eKクロスEVはなぜ、EV元年を象徴するにふさわしいと言えるのか【2022 今年のクルマこの1台】

10年以上前から何かにつけて「EV元年」という言葉を耳にしてきたような気がするが、2022年は本当にEV元年になった……と総括するのは自動車コラムニストの山本晋也。氏が2022年を象徴する一台として選んだのは三菱eKクロスEVだった。
REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

2022年は韓国ZEVの上陸、軽EVの逆襲

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トヨタとスバルが共同開発したEV専用モデルがbZ4X(左)とソルテラの2台

まずは2022年の個人的な気になった一台や出来事を、四半期ごとに振り返ってみたい。

1Qで印象深かったのが「ヒュンダイ」あらため「ヒョンデ」が日本仕様として作り込んできた2台のZEV(ゼロエミッション・ビークル)。特にEVのアイオニック5はコストパフォーマンスも高く、古いタイプのクルマ好きが持っているブランドイメージを払拭できると感じた。

2Qでも記憶に残るのはEVだった。このときは、トヨタbZ4Xとスバル・ソルテラという両社が共同開発したEVを公道試乗することができた。結果的に、ホイールを固定するボルトの不具合で実質的な発売延期となったのは残念だったが、初物とは思えない完成度と、初物ゆえの慎重な部分が共存している点が興味深いものだった。

3Qでも、新しいEVとの出会いが記憶に残った。三菱eKクロスEVを市街地の様々なシチュエーションで乗ったときに驚いたのが、軽EVというカテゴリーに期待する以上の電費性能だったこと。リアルワールドでの電費性能は、経済性はもちろんのこと、十分に商品力のある航続距離を実現していることを示してくれた。

4Qでの思い出は非常に個人的なことになるが、ガレージハウスを借りたこと。経済的な負担はそれなりにかかるが、クルマ趣味を一段と深いものにしたいという気持ちから思い切った。そんなディープなクルマ趣味の世界を象徴するガレージハウスに入居して驚いたのは、ガレージ内にEV用コンセントが用意されていたこと。もはやクルマ趣味人が「EVなんてつまらない」と否定するのは時代遅れになっていることを実感させられた。

EV元年を象徴するのにふさわしいのが「三菱eKクロスEV」

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三菱の軽EV「eKクロスEV」は、まさに一昔前にローンチされたアイミーブのリベンジを果たした

年間を通してEVの普及を実感する出来事が記憶に残る一年になったが、中でも2022年を象徴すると感じたのが三菱eKクロスEVだ。

既存のエンジン車をEVに仕上げるという商品企画は2009年に同社が世界初の量産EVとしてリリースしたアイミーブと通じるところがあり、ドライビングの印象においても似ている部分はあった。

アイミーブはリヤ駆動、eKクロスEVはフロント駆動なので、アクセル操作で作れる車体の挙動についてはまったく違う部分もあるが、共通しているのはモーター駆動と低重心によって軽自動車の理想像を作り出していること。カタカナで表現すればキュンキュン加速、シズシズ巡行、キビキビ曲がるシティコミューターに仕上がっていた。

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エアコン・オン、市街地のストップ&ゴーで10km/kWhを超える電費。伸びしろも感じた

さらにアイミーブを圧倒的に超えたと感じたのは、電費性能だった。エアコンを使わずに街乗りしたときの電費はメーター表示で13km/kWhを超え、エアコンオンでも10km/kWhを超えてきた。

筆者は昨年までEV(初代・日産リーフの後期型)に乗っていたので、EVの走らせ方に慣れている部分はあるにせよ、初めて乗ったEVでカタログ値を超えるレベルの電費で走ることができたというのは、非常に高いポテンシャルを感じさせられた。

カタログのバッテリー総電力量=リアルに使える電力量ではないので単純計算はできないが、180kmという一充電航続距離は机上の空論的なスペックではなく、実現可能な目標値という風に考えることができるし、一充電で100kmを超えるルート設定でも余裕で走れるであろうとも思えた。

正直、アイミーブにはなかった余裕をeKクロスEVでは感じたのだ。さらに慣れていけば、もっと効率よく走れるという感触もあったから、なおさらだ。

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エンジンスペースに電動ユニットをインストール。成り立ちとしてはコンバージョン系のEVといえる

軽EVは予想以上に売れている!

ちなみに、全国軽自動車協会連合会の統計データによると、2022年11月までに販売された軽EVの台数は、日産サクラが1万8319台で、eKクロスEVは3423台。合わせると2万台以上が売れていることになる。

サクラは月販3500台程度で、すでに同じ車体のエンジン車版といえるデイズ(2000台程度)を超えている。コロナ禍、半導体不足などの社会情勢により受注も生産も本調子ではないので結論を出すのは気が早いとは思うが、同じ使い勝手のボディであればEVの方が売れる時代になっているといえるのだ。

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急速充電より普通充電をメインに、日々の足として使える軽EVとして正しい姿を示してくれた

まさにEVがエンジン車を超えたのが2022年である。単にEVのラインナップが充実したというだけでなく、ユーザーがEVを積極的に選んでいるという意味でも2022年を「EV元年」と呼ぶのはふさわしい。

本音をいえば、補助金がなくなった状態でも、こうした勢いが止まらなければ市場は完全にEVを受け入れたと判断できると思っている。いずれにしても、近距離EVという日本でのクルマの使われ方にマッチした軽EVが想像以上に評価されていることは、自分にとってのサプライズだった。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…