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ビギナーにとっても、クルマいじりに欠かせない工具の筆頭格がラチェットハンドル。クルマ好きならきっとひとつは持っているに違いない。
どのメーカー製品でも見た目にそれほど違いがないラチェットハンドルだが、大量生産品とプロも使う高級品では、造りも使い勝手も大きく違うのが実状だ。その違いは、実際に手で触れ、そして使うごとにより明確になってくる。
その最たる事例こそ、ここで紹介するネプロス『9・5sq.ラチェットハンドルNBR390A』だ!
プロも認める工具界のハイブランドがネプロスであり、そのネプロスが10年ぶりに徹底的に細部を見直して改良された最新モデルとなる。
良さを引き継ぎ、さらにその先を行く
微に入り細を穿つ、企画設計の地道な現場
KTCブランドのフラッグシップであるネプロスの、しかもラチェットハンドルともなれば、自動車用工具のなかでも顔中の顔と言える。さらに言えば、10年振りの大型刷新である。かなりの重責を任されたその人こそ、入社10年目の大西氏だった。
「入社したのは、この前のモデルが発売された頃。その後12・7sq.の9・55sq.より大きいモデルを担当し、その後6・3sq.の小さいモデルを設計しました。シリーズとしては一周した形ですね。前モデルの開発から10年が経つ頃に改めてこのシリーズを改良していこう、進化させていこうという流れになりました」
大西氏は設計者でもあり、企画者でもあった。
「設計者であるので実現可能な数値を求めがちになりますが、そうではなく作れる作れないはさておき、企画者としての自分が、何を必要とされているかを考えていく必要がありました」
聞くだけに、茨の道である。
「前モデルで評価を頂いていた良い重量バランスを引き継ぎながらも、さらに工具としてさらに深化させていく必要があります。ニーズを知り仕様をまとめると設計の思考になってきます」
後継モデルにおける、最大の特長は軽量化である。
「本当に必要な部分は何なのかを考え、必要な部分は残し、削れる部分を除去していき今回の製品を作り上げました。手計算と試験を繰り返し得た知見を活かし、今回はコンピュータでの解析を駆使しさらに精度を高めました」
構成部品のひとつ、クロウの形状などはその最たる例だ。
「小型化した分、さらに内部でもクロウがしっかり噛み合い、強度を持たせることが必要です。ラチェットの特性上、ギアとクロウを離脱させることも考えねばならず、小型化した分その点で苦労しました。初期の試作はギアは噛み合い、耐久試験や破壊試験をしても基準値以上でしたが、反対側に回した際にギアが空転してしまう。
個々の軸間を広げたり、幅を調整したり範囲の角度を変えたりと、微調整をかけていきながらようやく動くようになりました。この微調整というのはCAD上ではわかりづらく、実物を手作業で調整すると動くようになるので、それをCAD上で戻し、再設計をするというプロセスを繰返しより良い機構を創りました」
それは、最優先とされる安全性の確保にもつながっている。
「このラチェットハンドルで言えば、万が一破損する際、差込角の根本が壊れる様に設計しています。仮に力を入れた時にギアが破断してしまうと結構な衝撃になってしまい、安全性を失ってしまうためです。KTCとしては安全を第一に考えているので、その様な無理な使い方をしても安全に壊れるような設計を優先します。
そのように部品ごとに破壊の序列をつけますが、時にオーバースペックになりがちです。解析と本物の試験をうまく活用して調和することにより、序列のギャップを小さくできる。この方法で理想的な無駄のないスペックに仕上げています」