新型GLCの走りの良さは一級品! 最も売れてるメルセデス中核モデルの進化とは?【メルセデス・ベンツ 新型GLC試乗記】

世界的なSUVブームのなか、プレミアムクラスのミドルサイズSUVは非常に人気の高いカテゴリーだ。そのカテゴリーに属するGLCはメルセデス・ベンツの中で最も売れている中核モデルである。初のフルモデルチェンジを実施した新型GLCはどのように進化したのか、試乗を通してその答えを探っていこう。
REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune) PHOTO●井上 誠(INOUE Makoto)

新型GLCは大成功作だった初代をキープコンセプト。日本の道路事情に合ったサイズ感を維持 。

メルセデス・ベンツ 新型GLC 220d 4MATIC(ISG搭載モデル)

メルセデス・ベンツGLCが属するセグメントは激戦区だ。ここはもともと2003年に本国発売されたBMWのX3が開拓した市場だが、今ではアウディやボルボ、ポルシェ、レクサス、ランドローバーにジャガー、アルファロメオ、マセラティ、キャデラックなにがひしめく。

新型GLCの先代にあたる初代GLCは2015年(日本発売は2016年)に発売された。初代GLCは発売直後からヒットしただけでなく、年を追うごとに存在感をどんどん高めていったのも特徴だ。モデル末期の20年と21年にはメルセデスSUVで最多販売を記録したほか、21年にいたってはCクラスも上回る「メルセデスのベストセラー」だったという。

全長×全幅×全高:4725mm×1890mm×1635mm

新型GLCのデザインやパッケージレイアウトが、一見すると先代と区別がつかないほどキープコンセプトなのは、初代がこのように大成功作だったからでもある。サイズ感もほぼ先代同様で、寸法的には全長が先代比で50mm、ホイールベースが同じく15mm伸びたのみ。

1890mmという全幅は変わらず、全高も5mm低くなっただけだが、フェンダーが張り出した下半身の踏ん張りや、上屋のキャビンをより強く絞り込んだプロポーション、そして最新のメルセデスデザイン手法によって、実車は先代よりはっきりと低重心感が増している。

ホイールベース:2890mm 車重:2020kg
ボディカラーはモハーベシルバー。
ラゲッジスペースは620L~1680Lと大容量。

インテリアの基本造形はCクラスに似ているが、ソフトパッドを使う部位が増えて、日本仕様ではウッドパネルが標準となるなど、Cクラスより高級な仕立てとなっている。オフロードモードにすると、ボンネット下が透けたように見えるカメラ機能(ご想像のように、本当のリアルタイム映像ではなく、直前の録画映像が見える)といったハヤリのデバイスにもぬかりはない。

メルセデス・ベンツの最新インテリアが新型GLCに導入されている。

日本仕様の2.0Lディーゼルは、お世辞ぬきに素晴らしい走り!

最大トルク440Nmを生み出すトルキーなディーゼルエンジンと堅牢なボディ。直進性や旋回時のライントレース性も素晴しい。

グローバルでは2.0LガソリンやそれベースのプラグインハイブリッドなどもあるGLCだが、日本仕様はひとまず最新2.0Lディーゼルを積む「220d」のみ。駆動方式は4WD。GLCはグローバルでも全車4WDとなっている。

さらに新型GLCは全車電動化されているのも特徴で、このGLC220dにもエンジンと変速機の間に23ps/205Nmのスターター兼発電機(ISG)が組み込まれて、純粋な電気走行はできないが、アイドルストップからの再始動や加速時のアシストなどをおこう。すなわちマイルドハイブリッドである。

エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 排気量:1992cc
最高出力:197ps(145kW)/3600rpm 最大トルク:440Nm/1800-2800rpm

日本仕様は現時点でグレードも1種類のみで、内外装をアップグレードする「AMGラインパッケージ」や本革シートやARナビゲーションシステム、ブルメスターサラウンドシステムなどをセットにした「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ」、自慢のリヤステアリングとエアマチックサスペンションによる「ドライバーズパッケージ」などが用意される。これらをフル装備すると、ビジュアルも走りも一気にアップグレードする。ただし、価格も1000万円に限りなく近づくが……。

タイヤサイズは235/55R19

今回の試乗車はそれらのオプションを全部乗せした仕様だったが、その走りはお世辞ぬきに素晴らしい。最大トルク440Nmを生み出すトルキーなディーゼルエンジンはISGのアシストもあって、スムーズで力強い。ディーゼル音は静かとはいわないが、過給ラグを感じさせないトルク供給とスルリと滑らかなアイドルストップの作動感で、パワートレーン全体にも高級感がただよう。

また、いかにも堅牢なボディはこのパワートレーンに対しても余裕たっぷり。直進性や旋回時のライントレース性も素晴らしく、ボディだけでなくサスペンションも含めたGLCの基本能力の高さがうかがえる。

オフロードモードを選択するとディスプレイのグラフィックが変化する。
オフロードモードでボンネット下が透けたように見えるカメラ機能「トランスペアレントボンネット」を搭載。

後輪操舵システムで最小回転半径5.1mという小回り性能。

後輪操舵システムは狭い路地だけでなく、ワインディングでもいい仕事をする。

いちばん驚いたのはオプションで装着されていたリヤステアリング=後輪操舵のメリットだ。GLCのそれは車速60km/h以下では前輪と逆方向に切れる逆位相、それ以上の速度では前輪と同方向の同位相となり、それぞれ最大4.5度まで切れるという。

その結果として、低速では最小回転半径5.1mという小回り性能を獲得している。せまい路地や駐車時の取り回しに便利なのは当然として、交差点や山道でも、最小操作でヒラヒラと操れるのは素直に楽しく、肉体的にも負担が少ない。

もっとも、昔ながらに目視と車両感覚だけでバック駐車しようとすると、四輪操舵に違和感があるのは否めない。しかし、最近のクルマは四方にカメラが装備されており、GLCはクルマを真上から眺める360°カメラシステムも標準装備。昔ながらの感覚を捨ててカメラ映像を頼りに(目視は最終確認のみとして)取り回せば、正直いって多少の違和感など関係ない。四輪操舵も360°カメラも、一度慣れると、もう手離せなくなってしまうだろう。

オプションのパノラミックスライディングルーフ(22万円)を設定すると、開放的な空間を味わうことができる。

さらに四輪操舵は同位相での高速安定性でも効果絶大。まるで見えないレールのハマって走っているかのような安定感だ。同位相には限界性能を引き上げて、ロールも小さくできるという明確な機能的メリットがある。背の高いCLCが、サスペンションが柔らかくコンフォートモードでも高速で意外なほど安定しているのは、四輪操舵のおかげだろう。

同じシステムでも背の低いCクラスでは人によって「四輪操舵は違和感あり」と敬遠するクルマ好きもいるだろうが、GLCのそれは多少の違和感よりメリットのほうが明らかに上回る。前記のとおり、GLCの四輪操舵は、エアマチック(=エアサス+電子制御ダンパー)とセットで49万円のオプション扱い。ほかのオプションはともかく、個人的には、これだけはつけておきたい。

メルセデス・ベンツGLC 220d 4MATIC(ISG搭載モデル)
全長×全幅×全高:4725mm×1890mm×1635mm
ホイールベース:2890mm
車重:2020kg
サスペンション:F4リンク式/R マルチリンク式
駆動方式:4WD
トランスミッション:9速AT
エンジン
形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
型式:OM654M
排気量:1992cc
ボア×ストローク:82.0mm×94.3mm
圧縮比:
最高出力:197ps(145kW)/3600rpm
最大トルク:440Nm/1800-2800rpm
燃料供給:DI
燃料:軽油
燃料タンク:62L

モーター
EM0023型交流同期モーター
定格電圧:44V
定格出力:10kW)
最高出力:17kW
最大トルク:205Nm

WLTCモード燃費:18.1km/ℓ
 市街地モード 14.3km/ℓ
 郊外モード 18.5km/ℓ
 高速道路モード 20.1km/ℓ

車両価格:820万円

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