アリーン(Arene)OS、ウーブンシティ、AI……理解が追いつかないほどのスピードで進化するトヨタの知能化技術

トヨタが開発するArene(アリーン)OS
トヨタ自動車は6月8日、「トヨタテクニカルワークショップ2023」を東富士研究所(静岡県裾野市)で開催し、モビリティカンパニーへの変革を支える電動化、知能化、多様化を支える新技術を報道陣に公開した。このうち、知能化を加速する技術について紹介していこう。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:TOYOTA

Arene OS

「知能化」は次世代技術の重要キーワードのひとつ

クルマの知能化を加速するソフトウェアプラットフォームかつ車載OSがArene(アリーン)だ。Arene OSはクルマのソフトウェアを効率的に開発/評価するためのツール群=Tools、最先端のソフトウェアを容易にクルマに搭載するための開発キット=Software Development Kit(SDK)、人とクルマ、クルマと社会が相互に作用するための仕組み=User Interaction(UI)の3つの柱によって補完される。

トヨタのモビリティ技術を開発する子会社のウーブン・バイ・トヨタが4月11日に発行したプレスリリースには、2025年にAreneを実用化し、2026年には次世代BEVへの搭載を目指しているとの記述がある。

次世代音声認識

まるでオペレーター(人間)と話しているかのような対話のスピードが印象的だった。

次世代音声認識のデモンストレーションがあった。Arene OSの上に音声認識の機能が載る格好。最新のAI技術を活用し、まるでオペレーターと対話しているような、高速・高性能なレスポンスが実現する。

例えば、「うなぎを食べに行きたい」というドライバーの提案に対し、場面や好みに合わせた提案をクルマ側から返してくるが、答えを全部聞く前に、「やっぱりハンバーガーがいいや」と言葉を被せるように話かけてもきちんと対応してくれる。次期グローバル量産モデルに搭載予定とのことだ。

高効率輸送オペレーション支援システム E-TOSS

E-TOSSはすでにイオンの物流子会社と協業して実際に使われている。

クルマがインフラや街とつながり、新しいサービスを提供する例。E-TOSS(Efficient Transport Operation Support System)はリアルタイムの交通情報を活用し、輸送効率を高める物流システムのこと。正確な輸送・配送計画を通じ、①CO₂排出量、②作業人員、③物流コストの約15%に寄与との説明があった。

従来の配送は、前日までの予想荷量に対し、配車・配送計画を作成していた。そのため、当日に実際の配送量が少なくても、低積載のまま運搬していた。この課題を解決するためにトヨタが開発したリアルタイム輸配送では、当日確定した荷量をトラッキングし、荷量・稼動トラック、最新交通情報を組み合わせ、正確な配送計画を作る。これによって高効率な輸送を実現するわけだ。ワークショップでは、イオンの物流子会社と協業している事例が示された。

Woven City & デジタルツイン

モビリティのテストコースと位置づけるWoven City(ウーブンシティ:静岡県裾野市)は2024年夏に第一期エリアが竣工し、2025年に一部実証実験を開始する予定だという。ここでは、人、クルマ、社会をつなげるさまざまな実証実験を行なっていくことが明かされた。例えば、物流領域でのコネクテッドサービスを社会実装し、そこで明らかになった課題を再びウーブンシティで改善〜再度社会に実装する。こうしたサイクルを進めることで、社会の知能化を加速させていく。

また、現実世界と対となる環境をデジタル上で再現することで(デジタルツイン)、実際の街(ここではウーブンシティ)が出来上がる前から自動運転技術を検証し、安全な街づくりに生かす取り組みも行なっている。

“かっこいいデザイン”を支援するAI

ヒト(デザイナー)とAI(システム)のコラボレーションにより、デザイン発想力を無限に拡張し、同時に意匠開発スピードを抜本的に改善することを目的としたツールを開発している。AIシステムが空力等の工学的な制約を考慮した画像を生成することにより、空力性能と意匠性を両立したデザイン作成をサポートする。空力最適化のためのアルゴリズムがプラグイン的に入り込んでいるため、デザイナーは空力要件に足を引っ張られることなく、これまで以上に意匠のために自らの能力を発揮することができるようになる。

地図自動生成(Geo)

カメラとセンサーを積んだ自動車は極めて高精度なプローブデータを集められる。トヨタは将来的には、地図データを地図プロバイダーから買わないで地図自動生成でまかなう目算だ。

トヨタの膨大な車両データ(プローブデータ)を活用し、道路勾配情報の解像度を飛躍的に向上させるとともに、3D地図の更新頻度を従来の6ヵ月から即日へと飛躍的に高める技術の開発に取り組んでいる。現在は25万台/日のデータが上がっており、3年後には125万台/日に増える見込みだという。地図自動生成の技術を活用すると、より快適・安全で、かつ燃費/電費効率のいい運転につながる。

鉱山現場×自動運転ハイラックス

コマツとトヨタが無人ダンプトラック運行システム上で自動走行するライトビークルを開発する旨が、5月17日に発表された。ワークショップではその説明が行なわれた。長時間稼働が求められる鉱山現場では、無人ダンプトラック運行システムが適用されている。そのダンプトラックの走路に有人のライトビークルが入り込むと、衝突を避けるために無人ダンプトラック側が減速、または停止する仕組みになっている。

安全を確保するためだが、鉱山オペレーションの観点からはロスにつながる。そこで、自動走行するライトビークル(ハイラックス)を準備し、無人トラックと同じ管制システムで協調制御するシステムを開発。トヨタが乗用で培った自動運転技術を応用したライトビークルの動きをシステム側で管理するので、無人トラックを減速・停止させる必要はなく、高い生産性を維持できる仕組み。2024年1月をめどに、鉱山現場で実証実験を開始する予定だという。

自動駐車

一度たどったルートを記憶し、二度目以降はそのルートを忠実にたどって入庫する自動運転のデモンストレーションが行なわれた。自動駐車を行なう距離は約50mを検討しているというから、なかなかの豪邸でも対応できそう(入庫だけでなく出庫にも対応)。デモンストレーションが行なわれた自動駐車の特徴は、あらかじめ記録したルートをトレースするだけでなく、障害物などがあった際にも対応できる能力を備えていること(カメラとソナーで監視している)。障害物を検知した際はすぐさま避けるルートを計算し、障害物を避けて自動駐車を継続する。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…