新型プリウス開発はデザインも走りも妥協しなかった「オマエはスポーツカーを作るつもりなのか」と言われても

トヨタ・プリウスZ(E-Four)車両価格:392万円
新型プリウスの開発テーマは「ひと目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」。宣言するのは簡単だが実現するのは難しい。カッコだけで走りも燃費もいまひとつ、では成功は覚束ない。困難な目標を掲げた新型プリウス技術陣はどう開発に取り組んだのか?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

「ひと目惚れするデザイン」のための開発とは?

プリウスZ(E-Four) ボディカラーはプラチナホワイトパールマイカ

「デザインと走りを徹底的に磨き上げ、お客さまの日々を彩るエモーショナルなプリウス」にするのが、第5世代にあたる新型トヨタ・プリウスの開発コンセプトだ。開発陣はこのコンセプトを実現するために、「ひと目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」が必要だと判断した。

前型プリウスはトヨタで初めて新世代のTNGAプラットフォームを採用するなど、走りを意識した仕立てではあった。しかし、走りだけでなく、燃費やデザインもバランスさせようとした。第3世代では後ろ側にあったルーフのピークを前方に移動させたのは、空力のためだ。空気抵抗を減らし、燃費向上に寄与するためである。

全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm ホイールベース:2750mm 車両重量:1480kg 前軸軸重860kg 後軸軸重620kg
左が前型、右が新型。ルーフのピークの位置がまったく違う。

この決断によってデザインが妥協を強いられたのも事実。この結果を踏まえ、第5世代プリウスではデザインに妥協しないことにした。

「燃費をなんとかしようとすると、何らかの我慢を強いられるクルマになってしまいます」と、新型プリウスの開発責任者を務める大矢賢樹氏は話す。「その方向に振りきったのがコモディティです」

日用品的な位置づけだ。豊田章男社長はその方向もアリなのではないかと、開発陣に伝えた。だが、開発陣はデザインを優先することに決めた。コモディティか愛車かでいえば、感性で選ばれる「愛車」の方向に進むことにしたのだ。

「デザイナーには、『デザイン優先でいくから、燃費のことは考えなくていい。まずは好きな絵を描いてくれ』と伝えました。それから走り。カッコイイけど走らないクルマはあり得ない。カッコイイデザインであれば、それに見合った走りにしようと、デザインと走りを二本柱にし開発を進めました」

開発チームを率いる大矢氏は、開発の早い段階でチームを構成する各領域の技術者にデザイナーが描いたデザインスケッチを見せた。具体的なイメージを見せたほうが、新しいプリウスの進むべき方向性をストレートに伝えられると思ったからだ。

これがその初期スケッチ。「PURIUSTORY PHILOSOPHY BOOK」に掲載されている。

「それが一番大きかった」と、動力性能とドライバビリティを担当する技術者は証言した。スケッチを見て新しいプリウスの走りのイメージをし、それをもとに狙いの駆動力特性を作り上げて試験課に持っていった。評価をお願いするためだ。すると、「プリウスでこんなに走らせる必要があるの?」という否定的な返事が返ってきたという。「オマエはスポーツカーを作るつもりなのか」と。

試験課の人はまだ、イメージスケッチを見ていなかったのだ。歴代のプリウスを通じてできあがったイメージをもとに評価したのである。「スポーツカーを作るつもりか?」と言われた技術者は「そうです」と言い切り、押し通したという。試験課の人はそれで納得したというが、押し問答になった場合は切り札として例のイメージスケッチを見せたという。百の言葉より一枚のイメージスケッチだ。消費者よりもまず、開発陣がそのスタイリングにひと目惚れした。

この位置から見ても新型はカッコイイ。

とはいえ、燃費性能はやはりプリウス

富士スピードウェイのショートコースで新型プリウスの味見は済ませていたが、今回は公道を走る機会を得た。2.0Lのハイブリッドだ。システム最高出力は144kW(196ps)で、先代1.8Lハイブリッド比で1.6倍に達する。スペックだけを見れば、「スポーツカーを作るつもりか?」と試験課の人が言ったのも理解できる。

燃費を意識すると妥協を強いられるからと、燃費のことを考えずに開発に取り組んだとはいえ、完全に無視したわけではない。エンジン(2ZR-FXE)も第5世代に進化したハイブリッドシステムも効率が高いので、ことさら意識しなくても世間一般的な評価軸を当てはめれば燃費のいいクルマが仕上がってしまうのだ(と、外野は簡単に言う)。

エンジン2.0L直4DOHC(M20A-FXS)排気量:1986cc ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm 最高出力:152ps(112klW)/6000rpm 最大トルク:188Nm/4400-5200rpm 燃料供給:D-4S(DI+PFI) フロントモーター:1VM型交流同期モーター 最高出力:113ps(83kW) 最大トルク:206Nm
4WDのE-Fourはサイドにこのマークが付く。リヤモーターのスペックはリヤモーター:1WM型交流同期モーター 最高出力:41ps(30kW) 最大トルク:84Nm

2.0L FFのWLTCモード燃費は28.6km/L、リヤに最高出力30kW(41ps)、最大トルク84Nmのモーターを搭載する2.0L E-Four(電気式4WD)の燃費は26.7km/Lだ。先に燃費について伝えておくと、公道といえども平均車速が比較的高く、キロ単位で信号に遭遇しない(つまりストップ&ゴーがほとんどない)状況にプラスして高速道路も含んだルートを数十分間ドライブした際の燃費を伝えておくと、FFもE-Fourも20.0km/Lを軽く超えた。

2.0Lは前型の1.8Lに比べて動力に余裕があるので、アクセルペダルの踏み込みが小さくて済み、「実用燃費は人によっては(前型より)良くなるかもしれない」と大矢氏は言った。確かにそうかもしれないと感じている。2.0Lは最初の一歩(通常はEV発進)からして明らかに、前型より頼もしい。郊外路を周囲のペースに合わせて走っている状況では、踏み込んでいるのに力がついてこなくてフラストレーションが溜まる、といったことがない。イメージどおりに力を出してくれる。

タイヤは195/50R19サイズを履く。試乗車の銘柄はヨコハマのBluEarth GT
FF仕様のリヤサスペンション
E-Four仕様のリヤサスペンション。どちらも形式はダブルウィッシュボーン式
さまざまな場所に「HYBRID REBORN」の文字が刻まれている。その数20個以上!

高速道路の本線に合流する際も、余裕しゃくしゃくという印象だ。それに、走りがいい。カーブとアップダウンが組み合わさった区間では、カーブに合わせてステアリングホイールを切る行為が楽しくなる。切り込んだ際の剛性感が高く、クルマがいまどういう状態にあるのかがわかりやすい。操舵に対するクルマの反応は素直で、ラインをトレースするのに気を使わない。ブレーキや(前型の吊り下げ式からオルガン式に変わった)アクセルの操作性もいい。スポーツカーを作るつもりで走りに対して真摯に向き合い、開発した様子が、ドライバーの入力に対するクルマの素直な反応から伝わってくる。新型プリウスは、クルマとの対話が楽しめる。

E-Fourについては、ディスプレイに前後輪のトルク配分量を表示するモードを選んで走った。発進時は後輪へトルク配分をし、発進をアシスト。ステアリング舵角などからコーナリングであることを判断すると、後輪にトルクを配分して前輪に余力を持たせ、ライントレース性を高める方向で制御する。定常走行時はFF(2WD)だ。

高速道路を定常走行する際もリヤモーターにトルクを配分すればスタビリティが高まって安心・安全・快適(疲れにくい)な走りに寄与すると思うのだが、空冷システムで稼動するハードウェア側の都合で難しいのだという(連続して用いると過熱してしまう)。そこは残念だが、ディスプレイを観察していると、思ったより頻繁にリヤモーターにトルクを配分しているのがわかる。ステアリングヒーターほど機能をわかりやすく実感することはできないが、発進性やライントレース性の向上に寄与しているのは間違いなく、レベルの高い走りに貢献するシステムには違いない。

プリウスの走りはデザイン負けしていない。それが、公道を走ってみての実感だ。運転し終わった瞬間に喪失感に襲われるのは、おもしろい小説を読み終わったときの感覚に似ている。もっと続いてほしかったのに、と。

プリウス Z(E-Four)
全長×全幅×全高:4600mm×1780mm×1430mm
ホイールベース:2750mm
車両重量:1480kg
室内長×幅×高:1840mm×1500mm×1130mm
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/ダブルウィッシュボーン式
エンジン
2.0L直4DOHC(M20A-FXS)
排気量:1986cc
ボア×ストローク:80.5mm×97.6mm
最高出力:152ps(112klW)/6000rpm
最大トルク:188Nm/4400-5200rpm
燃料供給:D-4S(DI+PFI)
フロントモーター:1VM型交流同期モーター
最高出力:113ps(83kW)
最大トルク:206Nm
リヤモーター:1WM型交流同期モーター
最高出力:41ps(30kW)
最大トルク:84Nm
WLTCモード燃費:26.7km/L
 市街地モード23.4km/L
 郊外路モード29.3km/L
 高速道路モード26.7km/L
タイヤ:F&R195/50R19
最小回転半径:5.4m
駆動方式:4WD
車両価格:392万円
 試乗車はオプション込みで416万5300円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…