脱・温暖化その手法 第54回 ―太陽電池発電を林業とコラボしてみては?ー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

太陽光発電も着目点を変えれば大きな可能性が見えてくる

前回、日本で必要な電力を太陽電池でまかなうものとした場合、国土面積の6.3%が必要になるとの見積りを示した。

東京都の面積は約2000km2であるから、日本の国土面積の38万km2の0.5%に過ぎないことを考えると、とてつもない面積が必要に見える。

この面積の土地を確保するために、まず林業との融合ということを考えたい。日本の国土面積のうち70%は森林であることは良く知られている。その中で人工林と自然林の割合は約半々である。自然林とは人間の手入れが入っていないところで、ここは治山治水のためにも大切に保有することが求められる。

人工林は杉や松の場合は植林してから約60年で、檜は70~80年で成木になり、建築用材として利用可能となる。この時期が来たら伐採し、その後に植林を行ない、同じ年月をかけて成木にするということを何百年も繰り返し、日本の林業は成立してきた。ところが輸入する木材は国産材より安価という状態が続いている。

その理由は日本ではかなりの急斜面で伐採がしにくく、しかも伐採した木を運ぶために必要な林道が十分に整備されていないために、木を切り出すことに費用がかかってしまう。しかし、外国産の木材は大きな林業用機械を用いて、地域の森林を根こそぎ切ってしまうという手法を取るために、木材価格は安価になる。

こうなると悪循環で、せっかく植林した木が成長しても売れないために手入れが行き届かなくなり、さらに伐採がしにくくなるという状態になっている。結果として、日本では自給が100%できる量の木の成長がありながら、林野庁が発表している2021年の自給率は41%となっている。

せっかく我々の親の世代の人々が子や孫たちのためと考えて植林をしてくれていたにも拘わらず、伐採可能になった多くの山林が放置されているのは大変にもったいない。

そこで林業と太陽光発電の融合ということが有効であると考えている。

このために古くからの知り合いで、南三陸町で代々林業を営んできた佐藤久一郎氏から話を伺ってきた。それによると、杉と檜は土地の養分が必要であるということと、植林してから7年間はほとんど木が成長せずに影を作ることは少ないこと、また7年間は下草刈りをしないと木が負けてしまうためにその手間が大変ということである。

このことにヒントを得て、林地を9分割する。その1ヶ所の木を先ず伐採し、そこに苗を植えると同時にパネルを敷き詰める。すると下草は生えず、この期間であれば養分を含んだ土壌の流出がなく、苗木は影を作らない程度まで成長する。7年が経過したところで隣接する木を伐採し、苗を植えるとともにパネルを移動させる。

すると7年前に植えた苗は成長を続ける。さらに7年が経過したところで再び隣の木を伐採してパネルを移動させる。すると21年が経過する。パネルの寿命は20年強とすると、さらに隣接する木を切って新しいパネルを設置する。これを3回繰り返すと60年が経過し、60年前に植えた苗が十分に成長し、伐採可能となる。するとこの木を切って再び苗を植え、同時にパネルも設置すれば、林業を継続的に行ないながら発電も行ない、その電力を売ることによる収益を加えると、木材の価格を外国産に対抗できる価格としても総収入は増えることになる。

林業とのコラボレーションを計算してみる

太陽電池を設置することによる利益を求めてみよう。

太陽光発電に必要な費用はパネル自体の価格と、太陽電池の電流は直流なのでこれを交流に転換するためのパワーコンディショナーの費用、および近くの電力線にまで配線を行なう費用となる。1kWの発電ができるパネルの面積は約10m2で、年間で起こせる電力は約1,000kWhである。その寿命を20年とすると、2万kWhの発電が可能である。パネル価格は10万円、パワーコンディショナーと配線費用もほぼ同額として、20年分の利息を考えると、発電の原価は4.5円/kWhと見積もられる。これにパネル設置のための利益を3円/kWhとして加えたとして、電力会社が買う電力はわずか7.5円/kWhとなる。

現在、日本の発電の主流は液化天然ガスを用いた発電であるが、経産省基本政策分科会に対する発電コスト検証に関する報告によれば、2022年11月の発電コストは20円となっている。これに比べで太陽光発電は十分に安価である。

これまでの太陽光発電に費用がかかってきていたのは、南向きの架台をわざわざ作り、かつ土地取得に大きな費用を要していて、それぞれに関わるビジネスで相当の利益を出していたことによる。

しかし林業との融合では土地代はかからない。また架台はわざわざ作らず、地面にそのまま置くだけでも発電量はそれ程変わらない。真南向きに最適な角度でパネルを置いた場合と、水平に置いた場合とでは年間で8%の発電量の違いでしかない。これを考えるとパネルは十分に安価になっている今、わざわざ架台を設ける必然性はなくなっている。

こうして林業と太陽光発電の融合が全国的に行なわれた時の年間の発電量を求めてみる。

日本の人工林は国土面積の70%が森林である中のさらにその約半分であるから、約10万km2となる。太陽電池の発電能力は1m2当り約100kWhである。太陽電池で起こせる発電の量は約1兆kWhとなり、現在の日本での発電量に匹敵する発電が可能である。ここでは農業や漁業と太陽光発電の融合のことまで述べたかったが、それは次回にまわすことにする。

Eliicaの実物大モデル
Eliicaの型を用いて、メス型を作り、これからさらに形成した実物大モデル。

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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…