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2023年7月26日(水)、三菱自動車が技術支援するチーム三菱ラリーアートの『アジアクロスカントリーラリー2023』への参戦を発表した。発表会の会場では前年に続きチーム総監督として指揮する増岡浩氏に加え、2023年より新たにチームに加わったラリードライバー・田口勝彦氏が意気込みを語った。
2022年のラリーアート復活デビューウィン
2022年、7年ぶりに復活を果たしたラリーアートがモータスポーツ復帰の第一歩に選んだのがアジアクロスカントリーラリー(AXCR)だ。アジア市場をターゲットに同市場での人気の高いトライトンのプロモーションも狙ってのものである。
まだ規模の大きくない新生ラリーアートの復活初戦ということもあり、クルマのポテンシャルと仕上がりに自信は持っていたものの「上位入賞を目指して」と増岡総監督の当時の言葉は控えめだった。
しかし、チーム三菱ラリーアートとトライトンラリーは並いるライバルを抑えて見事ブランド復活を勝利で飾ることに成功。クルマ作りやチーム体制に大きな自信をもたらすことになる。
そして2023年、2022年に続く連覇を目指し体制を強化、クルマも新型車を用意してAXCRに挑むことになる。
アジアパシフィックラリー王者・田口勝彦選手がクロスカントリーラリー初挑戦
チーム三菱ラリーアートの基本的に前年の体制をもとに、新たに田口勝彦氏を加え3台体制で参戦する。ドライバーおよびナビゲーターは前年ウィナーであるチャヤポン・ヨーター(タイ)/ピーラポン・ソムバットウォン(タイ)組、前年5位のリファット・サンガー(インドネシア)/シューポン・シャイワン(タイ)組。それに新たに田口勝彦/保井隆宏となった。
田口選手はWRCに出場した経験もあり、アジアパシフィックラリー選手権のチャンピオンでもある。アジア圏でのラリーは慣れたものだが、それでもクロスカントリーラリーへの出場は今回が初。クルマやラリーの違いについて伺った。
「つまるところ、アクセルがあってブレーキがあってクラッチがあって6速MTで……というクルマの構造は変わりません。ドライビング自体には違和感はありませんでした。ただ、クルマの重量や重心の違いは気を付けるポイントですね。特に8月のタイは雨季ということもあり路面はウェットでかなり滑るので制動距離には特に注意が必要です。
トランスミッションは市販車と同じフロア6速ですが、0-100km/h加速は全く問題なし。パワーでは不利かもしれませんが、ライバル車に対する軽さとハンドリングの良さで勝負ができると思います。クルマの特性を考えると雨の方が良いかもしれません」
また、実戦でのライバルについては、
「やはり気になるのは昨年同様、トヨタといすゞですよね。特にいすゞD-MAXは昨年からさらにパワーアップしていると聞いていますし、強力なライバルになるかと思います。トヨタもタイTRDのハイラックスに加え、塙郁夫選手と青木拓磨選手が4ランナーで昨年3位・4位に入っていますし、彼らも強敵です。でもやはり、同じ条件で走るチームメイト2組が最大のライバルでしょうか」
と語った。
増岡浩総監督が語るAXCR2023への展望
パリ・ダカールラリーのウィナーであり、三菱のレジェンドドライバー。現在はラリーアートを率い、チーム三菱ラリーアートの総監督を務める増岡浩氏に連覇を目指すAXCR2023が展望を語った。
「2022年はチーム三菱ラリーアートの復活初戦ということで、監督として選手に120%の力で走ってもらえる環境づくりを重視してチームを運営してきました。それが功を奏しての結果だったと思いますが、2023年はそこからさらに進んで、3選手に等しく機会を与えて自由に戦ってもらいたいと考えています」
また、昨年の優勝も含め好成績を上げた選手陣容に田口選手が加わった理由についてもお聞きした。
「トライトンはこれまで日本では販売されていませんでしたが、この新型トライトンは日本での販売も予定しています。それだけに日本市場へのプロモーションとしての日本人選手起用という面があります。田口選手を選んだ理由として、三菱で活躍してきたドライバーですし、元ラリーアートの社員でもある。私から次の世代への世代交代を考えています。田口選手は実戦的な走りができる選手ですし、クロスカントリーラリーでも力を発揮してくれると思います」
昨年は初出場ゆえの失敗もあったが、今年はそれを繰り返さないように対策して臨み、テストでもその成果が出ているという。さらに昨年の好成績を受けてサポート体制もより充実したものになった。連覇への期待は大いに高まる。
新型トライトンの優れたポテンシャルに期待
AXCR2023に投入されるのは久々のフルモデルチェンジとなった新型トライトン。先代モデルは日本では正規販売されていなかったが、ピックアップトラック市場の盛り上がりを受けてついに日本発売もアナウンスされた。
発表されたばかりの新型トライトンだが、ラリーカーの先行開発は進められてきたようだ。ことモータースポーツにおいては新型車の投入は性能の向上以上に未知のトラブルなど不安要素も隠せない。新型トライトンのラリーカーとしてのポテンシャルはどうだろうか?
「新型トライトンはラダーフレームやシャシーはこれまでの技術を継承しつつ、先代まで長くキャリーオーバーされてきたフレームではなく、新たに開発しています。それに伴いサスペンションジオメトリーも変わり、より乗用車的な乗り心地を実現しています。先代よりトレッドが50mm広がったことから操縦安定性、直進性が大きく向上しました。新型は昨年以上のポテンシャルを持っています」
新型のポテンシャルの高さに自信をのぞかせる増岡総監督だが、逆にラリーにいきなり新型を投入することについて不安はないのだろうか?
「十勝のテストコースと現地とで、あわせて2000kmテスト走行をしていますが、トラブルとは無縁でした。あえて無茶な走りをさせてみましたが、それでも壊れない。三菱らしい信頼性の高さは新型でも間違いありません。現地のコースは森林の間の狭い道を走ることが多いのですが、低速でもタイトでも扱いやすいですね。田口選手もタイで350kmほどテストしていますが、クルマの素性の良さを感じています。もちろん私もテスト走行をしてセッティングを確認しました。
問題があるとすれば、発表したばかり(開発中は発表前)なのでパーツが無いことくらいですか(笑)」
クルマは完全な新型、昨年のAXCRは11月に開催されたが今年は8月。8月のタイは雨季にあたりラリーはウェット、コースはマディなことが予想される。開催地は同じでも条件は全く異なるラリーへの新型の投入。テストで信頼性を確かめているとはいえ不安はないのだろうか?
「ラリーに絶対ということはありませんが、十分な対策は練っています。エンジンルームは完全防水として水深1mくらいであれば問題ありません。これは、2016年にアウトランダーPHEVで参戦した際の知見が生かされています。スタック対策として前後にウインチも装着できますし、マディな路面対策としてタイヤサイズをより面圧のかかるサイズにしました」
昨年こそラリーアート復活後の初参戦だっただけに控えめだった増岡総監督だが、今年は昨年の実績もあり、その言葉には自信をのぞかせる。新型トライトンでのチーム三菱ラリーアートのAXCR2023の参戦は、連覇を期待せざるをえない。