脱・温暖化その手法 第66回 ―温暖化は止められるのか? これまでのまとめー

温暖化の原因は、未だに19世紀の技術を使い続けている現代社会に問題があるという清水浩氏。清水氏はかつて慶應大学教授として、8輪のスーパー電気自動車セダン"Ellica"(エリーカ)などを開発した人物。ここでは、毎週日曜日に電気自動車の権威である清水氏に、これまでの経験、そして現在展開している電気自動車事業から見える「今」から理想とする社会へのヒントを綴っていただこう。

2050年を待たずにCO2発生をゼロに!

これまで65回にわたって温暖化に対処する方法を技術的観点から見てきた。

これを振り返ると、まず温暖化の原因はCO2の大量発生によって大気中の濃度が増えることによる。その結果、太陽のエネルギーを地表で吸収し、代わりに地上から赤外線として放出する際に一部がCO2により吸収されることで、まわりの空気の温度が上がるということを述べた。

次いでその影響は気温、海水温の上昇に始まり、水や大気や海流の流れが変わり、気候変動に影響し、生態系を変え、それらすべてが人類にかかってくることに進めた。

また温暖化対策として2050年までに地球の平均気温の上昇が産業革命前に比べて1.5℃を目標とすることが2015年のパリ協定で決められた。しかし日本では既に1.28℃の上昇があり、わずかな上昇で目標を超えるところまで来ている。従って2050年を待たずにCO2発生ゼロを実現しなくてはならない。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の資料より。
産業革命以降地球の気温は1.2℃上昇した。石炭紀の平
均気温は現代よりも10℃高かったということから、石
炭紀に蓄積されたエネルギーを使用してしまえば気温は
10℃高くなると考えられる。
        (脱・温暖化その手法 第2回より)

しかも大気中に放出されたCO2は長年地球上に止まるために、いますぐにCO2発生をゼロにしても、現在の影響が直ちに緩和されることにはならない。そして何よりも重視しなくてはならないのは、すべての人類が大きな影響を受け始めていることである。

CO2はどこで発生しているかを見ると、発電、交通機関、製鉄、セメント製造のように19世紀に発明された技術が原理を変えずに今でも使われていることと、昔ながら火を燃やして熱を得ることでそのほとんどを占める。

産業革命以降、急速に技術が発展し、プラスの効果としては生活が豊かになり、かつ寿命も延びた。この技術の発展を支えたのはその前に発見された科学が有効に利用されたためである。物理学では1687年にアイザック・ニュートンが力学を発見した。1800年代には電気と磁気の関係を表す電磁気学が発展した。これらが、産業革命以後から20世紀中頃までの大きな技術の発明と産業化に貢献した。

太陽エネルギーから電気を取り出す

20世紀になると分子と原子と光の関係を理解する、量子力学が生まれ発展した。その最初の応用は原子爆弾ではあったが、その後あらゆる分野に応用され新たな発明が生まれた。

その最大の成果は半導体であり、これでダイオードとトランジスタが作られた。ダイオードの一種として太陽電池やLEDも生まれた。1980年代にはその応用として電気自動車用の重要技術であるリチウムイオン電池、モーター用の強力な磁石であるネオジム-鉄-ホウ素磁石の発明につながった。

これらの技術の誕生により、太陽のエネルギーですべてのエネルギーを賄う太陽電池の世界的な普及の可能性が見えてきた。つまり、電気自動車が内燃機関自動車に置き換わるシナリオを描けるようになった。太陽電池で生まれる電気を用いた電気分解により、作られる水素を燃料とするとまったくCO2を発生しない製鉄も可能となる。アルミやマグネシウムなどの金属の精錬も、太陽電池による電力で行なうことができるようになる。

太陽電池による電力供給の利点は世界中どこででも豊かなエネルギーが使えるようになることと、エネルギー価格が非常に安価になること、無尽蔵であることである。

電動モーター、バッテリーの進化に加えて、太陽電池も
その変換効率を高めてきており、その性能に期待されて
いる。(脱・温暖化その手法 第26回より)

但し、太陽光発電には広大な土地を必要とするが、それも林業、農業、漁業の第1次産業との融合で確保できる。その結果発電による利益をわずかに設定しても第1次産業における売上げ規模は大幅に増大し、この分野で働きたい人々の数を増やすことにも貢献する。

太陽光を用いたエネルギーシステムには、これまでのように発電から消費者に電力を供給する、いわば動脈に相当するものと、一旦蓄えた電力を需要に応じて分配する静脈に相当するシステムを構築することが求められるが、実現が極めて難しいわけではない。電力を有効に使ってクルマからCO2をなくすための電気自動車の普及が始まっているが、クルマの設計いかんで世界中が電気自動車に置き換えるようなコストパフォーマンスの良い電気自動車が誕生する時代にもなっている。

以上、CO2の発生を防ぎ温暖化をこれ以上進行させないための技術的可能性については、十分な根拠を持って実現可能であると考えている。その実現は温暖化による被害が目に見えていることから、人類は最も大事な目標として高い順位を付けて実行する必要があることは言うまでもない。

ここまでが、これまでの内容の概要である。次に考えるべきは、このような技術世界が実現するときの影響を世界的視点で見ることである。

次回以後はこの点について述べることとする。

今回の要約
 温暖化は地球から宇宙に逃げる赤外線が大気中のCO2により吸収されることで起こる。
 その影響は温度上昇、流れの変化、気候変動、生態系変化に及び、全てが人間に影響する。
 CO2発生の原因のほとんどは19世紀に発明された技術が今でも使われていることと、昔ながらの火を用いて熱を得る技術による。
 技術の発展は知識の元となる科学に支えられている。
 20世紀前半までの技術は力学と電磁気学が基礎である。
 20世紀に量子力学が発見されたことで新しい発明が生まれた。
 それらは半導体とその応用の太陽電池、リチウムイオン電池、ネオジム鉄磁ホウ素石等である。
 これらの発明の有効利用でCO2を出さない技術システムを生み出せる時代になった。

今回のさらなる要約

温暖化の原因は19世紀に発明された技術が現在でも使われていることにある。

20世紀に生まれた量子力学の成果として大きな発明がある。

これらの発明の有効な利用で温暖化を抜本的に解決できる技術システムを生むことができる時代である。


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著者プロフィール

清水 浩 近影

清水 浩

1947年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部博士課程修了後、国立環境研究所(旧国立公害研究所)に入る。8…