法人需要かカスタムベースか戦略価格か……229万9000円で買える!? インプレッサ唯一のガソリンエンジン車「ST」からスバルの“最安”グレードを振り返る

新型インプレッサに設定されたベースグレードの「ST」はFWDモデルなら229万円というスターティングプライスを設定して話題となった。充実装備やエクステリア加飾を施した上級グレード「ST-H」や、そこまでいかなくとも必要十分な「ST-G」より圧倒的な価格的アドバンテージがある一方で、装備は比較的簡素に抑えられている。この“最安”グレードは誰が買うのか? 価格以外のメリットは? そんな疑問を業界屈指のスバルマニアである“いもっち”こと井元貴幸氏がチェック! そこには、昔から廉価グレードを設定してきたスバルの真髄?良心?が込められている。

純ガソリンエンジン車が選べるインプレッサは「ST」のみ!

六代目インプレッサ(ST-G)

2023年4月20日から六代目インプレッサの価格とグレード体系が発表となったが、主力グレードにあたる「ST-G」と「ST-H」は、クロストレック同様マイルドハイブリッドシステムを搭載するe-BOXERモデルとなっている。
しかし、ここでの注目は最廉価グレードの「ST」だ。2.0L水平対向DOHC4気筒直噴自然吸気エンジンを搭載する純ガソリンエンジンモデルとして話題を集めている。

FB20型2.0L水平対向DOHC4気筒直噴自然吸気エンジン

新型インプレッサのなかでは、最もベースックな最廉価グレードでありながら、純ガソリンエンジンを選択できる唯一のグレードを設定したことは、クルマ好きとして非常に興味深い。

中間グレードST-Gと上位グレードST-Hは、このエンジンにモーターを組み合わせた「e-BOXER」搭載のハイブリッド車となる。

価格差は最大で約100万円にもなる! 気になる装備の差は?

中間グレードとなるST-Gは、消費税込みの車両本体価格がFWDで278万3000円、AWDは300万3000円となっているが、STグレードはFWDで229万9000円、AWDでも251万9000円と、2.0Lのガソリン車が200万円台で選択できるのはユーザーとしては嬉しいポイントだ。

グレード名(駆動方式)価格(税込)
ST(FWD)229万9000円
ST(AWD)251万9000円
ST-G(FWD)278万3000円
ST-G(AWD)300万3000円
ST-H(FWD)299万2000円
ST-H(AWD)321万2000円
樹脂パーツの加飾やカラーを抑えたインテリアは極めてシンプル。何よりセンターコンソールの11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステムが省かれたオーディオレス仕様はSTの最大の特徴。
STは加飾パーツに差がある以外は外観の差異は意外に少ない。
カラーこそ異なるがアルミホイールはSTでも標準装備。
ST-Gから11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステムが標準装備に。ただ、ST-Gはオプションでオーディオレス仕様が選択できる。
ST-GはサイドシルスポイラーやフォグランプがSTとの外観の差になっている。
また、ST-GのアルミホイールはデザインはSTと同様ながらダークメタリック塗装となり足回りのルックスを引き締める。
ST-Hは11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステムがもちろん標準。オーディオレス仕様も選べなくなる。ぱっと見では意外とST-Gとの差異は少ない。
フルLEDハイ&ロービームランプ+ステアリング連動ヘッドランプ+コーナリングランプはST-H専用。細部の加飾も差別化される。
ST-Hのホイールは同デザインながらダークメタリック塗装に切削光輝処理が加わり高級感を演出する。

装備こそ内外装の加飾も最低限で、プレーンな印象だが、購入後にカスタマイズや上級グレードの流用などを考えた場合”アリ”というポジティブな考え方もできるのだ。

スバルが新型「インプレッサ」の価格を発表! FF車が税込229万9000円から、AWD車が税込251万9000円から

4月20日、スバルは3月より先行予約受付を開始していた新型「インプレッサ」の車両価格を発表し…

ST
ST-G(ダークメタリック塗装)
ST-H(ダークメタリック塗装+切削光輝)
ST(フォグランプレス)
ST-G(フォグランプ装備)
ST-H(フォグランプ+ブラック塗装加飾)
ST(トリコット)
ST-G(トリコット)
ST-H(ジャージ)
ST(ウレタン/ブラック加飾)
ST-G・ST-H(本革巻シルバーステッチ/シルバー加飾)
ST(ウレタン/ブラック)
ST-G・ST-H(本革巻シルバーステッチ/シルバー加飾/ピアノブラック調)
ST・ST-G(標準)
ST-H(アルミパッド付スポーツペダル)

また、装備がシンプルで、必要最低限のものを装備しながら、FWDで1380kg、AWDでも1420kgという車両重量は、1500kgを超えるST-GやST-Hと比べると軽快さを感じされるSTならではのポイントといえる。

グレード名(駆動方式)車両重量
ST(FWD)1380kg
ST(AWD)1420kg
ST-G(FWD)1530kg
ST-G(AWD)1570kg
ST-H(FWD)1540kg
ST-H(AWD)1580kg

これが気になる! “味”のあるスバルの最廉価グレード

このように新型インプレッサのSTグレードは、ただ最廉価というだけでは括れない、隠れた魅力を秘めたモデルとして注目したいモデルだ。
そこで、今回はこれまで発売されてきたスバルの最廉価グレードの中から、ちょっと気になるモデルや変わりダネなどを紹介しよう。

初代レガシィセダン(BC型) 「Ei」
世界速度記録達成車としてセンセーショナルにデビューした初代レガシィには、セダンに最廉価グレードとして「Ei」というグレードが存在した。
このグレードはEJ18型1.8L水平対向SOHCエンジンを搭載し、駆動方式はFWDのみ、トランスミッションは5速MTしか選択できないという潔さ。パワーウインドウや集中ドアロックはおろか、前後バンパーも素地の物が装着されるストイックさ。

画像はカラードバンパーなどやや装備や加飾が増える下から二番目のグレード「Mi」。こちらは4速ATやAWDも選べた。なお手元にある当時のカタログにもEiは主要諸元と主要装備の一覧にしか記述がない。

価格は当時の車両本体価格で112万5000円と120万を切る破格の価格設定。装備の簡略化の恩恵もあり車両重量は1070kgとコンペティショングレードの「RSタイプRA」の1290kgを下回る軽さ。残念ながら装備が簡素すぎて市場では受け入れられなかったこともあり、1991年6月のマイナーチェンジでC型からひっそり姿を消している。

主要諸元
型式:E-BC2
全長:4510mm
全幅;1690mm
全高:1385mm
ホイールベース:2580mm
車両重量:1070kg
エンジン:EJ18型1.8L水平対向4気筒SOHC16バルブ
最高出力:110ps/6000rpm
最大トルク:15.2kgm/3200rpm
サスペンション(前/後):ストラット/ストラット
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤ:165SR13
トランスミッション:5速MT
駆動方式:FWD
価格:112万5000円
1993年10月にフルモデルチェンジされ二代目になったレガシィは当初2.0Lエンジンのみでスタートしたが、市場からの要望を受けて1994年6月の年次改良で1.8L SOHCエンジン搭載グレード「LX」を追加。その影響で1995年3月のマイナーチェンジで2.0の最廉価グレードであった「TX」がラインナップから落ちた。
主要諸元
型式:E-BD2
全長:4595mm
全幅;1695mm
全高:1405mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1120kg
エンジン:EJ18型1.8L水平対向4気筒SOHC16バルブ
最高出力:115ps/6000rpm
最大トルク:15.7kgm/4500rpm
サスペンション(前/後):ストラット/ストラット
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤ:185/70R14
トランスミッション:5速MT
駆動方式:FWD
価格:151万円

■初代インプレッサ(GC型)「CF」
初代インプレッサに設定されていた「CF」は、初代レガシィのEiほどのストイックさはなく、バリエーションも1.5L・FWDと1.6L・AWDが選択可能。さらにトランスミッションもそれぞれ4速ATと5速MTが選択可能となっていた。

1992年11月のデビューからラインナップされ、1997年9月の年次改良でラインナップから消滅。写真は1993年6月に追加された特別仕様車「CFリミテッド」で、集中ドアロックやマニュアルエアコンが標準装備となった。

エクステリアもカラードバンパーこそ装備していたが、それ以外はスチールホイールに素地のドアミラーやドアハンドルといった営業車っぽい見た目だ。このシンプルな見た目に加え手巻きウインドウなどにより、さながら競技車両っぽい出で立ちだ。車両重量も1.5L・FFの5MTでなんと990kg! 1トンを切る驚愕のスペックだ。

主要諸元
型式:E-GC1
全長:4340mm
全幅;1690mm
全高:1405mm
ホイールベース:2520mm
車両重量:990kg
エンジン:EJ15型1.5L水平対向4気筒SOHC16バルブ
最高出力:97ps/6000rpm
最大トルク:13.2kgm/4500rpm
サスペンション(前/後):ストラット/ストラット
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤ:165SR13
トランスミッション:5速MT
駆動方式:FWD
価格:113万円

■初代フォレスター(SF型)「C/tb」
クロスオーバーモデルの先駆け的存在として今のSUVの基礎を築き上げたと言っても過言ではない初代フォレスター。登場時は3グレード展開という現代の車のようなシンプルな構成だったが、すべてのグレードがEJ20型ターボを搭載するモデルで、最廉価グレードにあたるC/tbもターボエンジン搭載車だ。
ちなみに、C/tbが200万円、最上位のT/tbが249万円という設定だった。

1997年2月にデューしたフォレスターはインプレッサWRXのコンポーネンツを利用したクロスオーバーSUVの先駆け的モデル。全車EJ20ターボを搭載し、「T/tb」「S/tb」「C/tb」というグレード展開だった。1997年7月に2.0L SOHCエンジンを搭載した「C/20」が追加され、こちらが最廉価グレードになり、1998年9月のマイナーチェンジでC/tbは消滅する。

装備面では上記の2台と比べると、パワーウインドウや集中ドアロック、フルオートエアコンなどの快適装備は備えるものの、エクステリアは未塗装バンパーや未塗装ドアハンドル、フォグランプレスといったシュールな見た目となっていた。
ちなみに後に「C/20」や「S/20」(2.0L SOHC)、「T/25」(2.5L DOHC)などのNAエンジン搭載グレードが追加されラインナップは充実していった。なお、C/20が188万円で200万円を切る価格設定だった。

主要諸元
型式:E-SF5
全長:4450mm
全幅;1735mm
全高:1580mm
ホイールベース:2525mm
車両重量:1340kg
エンジン:EJ20型 2.0L水平対向4気筒DOHC16バルブ インタークーラーターボ
最高出力:250ps/6250rpm
最大トルク:31.2kgm/4000rpm
サスペンション(前/後):ストラット/ストラット
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ:205/70R15
トランスミッション:5速MT
駆動方式:AWD
価格:200万円

■四代目レガシィツーリングワゴン(BP型) 2.0i カジュアルエディション
2003年5月に発売され、スバル初のカーオブザイヤー受賞車として現在でも人気の高いBP型に設定されていた最廉価グレード。2.0L水平対向4気筒SOHCエンジンを搭載する2.0iから本革巻きステアリングやHIDヘッドランプ(オプション設定もなし)、プロジェクターフォグランプなどを装備しない受注生産モデル。

画像はカジュアルエディションのベースとなった「2.0i」。2.0iが218万円のところ、カジュアルエディションでは205万円となる。なおセダンであるB4にはカジュアルエディションは設定されず2.0iが203万円で最廉価グレードとなっていた。
2.0iのインパネ。
2.0iのシート(フロント)。
2.0iのシート(リヤ)。

当時はレンタカーでもなかなか目にしなかった激レアモデルだ。四代目レガシィのなかでも唯一マニュアルエアコンが装備される点もマニアックだ。
また、最廉価ではないが、ターボエンジンを搭載する2.0GT系に設定されていた2.0GTカスタマイズエディションも同じく受注生産のモデルでレア度はかなり高い。

「2.0GTカスタマイズエディション」は「2.0GT」の288万円に対し270万円という価格設定。2.0iにすら装備されているフォグランプがカジュアルエディション同様に装備されていない。また、専用ホイールも特徴となっている。

フォグランプを装備しない点などが同一ではあるが、GTカスタマイズエディションにはエルフォージと呼ばれる新製法の専用ホイールを装備する点が特徴だ。
スバル車を数多く見てきた筆者でもこのグレードだけはまだお目にかかったことがない。

2.0GTカスタマイズエディションのインパネ。
主要諸元(2.0iカジュアルエディション)
型式:UA-BP5
全長:4680mm
全幅;1730mm
全高:1470mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1350kg
エンジン:EJ20型 2.0L水平対向4気筒DOHC16バルブ
最高出力:140ps/5600rpm
最大トルク: 19.0kgm/4400rpm
サスペンション(前/後):ストラット/マルチリンク
ブレーキ(前/後):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤ:205/55R16
トランスミッション:4速AT
駆動方式:AWD
価格:205万円

最近のモデルでは最廉価グレードでも充実した装備で、上位グレードと比べても遜色ないモデルがほとんどだ。逆を返せばひと昔前は上級グレードに乗っていることがステータスであったことも、時代の流れでなくなってきたといえるだろう。

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著者プロフィール

井元 貴幸 近影

井元 貴幸

母親いわくママと発した次の言葉はパパではなくブーブだったという生まれながらのクルマ好き。中学生の時…