呼んでいる。

「きりしま」の艦首側VLS(Vertical Launching System:垂直発射装置)から発射されるSM-3ミサイル。VLSは「セル」と呼ばれる独立した区画にキャニスターに内包されたミサイルが詰められている。写真/米海軍

イージスシステムの開発要求は東西冷戦の時代に始まる。当時のソ連は、米海軍の空母戦闘群(機動艦隊、現・打撃群)に対抗できる艦隊を保有できず、代わって編み出したのが、爆撃機が積んだ対艦ミサイルで米空母を攻撃することだった。潜水艦から発射する対艦ミサイルも合わせ、一度に100発以上もの対艦ミサイルを射撃するのだ。米空母艦隊の迎撃・防空力を上回る「数量」の武器を短時間に集中する「飽和攻撃」である。この対抗手段として開発されたのが同時多目標に対処できるイージスシステムだった。

同じく「きりしま」のSM-3発射を艦尾方向から見ている。手前の円柱2つは艦対艦ミサイル「ハープーン」の発射筒。4連装の発射筒を2基搭載している。写真/米海軍

護衛艦「こんごう」型はイージスシステムを海上自衛隊で初めて搭載した艦で、1993年に就役した。米海軍以外で初めて保有されたイージス艦でもある。自衛艦隊の防空に加え、日本列島全体の防空を担う存在へと能力は高められている。

「こんごう」型の対空戦闘システムはまず、レーダーが百数十km以上の遠距離で目標を探知する。探知は10個以上の目標に同時対応できるという。搭載した対空ミサイルの最大射程は百km以上といわれ、防空能力を飛躍的に向上させた武器が積まれている。

情報処理能力は高度だ。システムは対象の脅威度を判定、それを元に攻撃の優先順位を決め、全自動で射撃する(手動もある)。人間が探知・判定・対応する従来型の迎撃行動よりも、射撃開始までの時間(リアクションタイム)が短縮されている。高速ミサイルなどにも対応可能だ。

「こんごう」型が『実働』した事案が今から23年前にあった。1998年8月31日、北朝鮮は弾道ミサイル「テポドン1号」を発射。このミサイルは津軽海峡付近から日本列島を飛び越えるコースで飛び、第1段目が日本海へ、第2段目は太平洋三陸沖へ落下している。ミサイルは大気圏外とはいえ日本上空を飛び越えており大問題だった。北朝鮮の朝鮮中央通信社はこれを人工衛星の打ち上げと発表したが、そうした物体が地球周回軌道に乗ったことを裏付ける観測データはない。そしてこのテポドンミサイルの飛翔を、警戒のため日本海にいた「こんごう」型護衛艦3番艦「みょうこう」がイージス・レーダーを使った追尾に成功している。テポドンを撃ち落としてはいないが、追尾成功は画期的なことだった。

これ以降、「こんごう」型イージス艦には弾道ミサイル対処のため、SM-3ミサイルを使った「イージス弾道ミサイル防衛システム(ABMD:AEGIS Ballistic Missile Defense)」が追加されてゆく。これはミッドコース段階という、弾道ミサイルの発射後、ロケットエンジンの燃焼が終了し、慣性運動によって宇宙空間(大気圏外)を飛行している段階をSM-3ミサイルで撃ち落とすものだ。米軍は弾体の改造開発やシステムの実射実験を重ね、成功率を上げている。「みょうこう」によるレーダー探知の実績も得たことで、北朝鮮のミサイルについては迎撃の態勢にあるといえる。しかし、完璧な「楯」ではない。成功率は100%ではないからだ。弾道ミサイル防衛は一発でも撃ち漏らせばそれは失敗である。

「こんごう」型3番艦「みょうこう」(DDG-175)。写真/海上自衛隊

海洋進出を止めない中国も、冷戦時代のソ連と同じように米空母艦隊を脅威と捉えており、その対抗手段として弾道対艦ミサイルや巡航ミサイルを大量に生産し、配備、飽和攻撃で米空母を沈める企てがあるという。

この飽和攻撃に対して、イージス艦の「装弾数」である対空ミサイルの艦載数は、「こんごう」型1隻で90発前後とみられる。つまり、相手のミサイルを90発まで防いでも、91発目を防げなければ負けだ。現代の海上戦闘はこうした様相だという。極めて短時間に一方的な結果を生む戦闘だということがわかる。

「こんごう」型4番艦「ちょうかい」(DDG-176)。写真/海上自衛隊

護衛艦「こんごう」型は現在4隻が就役中で、後続艦の「あたご」型が2隻、先ごろ就役した「まや」型が2隻、計8隻のイージス艦が日本にはある。米海軍はその駆逐艦と巡洋艦の全数がイージス艦だから、日米合わせ西太平洋には多数のイージス艦があることになる。  

しかし、北朝鮮の弾道弾や中国の飽和攻撃への対処はともに「数量」のせめぎ合いだ。相手戦力の「質」や「量」を上回る態勢作りイコール抑止力だが、これは同時に双方に軍備拡張を促し結果的に緊張状態を高める「安全保障のジレンマ」も生む。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…