1996年の三菱WRC連覇の立役者・ランサーエボリューションIVを1995年の1000湖ラリーカラーにしたマニアック仕様【WRCレプリカのススメ】

パジェロと並ぶ三菱のラリーイメージの双璧がランサーエボリューションシリーズだ。片やパリダカールラリー、片やWRC(世界ラリー選手権)で三菱を王座に導いた栄光のマシンである。そんなランサーエボリューションは今でもファンが多く、愛車を大活躍したWRCカラーにレプリカしているオーナーがいるのはこれまで紹介してきたセリカ同様だ。今回はそんなレプリカランエボをご紹介しよう。
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp/三菱自動車

実績のあるマシンのコンポーネンツをよりコンパクトなボディに

三菱ランサーエボリューションシリーズ、通称“ランエボ”は、WRCのグループA時代にトヨタ・セリカGT-FOUR、スバル・インプレッサWRXと共に日本車黄金時代を作り上げた名車だ。その誕生は1980年代末に遡る。

WRCにおける三菱ギャランVR-4。

ランチアがデルタシリーズで席巻した1980年代末のグループAにおいて、マツダ・ファミリア(BFMR)やセリカGT-FOUR(ST165)と共にランチアに土を付けたのが三菱ギャランVR-4だった。優れた4WDがもたらす安定性と抜群のトルクでランチアに対抗したギャランであったが、いかんせんWRCで戦うには大きく重かった。

1987年にデビューし、同年のカー・オブ・ザ・イヤーにも輝いたギャラン(6代目)。フルタイム4WD、4WS、4ABSを搭載したハイテクマシンだったが、何より4G63型2.0L直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボエンジンが発揮する205psという最高出力と、当時の市販車としては破格な30kgmという最大トルクは強力な武器となった。
WRCには1988年からグループA戦線に投入され、1992年まで使用。篠塚健次郎選手による日本人WRC初優勝を含む通算6勝を挙げている。さらにグループAだけでなくグループNでもラリーアートの支援で多くのユーザーが愛用したほか、全日本ラリーでもチャンピオンを獲得するなど一時代を築いている。

そこで、このギャランVR-4のコンポーネンツをよりコンパクトなボディのランサーに搭載した、ランサーエボリューションが誕生したのが1992年。大柄なセダンからそのコンポーネンツをコンパクトなボディに搭載するという手法で作られたマシンは、フォード(シエラコスワース4×4→エスコートRSコスワース)とスバル(レガシィRS→インプレッサWRX)と期を同じくしている。

ギャランVR-4を知らずばランエボは語れない。

グループAの“ランエボ”は2世代6モデル

1992年に登場したランサーエボリューション(I)、通称“エボI”は、1993年からWRCデビュー。その後、ランエボはほぼ毎年改良を施したエボリューションモデルをリリース。1994年のエボII、1995年のエボIIIまでがその第一世代となる。
WRCではエボI、エボIIでは熟成に苦心するが、第一世代の決定版エボIIIが1995年シーズン途中にデビュー。1995年はケネス・エリクソンが2勝(1勝はエボII)、1996年はトミ・マキネンが5勝を挙げてドライバーズチャンピオンに輝き、三菱に初となるWRCタイトルをもたらした。

1992年発売のランサーエボリューション(I)。
WRCでは1993年シーズンを戦った。6戦出場し、最高位2位。
ランサーエボリューションIIは1994年1月発売。
1994年も同じく6戦出場、最高2位だが、内容は前年を上回る。
1995年1月発売のランサーエボリューションIII。
1995-1996年のWRCを戦い1996年は三菱初のWRC戴冠。
ランエボ誕生からエボIIIによる三菱初戴冠までの道のり。

1996年にはランサーのフルモデルチェンジにより、ベースから大きな変更を受けたエボIVが登場。エンジン搭載位置の逆転やツインスクロールターボの採用。リヤのマルチリンクサスペンションやAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)システムなどが採用された。1998年にはついにワイドボディとなったエボV、1999年にはエボVIと進化を重ねる。
WRCでは、1997年から実戦に投入され、エースのマキネンは1999年までドライバーズタイトルを四連覇を達成。1998年は念願のマニュファクチャラーズタイトルも獲得している。

1996年、フルモデルチェンジとなったランサーエボリューションIV。
1997年にWRCに投入され、ドライバーズタイトルを連覇。
ワイドボディとなったランサーエボリューションVは1998年発売。
1998年、三菱悲願のマニュファクチャラーズチャンピオン、そしてダブルタイトルを獲得。
1999年のランサーエボリューションVI。
1999年、ドライバーズタイトルを死守。最後の純グループAマシン。

WRCでは参戦メーカーを増やすため、4WD+ターボの市販車を持たないメーカーへの呼び水として1997年よりベース車への大幅な改造を認めた「ワールドラリーカー(WRカー)」規定がスタート。グループAと併存するレギュレーションだったが、スバルがWRカー規定に乗ったため純粋なグループAはランエボのみとなった。

ランエボIV・V・VIの活躍を詳細に解説『RALLY CARS vo.24』。

改造範囲が広くWRカー有利に見られていたが、トミ・マキネンのドライビングとランエボのポテンシャルがマッチしてWRカーを向こう回しに純グループAのランエボは大活躍を見せるが、熟成が進むWRカーに対しての不利が次第に明らかになってくる。
三菱は2001年からのWRカーを投入することを条件に、グループAのランエボ(VI)の改造範囲を広げた特例措置モデルを投入したのが2000年。そのベースとなったのが「トミ・マキネンエディション」と称する通称“エボ6.5”。これが第二世代の最後の市販モデルであり、今のところ三菱の最後のWRCウィナーカーとなっている。

2000年に発売された第二世代ランエボの最後を飾るランサーエボリューションVIトミ・マキネンエディション。

エボIVにエボIIIのカラーリング……ちょっとマイナーな1995年1000湖ラリー

ここまで長々と三菱のWRCマシンを解説してきたのは、これから紹介するエボIVのオーナーであるナカムラさんが大の三菱ファンでもあるため、そしてこのエボIVのカラーの特異さを解説するために必要だったから。

ナカムラさんの所有するエボIV。1996年式の新車ワンオーナー。

というのも、ナカムラさんは1980年代にはランサーターボ(A175)やミラージュに乗り、その後はギャランVR-4(E39A)に7年乗った三菱党。このランサーエボリューションIVは1996年に新車で購入。エボIIIも気になってはいたがあえて見送り、発売前から実車も見ずに予約するほどの熱の入れようだったとか。
元々のボディカラーはスティールシルバー(前述の写真参照)。それにストライプカラーを入れていたが、2001年に意を決してフルレプリカ化を敢行した。

一般的な三菱ワークスとは異なったイメージのシェルカラーが印象的。ルーフベンチレーターはルーフだけでなく室内側にもしっかり作られているが、穴自体は開けられていない。

ランエボのレプリカとなると、やはり白と赤をベースにした三菱ワークスカラーのイメージが強い。しかし、ナカムラさんがセレクトしたのは雑誌の片隅に掲載された小さな写真で一目惚れしたシェルカラー。実はこのシェルカラーは、1995年の1000湖ラリーでトミ・マキネン(コドライバー:セッポ・ハルヤンネ)が優勝した際のもの。

ウィナークルーはコドライバー(ナビゲーター)のセッポ・ハルヤンネとドライバーのトミ・マキネン。翌年の王者も1995年シーズンはセカンドドライバーだった。

この年の1000湖ラリーは当時のWRCローテーション開催制によりWRCからは外れていた(W2Lカップ戦だった)ため、メディアでの露出も少なく比較的マイナーなカラーリングであると言えるだろう。
しかも、この1995年1000湖ラリーで優勝したランエボはIVではなくIII。つまり、ナカムラさんはこのカラーリングに惚れ込んで、エボIVをエボIIIのカラーでレプリカしたというわけだ。

リヤのマッドフラップはホイールハウス内ではなく、バンパーに装着する本格派。リヤフェンダーは少し広げている。ドアミラーはアレックスの電動タイプだ。
ラリーレプリカに欠かせないランプポッドは定番のA.P.Rally。
OZのホイールも実車に合わせてエンケイにレプリカ(笑)。タイヤは横浜のラリータイヤA053(195/65R15)を装着する。

レプリカ化にあたっては元々あったサンルーフを撤去。ルーフを交換するほど力を入れている。インテリアもロールケージはボディに溶接し、OMPのフルバケットシートを装着した2名乗車仕様。ステアリングもOMPのバックスキン、剥き出しのシフトレバー、サイン入りのヘルメットにインターコムとかなり本格的だ。

ノーマル然としたダッシュボードに剥き出しのシフト周辺がグループAマシンらしさを感じさせる。サイドブレーキレバーはスピンターンノブを装備。
剥き出しのシフトレバー周辺がコンペティションマシンらしさを演出している。
シートはOMPのフルバケットタイプ。助手席はラリーアートのトミ・マキネン戴冠記念モデル。ヘルメットはサイン入り。
ロールケージはBピラーとプレートで溶接するなど本格的。ハーネスはサベルトの3インチ。スペアタイヤやインターコムも搭載。
バルクヘッドを塞ぐプレートには増岡浩選手(写真左)と篠塚健次郎(写真右)の、三菱のレジェンドドライバーの直筆サイン。
■主要諸元(GSR)
全長×全幅×全高:4330mm×1690mm×1415mm
ホイールベース:2510mm
トレッド(前/後):1470mm/1470mm
最低地上高:150mm
車両重量:1350kg
エンジン型式:4G63型水冷直列4気筒DOHCインタークーラーターボ
総排気量:1997cc
ボア×ストローク:85mm×88mm
圧縮比:8.8:1
最高出力:280ps/6500rpm
最大トルク:36.0kgm/3000rpm
燃料タンク容量:50L
駆動レイアウト:4WD
サスペンション 前:ストラット
サスペンション 後:マルチリンク
ブレーキ(前・後):ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:205/50R15
価格(当時):299万8000円

ライトチューンで機関良好! ……計算ラリーってナニ?

エンジン周りはあまり手は入れていないが、サイバーエボのECUとブリッツのメタルエアクリーナーを装着。ラジエーターホースがサムコ製とし、ドライバッテリー化しているくらい。マフラーはタクミクラフト(埼玉県さいたま市岩槻区)のステン製ワンオフだ。また、ハブやブッシュ類は全交換している。

エンジンルームはノーマル然としたもの。

インパネには以前、サーキット走行をしていた際にオイルコンディション管理のために追加した油温計と油圧計を設置しているほか、ダッシュボードの助手席側には国産ラリーコンピューターの名品「JX555」が装着されていた。ナカムラさん、10年くらい前まで計算ラリーに出場していたとか。

JX555ラリーコンピューター。カーボン製のひさしを追加するなど本格的な仕様だ。ロールケージにマップランプやペンホルダー、グローブボックスにはマップボックスが設置されている。
・計算ラリーとは?
一般的なラリーはSS(スペシャルステージ)のタイムを競うスピード競技だが、計算ラリーは“決められた区間を決められた時間”で走り、その時間の正確さを競う競技だ。競技者にはコースと区間ごとの速度が指定され、正解の走行時間に対して速くても遅くても減点(ペナルティ)となり、最終的にその減点が最も少ない競技者が勝ちというもの。正解の時間は主催だけが知っているが、区間距離と指定速度から計算は可能。この計算や、車種ごとに生じる誤差を計算して補正するのがナビゲーターの役目である。ラリーコンピューターはその作業をやりやすくする計算機の一種。
計算ラリーは公道を封鎖せずに開催でき、クルマの性能による優劣もつかず、参加できる人数が多い(ドライバーとナビゲーターの他に、計算担当のカリキュレーターを乗せることもできる)ことから、かつては学生ラリーやクルマに無理をさせにくいクラシックカーラリーを中心に流行したが、近年ではすっかりマイナーな競技になっている。

レプリカライフを楽しみつつプロショップで腕を振るう

レプリカはグラベルラリーの1000湖仕様だが、ターマックを走る姿も様になっている。
新旧国産ラリーホモロゲーションモデルでワインディングを行く。
グループAラリーカーファン垂涎のワンシーン。

サーキット走行や計算ラリーからは遠のいてしまったナカムラさんだが、今はその技術を買われてプロショップ「Prototype(プロトタイプ)」でレプリカの腕を振るっている。同社の手がけた多くのレプリカがナカムラさんの手によるものだ。その縁から、レプリカ化を担当したお客さんに誘われてレプリカマシンのツーリングに参加するなど、レプリカライフを堪能している。

愛車が憧れのワークスマシンに変身! 不動の人気を誇るグループAラリーカー「ランチア・デルタ」をマルティニカラーにする!【WRCレプリカのススメ】

WRC(世界ラリー選手権)におけるグループA時代は、その前後のグループBやワールドラリーカーに比べラリーカーと市販車の境が最も薄かった時代である。ワークスチームがWRCに投入するベースマシンは5000台(後に2500台)の生産が義務付けられており、競技参加者だけでなく多くの“一般ユーザー”の手に渡り、今なお多くのオーナーに愛されている。そのオーナーの中には、愛車をWRCで走ったカラーにしたいという人も少なくない。そこで、WRCグループAラリーレプリカについて、ちょっと詳しく紹介していこう。 PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp/Prototype

Prototype
所在地:埼玉県春日部市梅田本町2-37-5
営業時間:11:00~19:00
定休日:毎週水曜日、第一・三木曜日
電話/FAX:048-753-1240
http://www1.odn.ne.jp/prototype/

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