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ホンダ・アコードは1972年に初代が発売され、50年を超える歴史を持つホンダの代表的ミドルラージセダンです。現在の10代目モデルは世界戦略車としてサイズも大きめとなり、海外でも高い人気を誇る日本車の1台です。
■その源流は空冷エンジン搭載セダンまで遡る
その源流は、オートバイと軽自動車を主力商品としていたホンダが1969年に初めて製造販売した小型自動車、ホンダ1300にまで遡ります。この1300最大の特徴は、当時でも珍しくなっていた空冷エンジン車だったことが挙げられます。1300には2ドアクーペと4ドアセダンの2形式があり、2ドアクーペはレースでも活躍しました。ちなみにこの1300クーペを駆った有名なレーシングドライバーのお一人に、パリ・ダカール・ラリーのレジェンド・ドライバーとして知られる菅原義正氏がいらっしゃいます。
この1300の後継車が1972年に登場したホンダ145で、エンジンは水冷化され、1300に見られた様々な欠点を克服したモデルとなりました。しかし前身の1300とほとんど同じ外観など商品性に欠ける部分も見られたため、あまり人気が出たとは言い難く、1974年、わずか2年で生産を終了します。
145の生産終了から2年後、1976年にデビューしたのがアコードです。アコードは145の4ドアセダンの後継として位置づけられていました。ちなみに145の2ドアクーペの後継に位置付けられているのが1978年に登場したプレリュードになります。
アコードは当初から中型車に位置付けられています。すでに1972年に登場したシビックが小型車として存在していたからです。しかしアコードは現在まで、その位置づけを変化させながらサイズを拡大したり、唐突に縮小したりとユニークな経緯を持ったクルマとして知られています。それでは歴代を振り返り、その経緯を見ていきましょう。
■初代は3ドアハッチバックからスタート
初代モデルは全長4450mm、欧州で言うCセグメントに属する車格となります。当初は3ドアハッチバックから展開がスタートしたため、まさにシビックの兄貴分といったイメージでした。翌年に登場した4ドアセダンにおいて、「ヒューマン・カー」をコンセプトに掲げ、高い品質と気品を備え、世界市場を目指したクルマというイメージが固まります。もちろんエンジンは低公害対応として評価の高かったCVCCエンジンが搭載されました。
■2代目にして「ワールドクオリティカー」を掲げる
初代の好評をうけて1981年に登場した2代目モデルは、早くも「ワールドクオリティカー」を掲げて海外市場を見据え、ボディサイズを拡大(初代モデルのEX-Lと比較した場合のみ、同車はオーバーライドバンパーを装着していたため全長は数値上ではダウン)し、ユーティリティを向上させています。ボディタイプは初代同様、3ドアハッチバックと4ドアセダンの2タイプが用意されました。また、日本初の大型樹脂バンパーや2段階の車高調整ができるエア式オートレベリングサスペンションが採用され、世界初となる三次元リヤダンパーが採用されています。全長は4410mmとなりましたが、まだCセグメントです。
■あらゆる面で画期的だった3代目
1985年に登場した3代目モデルはあらゆる面で画期的だったと言えます。ワイド&ローのスタイリングと新発想のロングルーフデザイン、さらにリトラクタブルヘッドライトと、ノッチバックセダンの革新とも言えるエクステリアに加え、FF車で世界初の4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションなど数々の新技術が導入されました。のびやかなスタイリングも相まって全長はさらに拡大して4535mmとなり、車格はDセグメントへ突入しました。また全幅も1695mmと、初代から実に75mm拡大しています。
■4代目は“ファミリー”を従えて登場
1989年に登場した4代目モデルはアコード・インスパイアとビガーという兄弟車を従えたファミリーを形成、エンジンは高い静粛性と高性能を兼ね備えた新開発エンジンへ一新、ホンダ独自の4輪ダブルウイッシュボーンサスペンションや4WS(四輪操舵システム)が採用されるなど、走りの性能に一段と磨きをかけたものとなっています。ボディサイズはさらに拡大して全長は4680mmとなりましたが、Dセグメントは保持しています。
■ついに全車3ナンバー・サイズへ拡大した5代目
アコードのサイズ拡大は留まるところを知らず、1993年に登場した5代目モデルは全幅が1760mmに達し、ついに全車が3ナンバー・サイズとなります。このサイズ拡大は新時代に向けたベストセダンとして高いレベルを目指し、走行性能及び環境性能の両立と快適な居住性を追求した結果であるとしています。内容的には衝突安全性を高めた“全方位安全設計ボディ”が採用されたこと、VTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)エンジンが搭載されたことなどが大きな特徴です。また、いすゞにアスカ(3代目)としてOEM供給されています。全長は4675mmと5mm縮小しましたが、依然としてDセグメントです。
■6代目は走りの性能に注力して5ナンバー・サイズに逆戻り
5代目で全車3ナンバー・サイズとなったアコードでしたが、1997年に登場した6代目モデルは「日本の交通事情に合わせたジャスト5ナンバー」へとサイズダウンします。全車にVTECエンジンが搭載され、歴代初となる“リアルタイム4WD”を装備した4WDモデルが設定されました。また、シミュレーション解析でボディ解析を行ない、大幅な高剛性化を達成。国産FF車初となるVSA(車両挙動安定化制御システム)を最上級グレードのSiRに標準装備するなど、全般的に走行性能の向上に注力したモデルとなっています。全長は4635mmと先代より40mmダウンしましたが、Dセグメントに留まります。
■7代目は欧州仕様と統合、再び3ナンバー・サイズへ拡大
2002年に登場した7代目モデルは「人と社会との調和」という理念のもと、「New Quality Tourer(ニュー・クオリティ・ツアラー)」をコンセプトに掲げ、あらゆるシーンでストレスを感じさせない、スポーティでありながらも心地よく安心感のある走りに加え、細部にまでこだわった上質な内外装や高い安全・環境性能をもつ新しいミッドサイズ・セダンとして誕生。国内仕様を欧州仕様と統合して、再び全車が3ナンバー・サイズに拡大されました。外観デザインは空力性能を追求、セダンとして世界トップレベルの空力性能Cd値0.26を達成しています。また、エンジンは吸気バルブタイミングを連続制御するVTCを組み合わせたi-VTEC(高知能可変バルブタイミング・リフト機構)エンジンとなっています。3ナンバー・サイズとなったものの、全長は4665mmでDセグメントに収まるサイズになっています。
■さらにボディを拡幅、走行性能と快適性能を高めた8代目
2008年に登場の8代目モデルは「アドバンスド・クオリティ」をテーマとして、あらゆる性能や機能を本質から細部に至るまで徹底的にこだわり、全身にわたり大幅にベースとなる「質」を向上させることを目指しています。ボディサイズは拡大、特に高い走行性能を生み出すためにボディのワイド化が行なわれ、それに伴って室内幅も大幅に拡大したため、ゆとりのある居住性能をも生み出しています。走行性能全般の性能が引き上げられているほか、最新の安全運転支援システムが多数装備されて安全性がさらに向上しているのが大きな特徴でしょう。全長は4730mmとギリギリDセグメントに留まりますが、全幅は実に1850mmに達しました。
■ハイブリッド専用の9代目はついにEセグメント・サイズに突入
2013年に登場した9代目モデルはハイブリッド専用車となったのが大きな特徴です。当初はアコードハイブリッドの名で販売されました。革新的な2モーターハイブリッドシステムの“スポーツハイブリッドi-MMD”を搭載、上級セダンにふさわしい上質な走りと圧倒的な低燃費を実現しています。これに加えてプラグインハイブリッド車も販売されています。ボディは骨格から刷新され、優れた静粛性のみならず、高次元でのリニアなハンドリングの実現にも寄与しています。2016年のビッグマイナーチェンジで先進の安全運転支援システム“Honda SENSING(ホンダ センシング)”を標準装備するなど安全性も向上しています。全長は4915mm、2016年のビッグマイナーチェンジでは4945mmに達し、ついにサイズではEセグメントに突入しています。
■とうとうホンダのフラッグシップモデルへ昇華した10代目
現行の10代目モデルは2020年にデビュー。「今の時代のお客様に自信を持って積極的に選んでいただけるセダン」を目指し、クルマの基礎となるプラットフォームから見直しています。新開発のプラットフォームは軽量化と高剛性を両立し、走行性能と居住性能を進化させつつワイド&ローのスタイリングを成立させています。パワートレインには、2モーターならではの力強い加速と滑らかな走りを実現するホンダ独自のハイブリッドシステムe:HEV (イー エイチイーブイ)を搭載。また、優れた衝突安全性能を備えるとともに、先進の安全運転支援システム“Honda SENSING(ホンダ センシング)”を標準装備とし、安全性能を高めています。全長は先代よりわずかに縮小しましたが、それでも4900mmですので、サイズ的にはEセグメントに属します。
■北米ではすでにデビューずみの11代目、日本には…?
さて、北米市場ではすでに11代目となるアコードが発表され、全長は4970mmに達するようです。アコードのボディサイズ拡大の変遷は、ホンダの世界戦略と密接に関係していると言えるかも知れません。2022年にホンダのフラッグシップセダン、レジェンドが生産終了となり、その後を自動的にアコードが担わねばならなくなる以上、同年に発表された11代目モデルのボディサイズ拡大は必然とも言えるでしょう。このままアコードは大型プレミアムセダン化して頂点に君臨するのか、それとも6代目で見られたように中型車へ原点回帰をはかるのか、興味の尽きないところです。