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7分44秒881 ニュルブルクリンク北コース最速タイムをマーク
ホンダ・シビック・タイプRがドイツのニュルブルクリンク北コースで性能評価のための走行テストを行ない、FFモデルで最速となる7分44秒881を記録した。シビック・タイプRが目指したのは、「官能に響くドライビングプレジャー」だが、同時に、スポーツモデルの本質的価値である「速さ」を開発のコンセプトに掲げている。ニュルブルクリンクでFF最速タイムを記録したことにより、速さの面で使命を全うしたことになる。
そのシビック・タイプを日常使いする機会を得、4日間で約600km走った。その間、運良くタイミングが合ったので、Motor Fan illustrated誌で「RACING CARエンジニアの流儀」の連載を持つ永嶋勉氏にタイプRを観察してもらった。永嶋氏は量産車の開発を経てラリーカー、スポーツプロトタイプ、ツーリングカー、F1、GTの車両開発とレースオペレーションに携わった経験を持つ現役のエンジニアである。ラリーカーの開発では、自らステアリングを握り、箱根の山中を走り回ったとか。
大磯(神奈川県)の駐車場でシビック・タイプRと対面した永嶋氏は、「いいところにコレ付いていますねぇ」と、ボンネットフードに目をやった。フロントグリルの開口部から取り込んだ熱交換器類の冷却風を排出するアウトレットだ。
「一番圧力が低くなるのがこのあたりでしょう。フロントガラスに近いところは正圧になるので、空気が抜けてくれません」
ボンネットフードを開けて裏を覗くと、空気をすくうように受けるためのガイドが付いている。ラジエーター冷却風をエンジンルームに入れず、フロントグリルから入れてボンネットで抜くのは、量産車ベースのレーシングカーでは設計のセオリー。タイプRの場合は完全に独立したダクトが形成されているわけではないが、多分にレーシングカー的な設計になっている。
後ろにまわってリヤウイングを見ると、やはり「よくできていますね」とコメント。「CFD(コンピューターを用いたシミュレーション)や風洞でさんざん試したのでしょう」と永嶋氏は目を光らせる。リヤウイング中央部の角度はほぼ水平で、
「これで効果ある?」と疑問に思うかもしれないが、空気はリヤウインドウに沿って降りてくる。そう考えると、充分に迎え角は付いており、相応のダウンフォースを発生しそうなことがわかる。広報資料には、200km/h時に580Nのダウンフォースを発生するとの記述がある。空気が横から回り込んでくる両端部はきちんと角度が付いており、よく練られた形状だ。
以下、シビック・タイプRに乗り込み、運転し、降りるまで、忖度なしのコメントである。
ドライビングポジション、操作系
・シートのフィット性はすごく良く、コーナリング中に上体がよじれない。
・ヒップポイントはもう少し低くてもいいかも。
・ステアリングホイールのタッチは○・ペダル配置も○
・視界は良好。ただし、夜間の右コーナーでは先が見にくい。
・シフトフィーリングに関しては、もう少し、ススッと入ってほしい。
・(個人的には)ステアリング操作とブレーキ、スロットルコンとロールに集中したいので、シーケンシャルのシフト機構が欲しい。パドルならなお良し。
・レブマッチシステム(ダウンシフト時の自動回転合わせ)はものすごく助かる。
操安性
・ステアリングは切ったなりに曲がる。切り増し時もクルマがついてくる。きちんと内輪が使えている印象。
・ロールが少ない。もっとあっていいかもと感じた。なぜなら、ロールコントロールもクルマを操る際の気持ち良さにつながるから(スタビライザーの効率は悪そうに見えるので、ロール剛性は主にスプリングでコントロールしている?)。
ブレーキ
・良く止まる。山ではペダルの踏み込み初期が少しスポンジーになったかも。しかし、踏めば奥は効く。リリースのコントロール性に不満はない。(箱根の)ワインディングレベルなら、下りでもフェードの兆候はまったくなし。
乗り心地、音振
・もう1ステップソフトなモードが欲しい(各モードを試したが、COMFORTを基本に走行)。
・硬い割りに接地が失われることはない。路面の悪い上り勾配で一瞬空転らしき挙動はあったが、TRC(トラクションコントロール)が入った感じではなかった(入っていたのかもしれないが)。
・目地を乗り越える際のショックはタイヤ(MICHELIN PILOT SPORT CUP2 CONNECT)に助けられている印象。
・ロードノイズは許容範囲。
・エンジン音、排気音は気にならない。いっぽうで、楽しめる感じでもない。ターボのせい?(NAではないから?)
「2735mmのホイールベースはドンピシャですね」と永嶋氏。「荒れた路面でのピッチングの抑制と、回頭性とスタビリティの両立に貢献していると思います。確か、レクサスRC Fがそのくらいの数値でした」
RC Fのホイールベースは2730mmだ。RC Fを引き合いに出したのは、氏が「ユーザーフレンドリー」であることを開発コンセプトに掲げたレクサスRC F GT3 2017年モデルのチーフエンジニアを務めたことと無縁ではないだろう。
「RC F(車重1720~1770kg)に比べると車重がだいぶ軽い(タイプRは1430kg)ので、運動性は格段にいい。エンジンパワー(最高出力243kW、最大トルク420Nm)と車重、ホイールベース/トレッド(前1625mm、後1615mm)のパッケージがぴったりなんだと思います」
シビック・タイプRが目指した「速さ」と「官能に響くドライビングプレジャー」に感服した様子だった。
ホンダ・シビック タイプR 全長×全幅×全高:4595mm×1890mm×1405mm ホイールベース:2735mm 車重:1430kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式/R マルチリンク式 駆動方式:FF エンジン 形式:直列4気筒DOHCターボ 型式:K20C 排気量:1995cc ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm 圧縮比:9.8 最高出力:330ps(243kW)/6500rpm 最大トルク:420Nm/2600-4000rpm 燃料供給:DI 燃料:無鉛プレミアム 燃料タンク:47ℓ WLTCモード燃費:12.5km/ℓ 市街地モード 8.6km/ℓ 郊外モード 13.1km/ℓ 高速道路モード 15.0km/ℓ