初代カローラは1966年に発売され、日産サニーとともに日本の大衆車として定着していったことで有名。軽自動車ではなく5ナンバーの小型車として高度経済成長とともに数を増やしていったことがポイントで、日本もいよいよマイカー文化が本格的になってきたことを象徴していた。カローラの人気を反映して1968年にはファストバックのクーペスタイルをまとったカローラスプリンターをラインナップに追加すると、1970年にはフルモデルチェンジしてカローラから独立する形で2代目スプリンターが誕生する。
カローラから独立したことで1971年にはスプリンターにもセダンがラインナップされ、さらに翌年にはカローラ・レビンとともにスプリンター・トレノが追加されている。この初代レビン・トレノは型式がTE27で同一だったことからも分かるよう、スタイルを変えただけの兄弟車。セリカから移植された1.6リッター直列4気筒DOHCの2T-G型エンジンを採用しつつ、前後にオーバーフェンダーを装備する本格的なスポーツモデルだった。
そもそもが競技向け車両という位置付けだったTE27レビン・トレノだから、ノーマルのまま街乗りに使っても非常に楽しい操縦性を備えている。900キロを切る軽い車重に115psもあるDOHCエンジンを搭載する後輪駆動モデルなので、思うがままに加速できるしコーナリングもスポーティそのもの。LSDを組んだ個体だと簡単にドリフトが決まるのは後の世代であるAE86より上手で、これほど運転して楽しいモデルは国産車随一といってもいいほどなのだ。
TE27レビン・トレノは1972年に発売され翌年にはカローラ/スプリンターのマイナーチェンジに合わせて後期型へ移行する。現存するTE27の多くはレビン・トレノ問わず後期型が多いのが特徴で、前期型との違いは主にフロントマスクのデザイン。後期型TE27が数多く残っているのは、その後にやってくる排出ガス規制の強化と関係がある。1973年に昭和48年規制が施行されると、毎年のように規制が強化され昭和53年規制まで続くことになる。
この排出ガス規制は国産スポーツカーたちから牙を抜いてしまうほどの影響力があり、トヨタ以外は軒並みDOHCエンジンを廃止。トヨタにしても2T-Gを採用するセリカやレビン・トレノも年々性能がダウン。特にDOHCらしい高回転でのレスポンスは鳴りを潜め、いずれもおとなしい性格のモデルへと変化していく。
このことで規制前のTE27がクローズアップされることとなった。1983年に発売されたAE86レビン・トレノには、新開発された1.6リッターDOHCである4A-GEU型が採用されたが、それまでのレビン・トレノはモデルチェンジしても同じ2T-Gエンジンを採用し続けた。だからAE86はマニアが待ち望んだ存在であり、それまでの主役であるTE27から乗り換える人も多かった。
ところが1992年にあえて古くなっていたTE27に乗り始めた人もいる。2022年11月13日に富士スピードウェイで開催された「2022TMSCクラシックカーミーティング&レビン・トレノ50周年パレード」というイベント会場には数多くのTE27レビン・トレノが並んでいたが、古い「相模54」という二桁ナンバーのトレノを見つけた。そばにいたオーナーの松本直哉さんにお話を聞くと、なんと平成4年から乗り続けているという。
とはいえ平成4年といえばバブル景気の余韻が残る時代で、レビン・トレノでいえば6代目のAE101に発展していたころ。この当時はAE86が手頃に買えた時代で、後輪駆動最後のモデルとして人気があった。普通ならクーラーすらない古いTE27ではなくAE86を選ぶところなのに、なぜTE27だったのかといえば「ソレックスキャブレターのモデルに乗りたかったからです」との答え。それで納得だ。
というのも1992年といえば国産旧車の人気が高まっていた時期であり、今でこそ数千万円という相場になってしまったハコスカやケンメリGT-Rが再注目されたころなのだ。TE27にも再び人気が集まり始めたころであり、松本さんもソレックスキャブレターを備える排ガス規制前のモデルに興味が沸いたのだろう。ソレックスを装備するクルマとして選んだのがTE27トレノで、知り合いの中古車販売店にあったものを入手されたそうだ。
純正ソレックスが選ぶポイントだったので、その後はトランスミッション以外はすべて修理することとなったが、純正ソレックスはあえてそのまま使い続けている。普通ならエンジンをオーバーホールする時にボアアップなどを実施しつつ、口径の大きなソレックス44φなどに変更してしまうところだが、あえて40φのまま使っているのがこだわりだ。
また、ソレックスだけでなくノーマルにこだわっているのもポイントで、外装で変更しているのはブリヂストンが昭和の時代に販売していたZONAホイールくらい。内装ではこれまた懐かしい当時モノのオーディオであるパイオニアのコンポーネントステレオを装備している。もちろんカセットテープ仕様で、現在でも使えるそうだ。
松本さんがTE27トレノを買った時代と比べて劇的に変化したのが夏の気温だろう。その当時はクーラーがなくても窓を全開にして走っていればしのげたものだが、現在は外気温が40度にもなるためクーラーなしで乗っていられるものではない。そこでライトエースバンのユニットを流用してクーラーを装備することとされた。
助手席側のダッシュボードから吊り下げるタイプを使用していて、大きくないボディのTE27なら十分な効き具合を示してくれるそうだ。イベント会場に集まったTE27の多くが車高を下げてエンジンをチューニングしてあったけれど、松本さんのようなオリジナルの風情が漂う個体には独特の雰囲気がある。昭和・平成と走り続けてきたことを感じさせてくれるのだ。こんな楽しみ方も国産旧車ならではだろう。