水素エンジンのレクサスLX、燃料電池のトラック…トヨタは水素の可能性を信じている 

水素エンジンを搭載したレクサスLX。3.5L・V6エンジンを水素エンジン化した
トヨタが水素の可能性に賭けているのは周知の通り。水素燃料電池車のMIRAI、S耐での水素エンジン、ダイムラーとの持ち株会社設立……どれもが水素が関係している。カーボンニュートラリティへの道は一本ではないというトヨタは、やはり水素関連の開発をものすごい勢いで進めていた。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:TOYOTA

大型FCトラックは静かでスムーズで600km

トラックは同乗試乗だったが、軽の商用BEVバンとハイラックスBEV、レクサスLX水素エンジン車はドライブできた。

今回のワークショップで中嶋裕樹・トヨタ自動車副社長/Chief Technology Officerは、「大規模水素消費の普及スピードを上げる」とスピーチした。また、水素ファクトリープレジデント(7月1日就任予定)の山形光正氏は、次世代セル技術や次世代FC(燃料電池)システムといった、「競争力のある次世代FC技術の革新的進化に取り組んでいく」と説明した。5月26日~28日に富士スピードウェイで行なわれたスーパー耐久シリーズの一戦、富士24時間でも、トヨタは数々の水素技術を展示している。最近のトヨタの動きからは、水素消費の普及スピード向上に向けて本腰を入れて取り組んでいる様子が伝わってくる。

水素燃料電池は、次世代でコスト半減を目指す
次世代ではトータルでディーゼルエンジンを上回るコストと性能を目指す。
現在はMIRAIの燃料電池モジュールの整数倍でしか対応できないが、複数の出力バリエーションを揃える。

次世代FCシステムに関しては、「商用ユース(高寿命、低コスト、低燃費)に応える業界トップクラスの性能を実現する革新的な次世代燃料電池セルを開発中」で、2026年の実用化を目指すと発表した。高寿命とは100万km以上の走行に耐えることを意味し、実質的にメンテナンスフリーとなることを指す。水素と大気中の酸素を反応させて発電を行なう燃料電池スタックのコストは現行比2分の1を追求。効率改善により航続距離は20%増を見込む。

現在は燃料電池車(FCEV)のMIRAIが積んでいる燃料電池モジュールの整数倍でしか対応できないが、将来的には同一設備で混流可能なセルを原単位とし、セルの枚数を変えることで複数の出力バリエーションをそろえる考えだ。これが実現すれば、要求出力に合った燃料電池モジュールを効率良く(ということはコスト低減を図りながら)、展開することができるようになる。

日野プロフィアにMIRAIのFCモジュールを2基、水素を6本のタンクに50kg積んで600km走れる。最高速度は90km/h。水素充填には30分かかる。

ワークショップでは、FC大型トラックの同乗試乗を体験した。日野自動車のプロフィアがベースで、燃料電池モジュールはMIRAIのそれを2基搭載。専用に開発した70MPaの高圧水素タンクをキャビンと荷室の間に2本、前輪と後輪の間に左右それぞれ2本ずつ前後方向に並べて搭載している。6本のタンクに合計50kgの水素を搭載し、600km以上の航続距離(東京~大阪間に相当)を見込む。

燃料電池スタックで発電した電気でモーターを駆動して走るので、走行フィールは電気自動車そのものだ。静かでスムーズである。ドライバーに話を聞くと、従来のディーゼルエンジン車に比べて「全然楽」だという。FC大型トラックに乗った直後に、ディーゼルエンジンを積んだ大型トラックにも乗せてもらった。

FC大型トラックと同様に発進から60km/hまでの全開加速を行なってもらったが、騒々しいのなんの。空荷といえども3速までは苦しげに加速し、変速のたびに加速度の変動によるショックが発生する。4速に入ってようやく伸びのある加速をするのが実態だ。ディーゼルのこの走りと比べると、水素で発電した電気によるモーターの走りは比べものにならないほどスムーズ。「疲れかたが全然違う」というドライバーの言葉に対し、素直にうなずくことができた。

電気自動車と水素燃料電池車の境目になるのが、小型トラック。今回同乗できたのはFC小型トラック。ベースはいすゞエルフだ。

会場にはFC小型トラックも用意されており、やはり同乗試乗することができた。ベースはいすゞエルフで、いすゞ自動車、トヨタ自動車、日野自動車、CJPT(Commercial Japan Partnership Technologies、トヨタ、いすゞ、スズキ、ダイハツが参画し商用分野で脱炭素に取り組む。代表取締役社長:中嶋裕樹)が共同で企画・開発を行なった車両だ。水素貯蔵量は10.5kgで、航続距離は260km以上と発表されている。

FC大型トラックを走らせることで幹線道路に水素ステーションのネットワークをつくり、中継地を拠点に小型トラックでカバーできる範囲で配送を行なう。トヨタはFCの商用車に力を入れ始めたが、それは水素ステーションのネットワークを拡充し、安定稼働させるためで、乗用FCEVを諦めたわけではない。その証拠にクラウン・セダンのFCEVを2023年秋頃に発売すると予告している。

水素エンジンのレクサスLXに試乗 NOxはどうする?

レクサスLXは、写真の通りナンバーを取得しているからもちろん公道も走れる。高圧水素タンクは荷室に積んでいる。
水素エンジンの課題のひとつはNOxの生成だ。これはディーゼルエンジンの廃棄後処理技術を使うことで克服するという。

水素の使い道としては水素エンジンも考えられる。ワークショップでは、レクサスLXのV35A-FTS型、3.5LV6ツインターボガソリンエンジンを水素エンジン化した試験車両が用意されており、試乗することができた。荷室部分にMIRAIの高圧水素タンク(大中小3種類あるうちの「中」)を4本搭載し、水素貯蔵量は8.4kgだ。ガソリンエンジンと遜色ない走りだったと言いたいところだがトランスミッションとの適合途上のため、出足はまったりとしていた。

水素は最小点火エネルギーが小さいので、混合気をリーンにしても火がつく。熱効率の観点で好都合だが、燃焼温度が高いこともあってNOxが発生しやすい。レクサスLXの水素エンジン試験車両は、NOxを還元する装置としてSCRを搭載していた。ディーゼルエンジン車の開発で築き上げてきた技術を上手に転用した格好である。

BEV化したハイラックス。北米市場を考えるとピックアップトラックのBEVは将来必要になるだろう。
スズキ、ダイハツ、トヨタの3社が共同開発する軽商用バン。2023年度内に導入予定。

会場にはBEVが2台あった。1台はピックアップトラックのハイラックスで、もう1台は軽商用バンのBEVである。前者は北米での需要に応える格好。後者は先のG7広島サミット(主要国首脳会議)に際し、カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みを紹介する展示イベントで公開された車両で、スズキ、ダイハツ、トヨタの3社が共同で開発を行なう車両だ。生産はダイハツが担当する。

航続距離は200km程度を見込んでおり、スズキ、ダイハツ、トヨタがそれぞれ2023年度内に導入する予定。配送業等のニーズを想定している。導入時期を間近に控えているだけあり、完成度の高さが印象に残った。BEVは発進・停止を繰り返す配送業務に向いているし、発進がスムーズで力強い運転フィールはドライバーの負担軽減につながるはず。BEVだからこその静粛性の高さは、住宅街で歓迎されそうだ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…