ソフトで快適。乗り心地を最重視した味付けの新型シエンタ 【新型SIENTA 深掘り解説&試乗コラム】

新型シエンタに試乗した。人気のハイブリッドではなく、ガソリン車の5人乗り(FF)である。ハイブリッドと比べればパワーや燃費は控えめだが、それでも18.4km/lのカタログ燃費と252万円という価格は、その利便性を考えると魅力的に映る。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)

TNGA Bプラットフォームを新採用、盤石のラインナップ

全長4260mm×全幅1695mm。先代からほぼ変わらず、扱いやすいボディサイズを維持している。写真の2WD車の場合全高は1695mmだから、全幅と全高は完全にピッタリ同寸だ。

シエンタはBセグメントのコンパクトミニバン。小さなボディに3列シートを備え、7人乗りを可能にしたことから、7のスペイン語読み「Siete」にちなんで名前が考案された。

初代のデビューは2003年で、2010年に一度、生産が終了し、後継車種は出ないものと思われていたが、ユーザーからの熱烈な要望を受けてマイナーチェンジ版として復活するという珍しい経歴を持つ。

15年7月デビューの2世代目は、歌舞伎役者の隈取りのようなフロントマスクが賛否を呼んだが、アクアのパワーユニットをベースとしたハイブリッド仕様が追加されたこともあり、前モデルと変わらぬ人気となった。

フレンドリーで優しい雰囲気は外観とも共通する。モニターは中央高めの見やすい位置にある。

現行型へのフルモデルチェンジは、22年8月。イメージキャラクターにポメラニアンとプードルのミックス犬“長十桜”を起用し、その可愛さが注目を集めた。クルマもガラリとイメージチェンジ。奇抜さや威圧感のないフロントマスクで発売直後から人気となり、受注台数は発表から3週間で2万4000台に達している。

その最新型は、TNGAのBセグメント用プラットフォームGA-Bを使用。欧州戦略車ヤリスで頭出しとなったもので、ボディ骨格はもちろん、エンジンルーム内のレイアウトもゼロから再構築し、ヨー慣性モーメントの縮小や重量配分の改善を行なっている。

シフト横のポケットや助手席前ポケットなど、実用的な使いやすさが熟慮されているのはうれしい。

パワートレーンもヤリスに準じたもので、新開発の1.5L直列3気筒エンジンM15A-FKSと、それをハイブリッド仕様に作り替えたM15A-FXE+THS-IIシステムの2本立てとなる。

グレードは下から、X/G/Zの3種類で、すべてのグレードに3列シートの7人乗りと2列シートの5人乗りを用意。Zグレードは前後灯火類に専用デザインを採用しており、ひと目で判別が可能。ハイブリッド車には後輪をモーターで駆動する4WDシステム“E-Four”搭載車も用意されるなど、ラインナップも盤石だ。

写真の15インチアルミホイールはZ、Gグレードにオプション設定。標準装備は全車フルホイールキャップ付きのスチールホイールだ。

クロスオーバーSUV風の追加でファン拡大を狙うのもアリか?

試乗車は5人乗りのガソリンエンジン仕様。グレードは最上級“Z”の2WDモデルだ。

ガソリン仕様のエンジンは、ヤリスとも共通する直列3気筒、1.5LエンジンのM15A-FKSだ。

エンジンスタートボタンを押すと、ディーゼルエンジンのような音質で始動。直噴で燃料噴射圧が高いことと、圧縮比が高く圧縮抵抗が大きいこと、3気筒であることなどが理由だと思うが、車両のイメージからすると、少し荒々しい感じがする。アイドル振動もそれなりに出る(アイドルストップ装置は付かない)。

発進しようとして驚いたのが、パーキングブレーキが足踏み式であること。エントリー価格が195万円のクルマに贅沢は言えないとはいえ、ここはヤリスクロスの電動式を持ってきて欲しかった。

発進時のトルク感はなかなか力強い。トランスミッションにダイレクトシフトCVTを採用しているからだろうか。発進時はベルトを使わず、1速相当のギヤ伝達で行うため、文字通りダイレクトな発進加速が得られる。とはいえ想定ユーザーを考えると、もう少し抑えたほうがいいような気もする。

中間加速も良好。ベルト駆動に切り替わっても、普通に走行している分にはエンジントルクを生かしてハイレシオを維持することが多く、エンジン回転が先走るようなシーンはほとんどない。加速すると燃焼音のビート感を感じるが、力が必要な場面なので、むしろ頼もしく思える。3気筒エンジンなので、高回転まで回しても二次振動は発生せず快適だ。

操縦性や乗り心地は、ひとことで言えば、“The 日本の市街地最適仕様”。従来型と同じように、軽いステアリング操作力による取り回しの良さと、低速域でもソフトで快適な乗り心地を最重要視したイメージだ。

ただし低速で荒れた路面を通過すると、タイヤの硬さとサスの初動の渋さが感じられる。サスが動いてからのソフトさとのギャップが大きいため目立ちやすいのかも知れないが、タイヤ空気圧が高い(前後とも240kPa)影響もあるかも知れない。路面変化に対するロードノイズの変化も大きい部類で、NV性能は「松竹梅」でいうと「竹」。

ブレーキはペダルの剛性感は非常に良いが、効きのリニア感がもう少し欲しい。ファーストバイトの減速感に比べ、踏み込んでいった先の立ち上がりが予想より小さいので、乗り始めてすぐはドキッとする瞬間があった(すぐに慣れてしまったけれど)。

全般的に操作感が軽く挙動も軽快で、ターゲットユーザー層には好まれるのかも知れないが、欧州車をマイカーにしている自分にとっては、操舵感やブレーキフィールに少し頼りなさを覚えた。特に2列シート車は、抜群の多用途性を持っているのだから、操舵の手応えやダンパーの初動にしっかり感を与えてロングドライブ適正を高めたモデル(クロスオーバーSUV風?)を追加すれば、アクティブ系のユーザーにも支持が広がると思う。

最後に燃費だが、いつものコース(郊外の市街地を含む一般道9.6km)をほどほどにエコドライブして17km/L。モード燃費のカバー率92%はまずまずの成績だった。

トヨタ シエンタ ガソリン車 Z(2WD)


全長×全幅×全高 4260mm×1695mm×1695mm
ホイールベース 2750mm
最小回転半径 5.0m
車両重量 1280kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソンストラット R:トーションビーム
タイヤ 185/65R15

エンジンタイプ 水冷直列3気筒 
エンジン型式 M15A-FKS
総排気量 1490cc
最高出力 88kW(120ps)/6600rpm
最大トルク 145Nm(14.8kgm)/4800-5200rpm

燃費消費率(WLTC) 18.4km/l

価格 2,520,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…