6月5日に納車されたMAZDA3に関しては「乗る時間を見つけられないのが悩み」だと感じているが、前のクルマを買った直後よりもハイペースで走っていることに気づいた。前の“我が車”、すなわち1.2ℓ直4ターボのガソリンエンジンを積んだVWゴルフ 40th Edition(最高出力77kW[105ps]、最大トルク175Nm、7速DCT、FF)は納車後に4500km走るまで5ヵ月半を要したのに、新世代ガソリンエンジンのe-SKYACTIV-Xを積んだ現在の我が車であるMAZDA3 X PROACTIVE Touring Selection(最高出力140kW[190ps]、最大トルク240Nm、6速MT、AWD)は、3ヵ月と10日しかかからなかった。
だいぶハイペースだ。ずいぶん走っているはずなのに、欲求は満たされていない。もっと乗りたいと思わせる魅力がMAZDA3には確かにあり、最大の理由のひとつはエンジンであることは間違いない。ほぼ全域で希薄燃焼(リーンバーン)を実現するSPCCI(火花点火制御圧縮着火)エンジンはただ高効率なだけでなく、ドライバーを気持ち良くさせるツボを心得ている。
気持ち良さの繙きに移る前に燃費についてレポートしておこう。カタログに載っているWLTCモード燃費(X、AWD、MT)は以下のとおりだ。
WLTCモード 17.1km/ℓ
市街地モード 14.0km/ℓ
郊外モード 17.3km/ℓ
高速道路モード 18.8km/ℓ
e-SKYACTIV-Xは革新的な燃焼技術を採用した2.0ℓ直列4気筒ガソリンエンジンに、ベルト駆動のインテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(ISG)を採用したM Hybrid(いわゆるマイルドハイブリッドシステム)を組み合わせている。最高出力は4.8kW(6.5ps)、最大トルクは61Nmだ。駆動電圧は24Vで、減速時に回生したエネルギーは床下に搭載する容量0.216kWhのリチウムイオンバッテリー(東芝製SCiB)に蓄える。
従来は摩擦ブレーキで熱に変換して大気に放出していたエネルギーをISGで効率良く回生するため、M Hybridは減速時に摩擦ブレーキと回生ブレーキの配分を自動的に制御する回生協調ブレーキを採用している。ブレーキペダルの操作量からドライバーの要求減速度を判定し、回生発電と摩擦ブレーキによる減速度にそれぞれ配分する仕組みだ。できるだけ回生発電をとり、不足分を摩擦ブレーキで補うのが基本である。
ブレーキはいわゆるブレーキ・バイ・ワイヤで、ブレーキペダルは通常のブレーキのように油圧配管と直接つながっていない。ペダル反力はブレーキ・バイ・ワイヤ・ユニット(コンチネンタル製)のペダルシミュレーターで人工的に作り出している。e-SKYACTIV-X以外のエンジン(SKYACTIV-G 1.5/2.0、SKYACTIV-D 1.8)はコンベンショナルな摩擦ブレーキを使用しているが、M Hybridのブレーキフィールはそれと同じだ。まったく違和感がないし、よくまとめあげられている。
M Hybridはクルマが停車する前の減速中にエンジンを停止させる。様子を観察していると、20km/h程度より低い車速に落ちたところでエンジンを停止しているようだ(MT車の場合はクラッチを完全に戻した状態、かつシフトがニュートラルになっていることが条件)。完全停止する前にエンジンを停止することで、エンジン停止領域が拡大。燃料消費量の削減につながり、燃費向上に結びつく。これは、ベルト駆動のISGだから可能になった。スターターモーターを使う方式の場合はその機構上、通常はエンジンが完全停止した状態でないと再始動できないからだ。
目の前の信号が赤なので減速したが、完全停止する寸前に青になったので慌ててブレーキからアクセルペダルに踏み換えた経験は誰にでもあるだろう。そんな状況で減速時にエンジンを停止してしまうと、スターターモーターを用いた従来方式では再始動ができない。だから、完全停止を待ってエンジンを停止するのが基本。M Hybridはベルトで動力伝達を行なうので、減速中に状況が変わって加速に転じようとした際も、反応良く再始動することができる。
ベルト駆動のM Hybridはスターターモーター式に比べて、エンジンの再始動が圧倒的にスムーズだ。キュルキュルブルンとエンジンが再始動するスターターモーター式に対し、M Hybridはヌルッと再始動する。スターターモーター式は否が応でもエンジンの再始動を音とショックで意識させられるが、M Hybridは再始動の素振りを悟らせない。気づいたらエンジンが再始動している感じだ。我が車は6速MTなので、クラッチの踏み込みがエンジン再始動の合図になる。クラッチを踏んでギヤを1速に入れ、クラッチをつなぐ頃にはエンジンがアイドル回転で安定している。電光石火の早業で、音も振動も目立たず、アイドルストップが運転の邪魔にならない。
M Hybridを搭載するe-SKYACTIV-Xの6速MT仕様の場合、ISGの駆動・発電トルクをスムーズな変速の実現にも役立てている。1速から2速、2速から3速などのようにアップシフトする際、ISGの発電トルクを利用してエンジンの回転落ちを適切に制御し、クラッチミート時のショックを抑制。リズミカルな変速をサポートしているのだ。「余計なことしないで」という感情はまったく湧かなくて、「M Hybridよ、ありがとう」と感謝したい気持ちでいっぱいである。制御は完全に黒子に徹している。
M Hybridの適用により、MAZDA3は従来アイドルストップ比で約4%のWLTCモード燃費向上に結びついたという。かなり大きな効果だ。ある平日の日中(外気温27℃)、約40分かけて都内を約12km移動した際にアイドルストップした時間は8分55秒だった。平均車速は18km/h程度で、この間の燃費は11.1km/ℓだった。
4580km走った時点での満タン法による燃費は15.8km/ℓだ。自宅から約8km渋滞した一般道を走り、そこから空いた高速道路に乗って左側車線を基本に約60km走るようなドライブでは、20.7km/ℓの燃費を記録したりする(写真)。そんな使い方を基本に近所のスーパーに買い物に行くような使い方を織り交ぜて534.4km走ったときのワンタンクあたりの燃費は17.7km/ℓ。市街地走行の比率が高まるとワンタンクの燃費が12.7km/ℓになったりする。
そんなこんなで現在のところ、15.8km/ℓというわけだ。とくに高速巡航時の燃費がいいなぁ、という印象である(アイドルストップの話をしておきながら)。