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グループAはラリーでもサーキットでも人気を集める
モータースポーツにおけるレギュレーションを統括するFIA(国際自動車連盟)が、モータースポーツの車両区分レギュレーションをそれまでの「グループ+数字」から「グループ+アルファベット」に改定し、発効したのが1982年。
特に市販車ベースのモータースポーツではそれまで、ラリーではグループ4(400台/12ヶ月)を頂点にグループ2(1000台/12ヶ月)、グループ1(5000台/12ヶ月)といった市販車とその改造車、サーキットレースではグループ1、2、4の改造範囲を大幅に拡大した「シルエットフォーミュラ」で知られるグループ5が人気を集めていた。
しかし、長く続いたグループ+数字の車両区分は各モータースポーツカテゴリーで参戦メーカーの減少が顕著(この時代はオイルショックや排ガス規制の影響も大きいが)となり、レギュレーションの刷新が図られた。
グループ+アルファベットととなった車両区分において、市販車ベースのカテゴリーはグループB(200台/12ヶ月)、グループA(5000台/12ヶ月)、グループN(改造範囲を制限したグループA)で争われた。
ラリーでのグループBの盛り上がりとその後の顛末……WRCにおいて事故が多発したグループB(およびその後継として検討されていたグループS)は1986年をもって破棄され、グループAがラリーのトップカテゴリーになったのはあまりに有名な話である。
一方で市販車によるサーキットレースはグループAによる各国のツーリングカー選手権が人気を集めた。日本でも1985年にスタートした全日本ツーリングカー選手権が大いに盛り上がった。
ラリーにおいてもツーリングカーにおいても当初は多くのメーカーが参戦し勝ったり負けたりの群雄割拠の様相を呈し、FIAの期待通りの展開になった。しかし、ある程度カテゴリーの成熟が進むと最適化されたマシンに勝利が偏り、最適なマシンを用意できないメーカーは去っていく、グループ+数字と同じ流れとなるのはある意味モータースポーツの宿痾でもあった。
ドイツツーリングカー選手のグループA事情
ヨーロッパは古くから市販車(とその改造車)のツーリングカーレースが盛んである。ドイツではグループ+数字時代にDRM(Deutsche Rennsport Meisterschaft/ドイツレーシングカー選手権)、そしてグループ+アルファベット時代の1984年に始まったグループAカーによるレースがDPM(Deutsche Produktionswagen Meisterschaft/ドイツプロダクションカー選手権)であり、 1986年にDTM(Deutsche Tourenwagen Meisterschaft/ドイツツーリングカー選手権)に改められた。
当初はプライベーターが中心になり、BMW、(ヨーロッパ)フォード、ローバー、ボルボ、アルファロメオなど、さまざまなメーカーのクルマが投入されたが、1986年にメルセデス・ベンツが1955年からの沈黙を破ってレース活動を再開。グループAホモロゲーションモデルである190E2.3-16を登場させた。
これはDTMで活躍していたBMW M3(E30)を範にとったもので、ここからメルセデス・ベンツとBMWは毎年のようにホモロゲーションモデルのエボリューション合戦を重ねていくことになる。それは後年のWRCでインプレッサWRXとランサーエボリューションがたどる道と同様であった。
190EもM3も当初は2.3Lでスタートし、レギュレーションいっぱいの2.5Lモデルを投入。さらにエアロパーツを追加するなどしたエボリューションモデルを二度に渡ってリリースする。しかも、そのどのモデルも市販車としてホモロゲーションに必要な台数が販売されたのだ。
というのも、グループAはレギュレーションで搭載エンジンは変更できないし、外観も市販車から変更が許されない。となれば、あらかじめ必要な装備やエアロパーツを装着したモデルを販売すれば良い、という判断だ。当然、これについて行けないメーカーは選手権から脱落し、DTMでは長らくメルセデス・ベンツとBMWが覇を競う状況が続く。
メルセデス・ベンツのグループAマシンを自分なりにカスタム
さて、ドイツツーリングカー選手権とグループAのあらましを解説したところで、今回紹介するのがAkiさんが所有する1990年式のメルセデス・ベンツ190E2.5-16だ。前述の通り、メルセデス・ベンツがDTMでBMW M3に対抗するために開発した190E(W201型)のホモロゲーションモデル・190E2.3-16から排気量を2.5Lに拡大したタイプだ。
Akiさんはタイミングよく中古車店で見かけて購入してからすでに24年も愛用するほど惚れ込んでいる。もちろん、この24年間でフューエルポンプや電子制御機械式インジェクション「KEジェトロニック」をオーバーホールしたほか、2速固定になってバックができなくなってしまったATをオーバーホールしたりしている。
10週間かけて全塗装したこともありブルーブラックの外装は美しい輝きを放っている。屋外ではあるがカーポートでカバーをかけて停めており、DIYとプロショップ「Gun Auto Trade」でキッチリとメンテナンスしているという。
ノーマル然としたルックスではあるが、外観は要所要所をAMGにレプリカしている。特にフロントグリルはノーマルではシルバーのところAMGのボディ同色としているだけでなく、ノーマルはもちろんカスタム仕様と複数のグリルを保管しているという。
さらにホイールもAMG の純正としているのだが、これはフロントブレーキをSL(R129型)用の4ポットキャリパーと500E(W124型)の300mmローターを組み合わせて装着したため、純正の15インチが使えなくなってしまったため。
ちなみに、リヤブレーキもEクラスワゴン(W124型)をのものを流用してストッピングパワーを強化している。
熱対策を中心にエンジンルームにも手を入れる
190E2.5-16の特徴のひとつがM102型直列4気筒DOHCエンジン。190E2.3-16の2297ccからストロークアップにより排気量を2498ccに高め、出力は175psから200ps、トルクは22.9kgmから24.5kgmに向上させている。
もちろん、2.3L同様にコスワースが携わっている。
流石にこのエンジンルームにハイチューンのエンジンは発熱量が大きく、追加で熱対策を施す。ラジエーターのファンは日産ノート用を流用して電動化。作動のためのセンサーも追加している。さらに他車のオイルクーラーを流用してATFクーラーにした。さらに、オルタネーターも標準の70Aから120Aに強化。
純正に合わせて作ったカスタムシート
MOMOのDシェイプステアリングにアルミ製ペダルとフットレスト以外はノーマル然としたインストゥルメントパネルはコンディションも非常に良く、木目の輝きも美しい。
最大のポイントはドライバーズシートで、レカロのLXの座面にSRIIIの背もたれを組み合わせたものを自作。いずれも純正に合わせたチェック柄も再現している。さらに、シートレールは純正を使うことで電動調整を生かしている。助手席側シートと見比べてみても純正と変わらぬ仕上がりだ。
■主要諸元 全長×全幅×全高:4430mm×1705mm×1360mm ホイールベース:2665mm トレッド(前/後):1450mm/1430mm 最低地上高:155mm 車両重量:1350kg エンジン型式:M102型水冷直列4気筒DOHC 総排気量:2498cc ボア×ストローク:95.5mm×87.2mm 圧縮比:9.7:1 最高出力:200ps/6750rpm 最大トルク:24.5kgm/5000rpm 燃料タンク容量:70L トランスミッション:4速AT 駆動レイアウト:FR サスペンション 前:マクファーソンストラット サスペンション 後:マルチリンク ブレーキ(前・後):ベンチレーテッドディスク・ディスク タイヤサイズ:205/55R15 価格(当時):780万円
メルセデス・ベンツのグループAホモロゲーションモデルである190E2.3-16/190E2.5-16シリーズは、ライバルであるBMW M3シリーズに比べるとどちらかといえばマイナーな印象がある。日本での販売台数が少なかったこともあるが、グループA初期にWRCにも投入されて優勝したり、全日本ツーリングカー選手権のディビジョン2でワンメイク状態を作り上げたM3に対し、DTM以外にはほとんど姿を見せなかったからだろうか。
今買える数少ないホモロゲーションモデル
グループAはラリーにおいてはWRカー規定、ツーリングカーではクラス2ツーリングカーに移行することで実質的に自然消滅。その後、ラリーやレースに投入されるクルマは量産車種を大幅に改造する方向に進み、ホモロゲーションスペシャルが量産されることはほぼなくなった。
そういう意味ではトヨタのGRヤリスは、WRCのラリー1/2で使用されるマシンとしては、かつてのグループAの香りを残している。1.0L/1.5LのFFコンパクトカーに1.6Lターボエンジンを搭載し駆動方式は4WD。1.6LながらグループAで一斉を風靡しながら今やすっかり数を減らした“ハイパワーヨンクターボ”の系譜を受け継いでいる。
オーナーの五十嵐さんは当初はそこまで興味はなかったものの、BMW M4に乗る息子さんに誘われて「おもしろレンタカー」でGRヤリスを借りて運転したところ、その面白さにすっかりハマってしまい「RZハイパフォーマンス」を購入してしまった。
まだ購入したばかりということもあり、特にチューニングはせずこまめなオイル交換とディーラーで定期点検を欠かさない。一方で、エクステリアは要所をカスタムすることでラリーカーテイストを演出している。
■主要諸元(RZハイパフォーマンス) 全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm ホイールベース:2560mm トレッド(前/後):1535mm/1565mm 最低地上高:130mm 車両重量:1280kg エンジン型式:G16E-GTS型水冷直列3気筒DOHCインタークーラーターボ 総排気量:1618cc ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm 最高出力:272ps/6500rpm 最大トルク: 37.7kgm/3000-4600rpm 燃料タンク容量:50L トランスミッション:6速MT 駆動レイアウト:4WD サスペンション 前:ストラット サスペンション 後:ダブルウィッシュボーン ブレーキ(前・後):ベンチレーテッドディスク タイヤサイズ:205/55R15 価格(当時):456万円
五十嵐さんはチューニングやカスタムより、GRヤリスで走ることを楽しんでいる。今回も、ランチア・デルタインテグラーレ16Vを赤マルティニレプリカにした氷室豊さんの赤マルティニお披露目ツーリングに誘われて参加したGR。1990年代グループAマシンの中に最新のクルマが並ぶことになった。
今回、グループA、ひいてはレプリカオーナーとプロショップが集まったこともあり、五十嵐さんのGRヤリスに対するレプリカ化推しの圧力も(笑)。トヨタワークスがチャンピオンを争い、ラリージャパンも開催される昨今、五十嵐さんが愛車をレプリカする可能性はあるのだろうか?