ワイパーやルームミラーが外れる地獄を経て、エンジンからの異音が盛大になったと前回の記事で紹介した我がジャガーXK8。これまで順風とは言えないまでも、中古ジャガーらしく出てくるトラブルを解消してきた。
ところが今回の異音はなかなか難敵に思える。J-Gear Labの長澤さんをして「深刻な音」と言わしめた異音はエンジン付近から発生している。音の発生源を突き止めなければ対処方法もわからない。そこでリフトに上げたまま何度もエンジンを吹かして音源を探ることにした。
筆者が乗車したままリフトで車体を持ち上げ、アクセルのオンオフを繰り返しながら長澤さんがエンジンの下回りを注視する。すると「わかった!」と大きな声が。続けて「棚落ちだ!」と、なんとか症状が判明した。
当初「あまり聞いたことがない音」とお話しされていた長澤さんだが、豊富な経験のうち数少ない症例として「触媒の棚落ち」を経験されていた。「思い出しました」と続けて、触媒内にある隔壁が崩壊したことにより、負圧のかかり具合で崩壊した隔壁が暴れて音を発生しているとの診断だ。
国産車に乗っているだけなら、あまり経験することのないトラブルと言えそうな触媒の棚落ち。ところが後日、W210メルセデス・ベンツE400に乗っていた友人と話をしていると「Eクラスでも触媒から音が出た」とのこと。
Eクラスはエンジン下とマフラー側にも触媒があるため、1つダメになっても車検に通るとのことで放置していたそう。だが、音が出ているのは精神的によろしくない。ここは素直に交換しよう。そこで長澤さんにパーツの手配を頼むと、10日ほどで海外から入庫した。その価格は6万円(税込)で、おそらく純正の半額程度。
パーツが届いた連絡を受け、再度J-Gear Labへ足を向ける。「おそらく1時間半程度で交換できるでしょう」と長澤さんに言われていたので午前中に作業をお願いした。作業はまずエアクリーナーから伸びる吸気ダクトを外して、触媒を固定しているボルトを上から抜く。
単にボルトを抜くと言っても、相手は長年熱にさらされてサビが進行している。簡単に抜けるわけもなく、潤滑剤を吹き付けながら徐々にトルクをかけていく。無理な力でレンチを使うと最悪ボルトが折れることもあるので、慎重な作業が求められる。
それでもボルトはなかなか弛まず、外れたと思えばスタッドになっているナットまで一緒に外れてしまう。さすがに20数年も使われてきただけに、簡単にはいかない。例えば触媒を安く個人輸入したとして、こうした配慮を持ってDIYで作業できるかといえば疑問。やはりプロの技が光る。
ところがしばらくして、なにやら長澤さんの手元から火花が散っている。どうしたことかといえば、触媒の下に装着されている遮熱板のボルトが完全固着して外れない。触媒下の遮熱版はXK8初期モデルにだけ装備されているもので、同じ4リッターモデルでも途中から装備されなくなる。確かに年式的に装備義務はなく、外しても問題ない部品。そこでサンダーにより切断してしまうことにされたのだ。
遮熱板を外して「軽量化になりました」と笑う長澤さんだが、まだまだ試練は続く。触媒を固定しているボルトを今度は下から抜くのだが、これまた硬い。申し訳ないと思いつつ、作業中の長澤さんを撮影すれば、上写真のような表情。いかに固着したボルトを抜くのが大変かを物語っている。
しばらくボルトと格闘していた長澤さんが、ようやく安堵の表情を浮かべた。なんとか触媒が外れてくれたのだ。外れた部品の内部をのぞけば、音の発生源が見える。内部の部品が外れ暴れていたのだろう。ちなみに触媒にはレアメタルが使われているため、こうした中古部品にも需要があるという。
用意していた新品の触媒を装着すれば作業は完了だ。と書けば簡単だが、ここから本当の難局を迎える。パイプ径がほぼ同じなため、そのまま素直に触媒が入ってくれないのだ。純正パイプを広げたり触媒側を削ったりしながら1時間近くかかって、ようやく作業が完了した。その様子を見ていて、間違えてもDIYで交換しようなど考えてはいけないと痛感。
作業後、実に気分良くXK8は走ってくれている。5月だけでも奈良往復、名古屋往復、群馬、茨城と各地へ飛び回り走行距離は前回のオイル交換から4000キロにもなった。以前にDIYでオイル交換した際に、遅効性の添加剤を使用したことを記事にした。その成果が出たようで、エンジンはすこぶる快調。レッドゾーンまで澱みなく回り、以前に指摘された右バンクVVTの作動不良も感じられなくなっている。さらに奈良を往復した際は新東名区間をクルーズコントロールに頼りアクセルから足を離したままだったのが功を奏したのか、燃費は過去最高の11km/Lを記録した。日々XK8を味わう幸せは極上なのだ。