ライバル不在も今は昔 “黄金期到来”の2023年WECはトヨタとフェラーリの一騎打ちに【主要モータースポーツ2023年上半期振り返り】

四輪耐久レースの最高峰『世界耐久選手権』の2023年シーズンは全7戦で争われている。今季はすでに5レースを消化しているが、選手権の最上位に位置する『ハイパーカークラス』のタイトルの行方は読めない。これは同クラスが創設されて以来初めてのことだ。

世界三大レースのひとつに数えられるル・マン24時間レース。この伝統あるイベントをカレンダーに組み込んでいるのが、耐久レースの最高峰であるFIA世界耐久選手権(WEC)である。
ル・マンとWECは2023年、新たな時代に突入した。選手権のトップカテゴリーであるハイパーカークラスに、2021年に誕生した『ル・マン・ハイパーカー(LMH)』規定車両に加えて、今年からは北米生まれの技術規則『ル・マン・デイトナh(LMDh)』の車両のエントリーも受け入れ始めたのだ。

2023 FIA WEC

LMHはル・マンの主催団体であるフランス西部自動車クラブ(ACO)とFIAが作り上げた技術規定。この規定では、公道を走行可能なハイパーカーをベースとした競技車両かレース専用車両であるプロトタイプカーを製作できる。また、ハイブリッドシステムも搭載可能で、独自開発も許されているのが特徴だ。

Peugeot 9X8
プジョーは昨年途中からLMHマシンの9X8でWECに参戦。ライバルたちとは異なりリヤウイングを持たないのが最大の特徴だ。

対するLMDhは、アメリカの国際モータースポーツ協会(IMSA)が産んだ、北米耐久レース界の新トップカテゴリー。LMHとは異なり、次世代のLMP2シャシーをベースとしており、ハイブリッドシステムも共通化されている。LMHと比較してメーカーが独自に開発しなければならない領域が少ないため、必要なコストは低いとされる。

Cadillac V-Series.R
キャデラックはLMDhマシンのVシリーズRWECに投入。ル・マンで3位表彰台を獲得した。

両規定に共通していることは、マシンの外観に意匠などを取り入れ、メーカーの個性をわかりやすいかたちで盛り込むことを可能にしているところだ。
その一方で、基にする技術規定が違えば、当然レースカーのパフォーマンスにも差が出てくる。そのためWEC/ル・マンでは主催者がそれぞれの車種の最低重量や最高出力などを制限する、いわゆる性能調整(バランス・オブ・パフォーマンス=BoP)を採用しており、出自の違うレーシングカーによる競争を成立させている。
この変革により、WEC/ル・マンでは2023年、年間エントリー数が増加。昨年から参戦しているトヨタ、プジョー、グリッケンハウスに加え、LMH車両でフェラーリとヴァンウォールが、LMDh車両でポルシェとキャデラックが参入を果たした。

フェラーリが参戦初年度から速い

新規参戦組の中でとりわけ存在感を示しているのはフェラーリだ。
フェラーリはLMHマシン499Pのデビュー戦となる開幕戦セブリング1000マイルレースで、王者トヨタを抑えてポールポジションを獲得する速さを見せた。
また、今季第4戦として開催されたル・マンでは50号車がポールポジションを獲得、さらに決勝では51号車が優勝。フェラーリにとっては最上位クラスは50年ぶりという記念すべき大会を最高のかたちで飾ることができた。

Ferrari 499P
フェラーリ499PはたびたびトヨタのGR010 HYBRIDを上回る速さを見せる。

一方、今季のWECにおけるLMDh勢は苦戦を強いられている。第2戦ポルティマオ6時間ではポルシェがLMDh勢初表彰台となる3位を獲得、ル・マンではキャデラックが3位と4位に入るなど奮闘したが、第5戦モンツァ6時間終了時点でポールポジションも優勝もゼロ。LMHの後塵を拝している。エントラントからはBoPに対する不満の声も出ているようで、今後の調整で状況が変わるのかも注目点だ。

耐久王の称号を持つポルシェはLMDhの963でWECに復帰している。

2021年の設立当初からハイパーカーカテゴリーを引っ張ってきたトヨタは、今年は“ライバルが存在しているシーズン”を戦っている。
今季は開幕戦から3連勝を飾ったが、ル・マンでは大会直前にBoPに変更が加えられたことも影響して、ル・マンではフェラーリに敗れて2位となり、大会6連覇はならなかった。だが、“敵地”で開催されたモンツァ戦では優勝して雪辱を果たし、選手権でのリードを維持している。

TOYOTA GR010 HYBRID
トヨタは平川亮を含む8号車のメンバーがドライバーランキングトップに立っている。

2023年シーズンはドライバー選手権、マニュファクチャラー選手権ともに、トヨタとフェラーリによる一騎打ちの構図になっている。両者のポイント差はわずかで、ひとつのミスやトラブルがタイトルの行方を左右する可能性がある。
ハイパーカークラスにおいては、創設以来初めて自動車メーカー同士のガチンコ勝負が発生している今季、残るレースは地元日本での第6戦富士6時間と最終戦バーレーン8時間のみ。最上位クラスの緊張感のある戦いは最後まで続くだろう。

最終年のLMGTE Amクラスはすでに決着

なお、アマチュアドライバーもエントリーするLMP2クラスはチームWRTの41号車オレカ(ルイ・アンドラーデ/ロバート・クビカ/ルイ・デレトラ)らがリードしている。また、LMGTE Amクラスは今季2戦を残した時点でコルベット・レーシングの33号車(ベン・キーティング/ニコ・バローネ/ニッキー・キャツバーグ)が戴冠を確定させている。

なお、この両クラスは2023年限りでWECからの消滅が決定している。LMP2はル・マンでは来年以降もエントリーが可能。LMGTE Amクラスは、GT3車両を用いた新クラス『LMGT3』に移行する。

2023年FIA世界耐久選手権 ハイパーカークラス ドライバーズランキング(Top10/第5戦モンツァ終了時点)
Rank.No.DriverTeamPts.
18B.ハートレー/S.ブエミ/平川亮TOYOTA GAZOO RACING115
27J.マリア・ロペス/小林可夢偉/M.コンウェイTOYOTA GAZOO RACING92
351A.ピエール・グイディ/A.ジョビナッツィ/J.カラドフェラーリAFコルセ92
450A.フォコ/M.モリーナ/N.ニールセンフェラーリAFコルセ85
52E.バンバー/A.リン/R.ウェストブルックキャデラック・レーシング71
65D.キャメロン/F.マコヴィッキ/M.クリステンセンポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ52
793P.ディ・レスタ/M.ジェンセン/J.ベルニュプジョー・トタルエナジーズ44
86K.エストレ/A.ロッテラー/L.ヴァントールポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ41
9708R.デュマ/O.プラグリッケンハウス・レーシング34
10708R.ブリスコーグリッケンハウス・レーシング24
ポイントシステムは以下の通り
6時間レース……1位:25点、2位:18点、3位:15点、4位:12点、5位:10点、6位:8点、7位:6点、8位:4点、9位:2点、10位:1点、その他完走車:0.5点
8、10時間レース(セブリング1000マイルを含む)……1位:38点、2位:27点、3位:23点、4位:18点、5位:15点、6位:12点、7位:9点、8位:6点、9位:3点、10位:2点、その他完走車:1点
ル・マン24時間レース:1位:50点、2位:36点、3位:30点、4位:24点、5位:20点、6位:16点、7位:12点、8位:8点、9位:4点、10位:2点、その他完走車:1点
予選:1位:1点
2023年FIA世界耐久選手権 ハイパーカークラス マニュファクチャラーズランキング(第5戦モンツァ終了時点)
Rank.ManufacturerPts.
1トヨタ152
2フェラーリ126
3キャデラック72
4ポルシェ66
5プジョー50
6グリッケンハウス36
7ヴァンウォール6
マニュファクチャラー選手権は、各陣営の上位1台の得点が考慮される
ポイントシステムは以下の通り
6時間レース……1位:25点、2位:18点、3位:15点、4位:12点、5位:10点、6位:8点、7位:6点、8位:4点、9位:2点、10位:1点、その他完走車:0.5点
8、10時間レース(セブリング1000マイルを含む)……1位:38点、2位:27点、3位:23点、4位:18点、5位:15点、6位:12点、7位:9点、8位:6点、9位:3点、10位:2点、その他完走車:1点
ル・マン24時間レース:1位:50点、2位:36点、3位:30点、4位:24点、5位:20点、6位:16点、7位:12点、8位:8点、9位:4点、10位:2点、その他完走車:1点
予選:1位:1点
2023年FIA世界耐久選手権 残りの日程
Rd.DateEvent
69月10日日本 富士6時間
711月4日バーレーン バーレーン8時間

キーワードで検索する

著者プロフィール

MotorFan編集部 近影

MotorFan編集部