新型プリウスのPHEVは、高い動力性能が魅力のハイパフォーマンスカーだ

新型トヨタ・PHEV
新型プリウス・シリーズで最後に発売となる(3月発売予定)PHEVモデルは、ラインアップ最上位のハイパフォーマンスモデルだ。どんなクルマに仕上がっているか、まずはプロトタイプをサーキットで試してみた。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:TOYOTA

1.8Lと2.0Lのさらに上のパフォーマンスにPHEVがあるという位置づけ

新型プリウスPHEV
前型プリウスPHV

第4世代プリウスをベースとしたプリウスPHVは、意図してプリウスとの差別化が図られ、専用の内外装が与えられた。顔つきがまるで違ったし、リヤもそうだった。リヤウインドウはガラスを波打たせたダブルバブル形状になっており、そのガラスをはめ込んだテールゲートはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)でできていた。

軽量化のためである。プリウスPHVのベースとなる「プリウス」は、後席の下に走行用バッテリーを搭載していた。「プリウスPHV」はそのスペースを外部電源からの充電機器に譲ったため、大容量のリチウムイオンバッテリーをラゲッジルームの床下に収めた。その結果、リヤのオーバーハングが重くなって車両運動性能によろしくない影響を及ぼすので、少しでも軽量化するためにCFRPを採用したというわけだ。

特徴的なリヤゲートはCFRP製。軽量化が目的だった。

PHVの特徴は外部電源からの充電が可能なことと、大容量バッテリーがもたらす、長いEV走行距離だった。8.8kWhの容量を持つリチウムイオンバッテリーは、WLTCモードで60kmのEV走行換算距離を可能にした。プリウスのEV走行可能距離が数百mから1km程度だったことを考えると、大きな価値だった。

プリウスPHVが搭載するエンジンは2ZR-FXE型の1.8L直列4気筒自然吸気で、ハイブリッド車(HEV)のプリウスと同じ。最高出力は72kW、最大トルクは142Nmだった。これに、走行用のモーター(最高出力53kW)と発電用のモーター(最高出力23kW)を組み合わせた。前型のプリウスPHVが特徴的だったのは、発電用のモーターも駆動に参加させる「デュアルモータードライブ」を採用したこと。これにより、力強いEV走行を可能にした。

HEVとの識別点はこのリヤのバッジくらい。
そしてホイールのデザインもPHEV専用だ。

HEVと別立てだった前型から一転、第5世代では(「PHV」ではなく)PHEVは「プリウス」の一員になった。HEVとPHEVの識別点は、テールゲートのバッジとアルミホイールのデザインくらいだ。PHEVをプリウスの一員とした理由について、開発責任者の大矢賢樹氏は次のように説明する。

「(前型では)HEVとPHVのカタログは別でした。そのため、HEVを買うお客さまはPHVのカタログは見ない。逆に、PHVを買うお客さまはPHVを狙っているのでHEVのことは考えない。(新型では)まず、お客さまにPHEVがあることを目に留めていただきたいと思いました。PHEVもユニット選択のひとつとして存在するんだと。1.8Lと2.0Lのさらに上のパフォーマンスにPHEVがあるという位置づけです。あくまで、プリウスのなかの選択肢のひとつとしてお客さまに考えていただきたいと考えました」

インテリアも基本はHEVモデルと変わらない。
走行モードの変更はセンター右手前のスイッチで行なう。

PHEVの魅力は外部電源から充電できることとEV走行可能距離が長いことだが、それとは別に、パフォーマンスの視点で選んでもらいたいということだ。新型プリウスのなかでもっともパフォーマンスが高いグレードがPHEVというわけである。1.8L HEVのシステム最高出力が103kW(140ps)、0-100km/h加速が9.3秒なのに対し、2.0L HEVはそれぞれ144kW(193ps)、9.3秒、2.0Lのエンジンを積むPHEVのシステム最高出力はラインアップ中最強で164kW(223ps)、0-100km/h加速は6.7秒だ。

ハイブリッドシステムが強化されているだけでなく、パッケージングも進化している。前述のように、前型プリウスPHVはリチウムイオンバッテリーをラゲッジルームの床下に搭載していた。そのため、ただでさえあまり広いとは言えないラゲッジルームの容積が犠牲になっていた。新型プリウスPHEVは13.6kWhへと従来比で54.5%増量したリチウムイオンバッテリーをリヤシート下に搭載。前型よりも広いラゲッジルームを確保すると同時に、重量物を後車軸より前の低い位置に搭載したことにより、車両運動性能面でもポジティブな効果が期待できる。

サーキットでプロトタイプに試乗

まずは前型PHVに試乗。
次に新型PHEV(プロトタイプ)を3周試乗した。

全長2.436kmの袖ケ浦フォレストレースウェイ(千葉県)には、新旧のプリウスPHEVが用意されていた。サーキットをガンガン攻めろという主旨ではなく、公道を想定して走る意図である。新型プリウスPHEVは3月発売の予定で、試乗車はプロトタイプ。ナンバーは付いていない。試乗会場では80km/h以下での走行が指示された。

まずは前型に乗り、1周目はEVモードで走行しピットイン。ピットレーンでHV(HEV)モードに切り替えて2周走り、新型に乗り換えて同じパターンを繰り返した。前型PHEVでも、EV走行の気持ち良さは充分に味わえる。何より静かだし、アクセルペダルの操作に対する応答性が高く、音もG(加速度)の変動もなくリニアに加速していくのが気持ちいい。ただ、いかんせん車両重量(1530kg)に対してモーターの力が控え目で、コーナーからの立ち上がり加速では、「もうちょっと力強さがほしいかな」と思ったのも事実だ。

EVモードで1周。ドライブモードはSPORTを選択
これがハイブリッドモード
こちらがAUTOモードだ

HVモードに切り換えるとドライバーが要求するトルクの不足を補うためにエンジンが始動する。力強さは増すが、引き換えにエンジンのノイズが爽快なムードに水を差すことになる。EV走行の爽快さを味わってしまうと、EV走行の領域がもっと広ければいいのにと感じてしまうが、そんな願いを叶えるのが新型プリウスのPHEVだ。

詳細なスペックは発表されていないが、走行用モーターの出力が前型比で引き上げられているのは間違いなく、明らかに力強い。重量物であるバッテリーの搭載位置を変更しただけでなく、ベースの状態で車体骨格やサスペンションに手を入れたのが効いており、タイトなコーナーに進入して踏ん張り、向きを変えて立ち上がっていく一連の流れに無駄な動きがなく、しっかりしている。ドライバーの思いどおりに攻められるクルマに仕上がっているポテンシャルを感じた。

PHEVモデルのリヤサスペンション。形式はダブルウィッシュボーン式

これまた正式な数値は発表されていないが、EV走行可能距離は従来比で「50%以上」と発表されている。前型が60kmだったから、新型は90km以上となるはず。爽快なEV走行が長距離楽しめるのは朗報だ。加えて朗報なのは新型プリウスPHEVの場合、エンジンが始動しても前型ほど騒々しくないこと。遮音とサウンドのチューニングが効いているのだろう。164kWのシステム最高出力を存分に引き出した、力強い走りを爽快な気分のまま楽しむことができる。

新型プリウスのPHEVは、高い動力性能が魅力のハイパフォーマンスカーだと言える。力強いEV走行も大きな魅力だ。

新型プリウスPHEV(プロトタイプ)

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…