希少なカレラにこだわりサーキット走行を視野に入れたカスタムを実施したポルシェ911カレラ3.0! 【オールドカー倶楽部東京・狭山ミーティング】

長い歴史を持つポルシェ911の中で、昨今では空冷エンジン時代のモデルが中古車市場で高騰している。特に「ナロー」と呼ばれる古い時代のものに人気が集まるが、比較的地味な存在であるカレラ3.0と真夏のパーキングで巡り会えた。
PHOTO&REPORT●増田 満(MASUDA Mitsuru)
ポルシェ911カレラ3.0。

同じ名前を使うスポーツカーとして最も長い歴史を誇るのがポルシェ911だろう。1964年に356の後継モデルとして生産が開始された911は新たな時代のスポーツカーの指針にもなった名車。空冷水平対向6気筒エンジンをリヤに積むRRモデルであり、長年このパッケージでモデルチェンジされてきた。911といえばRRという図式は実に64年から変わることのないレイアウトであり、以後FRやミッドシップのポルシェが発売されても911のレイアウトを超える支持は得られなかった。

ナロー時代から続く901型の最終モデルでもある。

911は発売後、何度もモデルチェンジを繰り返してきたが話をナロー時代に絞ってみても数多くのバリエーションが存在する。中でも極め付けのモデルが73年に発売されたカレラRSだろう。911の高性能グレードであるSをベースに排気量を2.7リッターまで拡大したグループ4ホモロゲーションモデルで、重量の軽いスポーツと重いツーリング、さらにレーシングの3タイプが存在する。日本では「ナナサン・カレラ」と親しみを込めて呼ばれる名車であり、現在の中古車にはとんでもない価格が付けられる。

フックスのアロイホイールとcarreraのロゴ色を合わせている。

カレラRSは排気量を拡大したカレラRS3.0やカレラRSRなどに発展するが、いずれも台数限定のモデルで75年を最後に生産が終了している。ただしカタログモデルとして911シリーズは75年に最強モデルの930ターボを発売する。前後に衝撃吸収バンパーが装備され、それまでのナロー時代とは異なるルックスが与えられた930ターボ。同時にNAエンジンの従来モデルも同じスタイルへ変化するが、基本骨格はナロー時代の901型を継承している。見落とされがちだがビッグバンパーを採用しても2代目である930型に発展する前のモデルはナロー時代に分類されるのだ。

なぜか2.7のエンブレムが付いている。

ターボが発売された翌年に当たる76年、カレラの名前が復活する。それが今回紹介するカレラ3.0で77年までの2年間だけ生産された希少モデル。というのも78年には930へモデルチェンジしてしまうからだ。おまけに当時日本での販売価格はターボが1395万円だったことに対しカレラ3.0は998万円。911のベースモデルが585万円だったからターボとカレラ3.0がいかに特別な存在だったかを物語る。またターボとカレラ3.0は400万円ほどしか変わらず、当時これだけの財力を持った人であればカレラ3.0よりターボを選ぶのが自然なこと。それゆえにカレラ3.0の販売台数は驚くほど少ない。

フロアがむき出しにされたハードな印象のインテリア。

ところが、この時期のカレラ3.0に特別な思いを寄せる人も多い。カレラ3.0はそれまでの2.7に比べシリンダーブロックが異なり、ストロークこそ2.7と同じだがボアが拡大されていた。つまりターボとほぼ同じエンジンと言ってよく、高圧縮タイプのピストンが採用されていた。

また、燃料供給方式に911史上初めてKジェトロニックが採用されたことで、それまでの鋭いエンジンレスポンスが影を潜め、中速域でのトルクアップを果たしていた。にも関わらずカレラ3.0の最高出力は200HPであり、比較的重量が軽い時代のボディゆえ930へモデルチェンジした後のモデルより刺激的な走りを演じる。つまり乗りやすくて速い911なのだ。

保管していた時期が長いため走行距離は伸びていない。
レカロのフルバケットシートとロールバーが組み込んである。

ナナサンカレラではなく、あえてカレラ3.0を選ぶのは911に詳しいマニアといえるかもしれない。数が少なく地味な印象ながら、乗ると楽しいカレラ3.0が真夏の日差しが照りつけた圏央道・狭山パーキングに現れた。というのもこの日はオールドカー倶楽部東京が毎月行っている定例ミーティングにあたり、クラブと密に連絡を取るオーナーが愛車の散歩がてら駆けつけたのだ。58歳になる服部直樹さんがオーナーで、古い「33」ナンバーであることからわかるよう、すでに32年間も所有されている。

ハイコンプピストンとSカムが組まれたエンジン。

購入したのは1991年のことであり、当時からカレラ3.0にこだわって探されたとか。930型へ移行する前のクラシカルなスタイルと乗って楽しい3リッターエンジンが魅力だそうで、入手後はあちこち走られた。ところがある時から自宅のガレージで保管する日々が始まる。というのも、サーキット走行を視野に入れたモディファイを開始するからだ。

外観以外はすべて手を加えたというほどでエンジンはハイコンプピストンと、リフト量がありハイパワーを引き出しやすいS用カムシャフト、通称「Sカム」を組み込んでチューニング。さらにトーションバーが特徴であるサスペンションを一般的なコイルオーバーに変更して独特の姿勢変化を排除している。

ヘッドライトリムがメッキであることも特徴。

ボディはオールペイントを施し極上コンディションにあるが、実は車検を再取得したのは最近になってから。それまでガレージで保管するだけの状態を続けてきたが、仕事や家庭の事情で乗ることを控えられていたのだろう。車検を取得していつでも走ることができるのだが、当初の目的であるサーキット走行は行っていない。この状態で一般道を楽しくドライブするのが、ある意味新鮮なのだろう。数年ぶりに復活させたカレラ3.0の走りは、チューニングの成果もあり購入時より楽しく感じられるそうだ。

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著者プロフィール

増田満 近影

増田満

小学生時代にスーパーカーブームが巻き起こり後楽園球場へ足を運んだ世代。大学卒業後は自動車雑誌編集部…