グループAから最新WRCまでレーシングマシンのベースモデルでも市販車だから公道もOK! 新旧ホモロゲーションモデルで楽しむ魅惑のカーライフ!

グループA。1980年代後半、ラリーにおいてもサーキットレースにおいても人気を集めたカテゴリーだ。街で見かける市販車とほとんど変わらないルックスのクルマがレーシングスピードで駆け抜けていく姿に多くのクルマ好きが魅了された。しかも、そのレース/ラリーカーは自分で購入して公道を走ることができるのだからファンにはたまらない。そんなグループAマシンのホモロゲーションモデルを楽しむオーナーとそのクルマを紹介しよう。
PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp

グループAはラリーでもサーキットでも人気を集める

モータースポーツにおけるレギュレーションを統括するFIA(国際自動車連盟)が、モータースポーツの車両区分レギュレーションをそれまでの「グループ+数字」から「グループ+アルファベット」に改定し、発効したのが1982年。
特に市販車ベースのモータースポーツではそれまで、ラリーではグループ4(400台/12ヶ月)を頂点にグループ2(1000台/12ヶ月)、グループ1(5000台/12ヶ月)といった市販車とその改造車、サーキットレースではグループ1、2、4の改造範囲を大幅に拡大した「シルエットフォーミュラ」で知られるグループ5が人気を集めていた。

ルノー5ターボはグループ4末期の1980年にデビュー。
グループ5で争われたスーパーシルエットレースで活躍したスカイラインスーパーシルエット。

しかし、長く続いたグループ+数字の車両区分は各モータースポーツカテゴリーで参戦メーカーの減少が顕著(この時代はオイルショックや排ガス規制の影響も大きいが)となり、レギュレーションの刷新が図られた。
グループ+アルファベットととなった車両区分において、市販車ベースのカテゴリーはグループB(200台/12ヶ月)、グループA(5000台/12ヶ月)、グループN(改造範囲を制限したグループA)で争われた。

ランチア最初のグループBマシン、ラリー037は新規定元年の1982年に早くも登場。5ターボもグループBに組み込まれた。
グループAのスバル・レオーネ。ラリーでは当初グループBより市販車に近い下位カテゴリー的な位置付けだった。

ラリーでのグループBの盛り上がりとその後の顛末……WRCにおいて事故が多発したグループB(およびその後継として検討されていたグループS)は1986年をもって破棄され、グループAがラリーのトップカテゴリーになったのはあまりに有名な話である。
一方で市販車によるサーキットレースはグループAによる各国のツーリングカー選手権が人気を集めた。日本でも1985年にスタートした全日本ツーリングカー選手権が大いに盛り上がった。

グループAで争われる初期のWRCを席巻したランチア・デルタシリーズ。1987年からマニュファクチャラーズタイトルを6連覇。
1990年に投入され、全日本ツーリングカー選手権で無敵無敗を誇ったスカイラインGT-R(R32型)。

ラリーにおいてもツーリングカーにおいても当初は多くのメーカーが参戦し勝ったり負けたりの群雄割拠の様相を呈し、FIAの期待通りの展開になった。しかし、ある程度カテゴリーの成熟が進むと最適化されたマシンに勝利が偏り、最適なマシンを用意できないメーカーは去っていく、グループ+数字と同じ流れとなるのはある意味モータースポーツの宿痾でもあった。

ドイツツーリングカー選手のグループA事情

ヨーロッパは古くから市販車(とその改造車)のツーリングカーレースが盛んである。ドイツではグループ+数字時代にDRM(Deutsche Rennsport Meisterschaft/ドイツレーシングカー選手権)、そしてグループ+アルファベット時代の1984年に始まったグループAカーによるレースがDPM(Deutsche Produktionswagen Meisterschaft/ドイツプロダクションカー選手権)であり、 1986年にDTM(Deutsche Tourenwagen Meisterschaft/ドイツツーリングカー選手権)に改められた。

ドイツツーリングカー選手権(1990年)。

当初はプライベーターが中心になり、BMW、(ヨーロッパ)フォード、ローバー、ボルボ、アルファロメオなど、さまざまなメーカーのクルマが投入されたが、1986年にメルセデス・ベンツが1955年からの沈黙を破ってレース活動を再開。グループAホモロゲーションモデルである190E2.3-16を登場させた。

奥から190E2.3-16、190E2.5-16エボリューション、190E2.5-16エボリューションII。エアロの過激化はランサーエボリューションシリーズを彷彿とさせる。この3台に加え、190E2.3-16を2.5Lに拡大した190E2.5-16がエボリューションのベースになる。

これはDTMで活躍していたBMW M3(E30)を範にとったもので、ここからメルセデス・ベンツとBMWは毎年のようにホモロゲーションモデルのエボリューション合戦を重ねていくことになる。それは後年のWRCでインプレッサWRXとランサーエボリューションがたどる道と同様であった。

BMW M3。E30を改設計して、レーシングユニット譲りの4気筒エンジンを搭載したホモロゲーションモデル。
DTMをはじめ、各地のツーリングカーレースで活躍。WRCでも勝利を記録。全日本ツーリングカーではクラスを独占した。

190EもM3も当初は2.3Lでスタートし、レギュレーションいっぱいの2.5Lモデルを投入。さらにエアロパーツを追加するなどしたエボリューションモデルを二度に渡ってリリースする。しかも、そのどのモデルも市販車としてホモロゲーションに必要な台数が販売されたのだ。

1990年に投入された最終進化系、190E2.5-16エボリューションII。
巨大なリヤスポイラーなど、過激なエアロパーツが追加され、ホモロゲーションに必要な500台が限定販売された。

というのも、グループAはレギュレーションで搭載エンジンは変更できないし、外観も市販車から変更が許されない。となれば、あらかじめ必要な装備やエアロパーツを装着したモデルを販売すれば良い、という判断だ。当然、これについて行けないメーカーは選手権から脱落し、DTMでは長らくメルセデス・ベンツとBMWが覇を競う状況が続く。

メルセデス・ベンツとBMWがズラリと並ぶ1990年のドイツツーリングカー選手権。

メルセデス・ベンツのグループAマシンを自分なりにカスタム

さて、ドイツツーリングカー選手権とグループAのあらましを解説したところで、今回紹介するのがAkiさんが所有する1990年式のメルセデス・ベンツ190E2.5-16だ。前述の通り、メルセデス・ベンツがDTMでBMW M3に対抗するために開発した190E(W201型)のホモロゲーションモデル・190E2.3-16から排気量を2.5Lに拡大したタイプだ。

後のエボリューションI、エボリューションIIに比べるとまだノーマル然とした大人めの外観。

Akiさんはタイミングよく中古車店で見かけて購入してからすでに24年も愛用するほど惚れ込んでいる。もちろん、この24年間でフューエルポンプや電子制御機械式インジェクション「KEジェトロニック」をオーバーホールしたほか、2速固定になってバックができなくなってしまったATをオーバーホールしたりしている。

190E(W201型)は新時代のスモールベンツとして登場し、BMW3シリーズ(E30型)と並んでバブル景気に沸く日本でも売れに売れまくった。

10週間かけて全塗装したこともありブルーブラックの外装は美しい輝きを放っている。屋外ではあるがカーポートでカバーをかけて停めており、DIYとプロショップ「Gun Auto Trade」でキッチリとメンテナンスしているという。

美しいブルーブラックの外装にさりげないオーバーフェンダー。
トランクリッドには190E2.5-16のエンブレムが。ナンバープレートにリヤカメラを追加。

ノーマル然としたルックスではあるが、外観は要所要所をAMGにレプリカしている。特にフロントグリルはノーマルではシルバーのところAMGのボディ同色としているだけでなく、ノーマルはもちろんカスタム仕様と複数のグリルを保管しているという。

ボディ同色としたAMG仕様のフロントグリル。

さらにホイールもAMG の純正としているのだが、これはフロントブレーキをSL(R129型)用の4ポットキャリパーと500E(W124型)の300mmローターを組み合わせて装着したため、純正の15インチが使えなくなってしまったため。
ちなみに、リヤブレーキもEクラスワゴン(W124型)をのものを流用してストッピングパワーを強化している。

SLのキャリパーに500Eのディスクという贅沢な組み合わせ。
リヤブレーキはEクラスワゴン用。

熱対策を中心にエンジンルームにも手を入れる

190E2.5-16のエンジンルーム。直列4気筒エンジンを縦置きに搭載するFR車ではあるが、エンジンルームは意外と密度が高い。

190E2.5-16の特徴のひとつがM102型直列4気筒DOHCエンジン。190E2.3-16の2297ccからストロークアップにより排気量を2498ccに高め、出力は175psから200ps、トルクは22.9kgmから24.5kgmに向上させている。
もちろん、2.3L同様にコスワースが携わっている。

2.5-16用のヘッドカバー。
KEジェトロニック機械式インジェクション。

流石にこのエンジンルームにハイチューンのエンジンは発熱量が大きく、追加で熱対策を施す。ラジエーターのファンは日産ノート用を流用して電動化。作動のためのセンサーも追加している。さらに他車のオイルクーラーを流用してATFクーラーにした。さらに、オルタネーターも標準の70Aから120Aに強化。

エアクリーナーに続く経路はラジエーターの右横に。
走行後の停車時はボンネットを大きく開けて冷やす必要がある。

純正に合わせて作ったカスタムシート

190E2.5-16の淫ストゥルメントパネル。

MOMOのDシェイプステアリングにアルミ製ペダルとフットレスト以外はノーマル然としたインストゥルメントパネルはコンディションも非常に良く、木目の輝きも美しい。

運転席は純正シートレールにレカロLXの座面とSRIIIの背もたれを組み合わせたもの。
リヤシートのセンターに座席はなく、シートもバケット形状で乗車定員は4名。

最大のポイントはドライバーズシートで、レカロのLXの座面にSRIIIの背もたれを組み合わせたものを自作。いずれも純正に合わせたチェック柄も再現している。さらに、シートレールは純正を使うことで電動調整を生かしている。助手席側シートと見比べてみても純正と変わらぬ仕上がりだ。

DTMとWRC……ステージは違えどどちらもグループAのホモロゲーションマシン。
■主要諸元
全長×全幅×全高:4430mm×1705mm×1360mm
ホイールベース:2665mm
トレッド(前/後):1450mm/1430mm
最低地上高:155mm
車両重量:1350kg
エンジン型式:M102型水冷直列4気筒DOHC
総排気量:2498cc
ボア×ストローク:95.5mm×87.2mm
圧縮比:9.7:1
最高出力:200ps/6750rpm
最大トルク:24.5kgm/5000rpm
燃料タンク容量:70L
トランスミッション:4速AT
駆動レイアウト:FR
サスペンション 前:マクファーソンストラット
サスペンション 後:マルチリンク
ブレーキ(前・後):ベンチレーテッドディスク・ディスク
タイヤサイズ:205/55R15
価格(当時):780万円

メルセデス・ベンツのグループAホモロゲーションモデルである190E2.3-16/190E2.5-16シリーズは、ライバルであるBMW M3シリーズに比べるとどちらかといえばマイナーな印象がある。日本での販売台数が少なかったこともあるが、グループA初期にWRCにも投入されて優勝したり、全日本ツーリングカー選手権のディビジョン2でワンメイク状態を作り上げたM3に対し、DTM以外にはほとんど姿を見せなかったからだろうか。

今買える数少ないホモロゲーションモデル

GRヤリスRZパフォーマンス。

グループAはラリーにおいてはWRカー規定、ツーリングカーではクラス2ツーリングカーに移行することで実質的に自然消滅。その後、ラリーやレースに投入されるクルマは量産車種を大幅に改造する方向に進み、ホモロゲーションスペシャルが量産されることはほぼなくなった。

GRヤリスRZパフォーマンス。

そういう意味ではトヨタのGRヤリスは、WRCのラリー1/2で使用されるマシンとしては、かつてのグループAの香りを残している。1.0L/1.5LのFFコンパクトカーに1.6Lターボエンジンを搭載し駆動方式は4WD。1.6LながらグループAで一斉を風靡しながら今やすっかり数を減らした“ハイパワーヨンクターボ”の系譜を受け継いでいる。

通常のヤリスが5ドアであるのに対し、GRヤリスは3ドア。ボディもオーバーフェンダーでマッシブに。

オーナーの五十嵐さんは当初はそこまで興味はなかったものの、BMW M4に乗る息子さんに誘われて「おもしろレンタカー」でGRヤリスを借りて運転したところ、その面白さにすっかりハマってしまい「RZハイパフォーマンス」を購入してしまった。

マッドフラップを追加してラリーカーテイストに。

まだ購入したばかりということもあり、特にチューニングはせずこまめなオイル交換とディーラーで定期点検を欠かさない。一方で、エクステリアは要所をカスタムすることでラリーカーテイストを演出している。

 車名入りのグリルガードはGRヤリスオーナーに人気のアイテム。
飛び石からボディを守るサイドガードはカーボン調。
マッドフラップはやや小振りなものを装着。
■主要諸元(RZハイパフォーマンス)
全長×全幅×全高:3995mm×1805mm×1455mm
ホイールベース:2560mm
トレッド(前/後):1535mm/1565mm
最低地上高:130mm
車両重量:1280kg
エンジン型式:G16E-GTS型水冷直列3気筒DOHCインタークーラーターボ
総排気量:1618cc
ボア×ストローク:87.5mm×89.7mm
最高出力:272ps/6500rpm
最大トルク: 37.7kgm/3000-4600rpm
燃料タンク容量:50L
トランスミッション:6速MT
駆動レイアウト:4WD
サスペンション 前:ストラット
サスペンション 後:ダブルウィッシュボーン
ブレーキ(前・後):ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:205/55R15
価格(当時):456万円

五十嵐さんはチューニングやカスタムより、GRヤリスで走ることを楽しんでいる。今回も、ランチア・デルタインテグラーレ16Vを赤マルティニレプリカにした氷室豊さんの赤マルティニお披露目ツーリングに誘われて参加したGR。1990年代グループAマシンの中に最新のクルマが並ぶことになった。

愛車が憧れのワークスマシンに変身! 不動の人気を誇るグループAラリーカー「ランチア・デルタ」をマルティニカラーにする!【WRCレプリカのススメ】

WRC(世界ラリー選手権)におけるグループA時代は、その前後のグループBやワールドラリーカーに比べラリーカーと市販車の境が最も薄かった時代である。ワークスチームがWRCに投入するベースマシンは5000台(後に2500台)の生産が義務付けられており、競技参加者だけでなく多くの“一般ユーザー”の手に渡り、今なお多くのオーナーに愛されている。そのオーナーの中には、愛車をWRCで走ったカラーにしたいという人も少なくない。そこで、WRCグループAラリーレプリカについて、ちょっと詳しく紹介していこう。 PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp/Prototype

今回のツーリングに参加したオーナーの愛車。両隣のメルセデス・ベンツ190E2.5-16とランサーエボリューションIVに対し、GRヤリスのワイドさが際立つ。そういう意味では黄色のランチア・デルタHFインテグラーレエボリューションIIジアラのワイドは時代を超えていると言える。

今回、グループA、ひいてはレプリカオーナーとプロショップが集まったこともあり、五十嵐さんのGRヤリスに対するレプリカ化推しの圧力も(笑)。トヨタワークスがチャンピオンを争い、ラリージャパンも開催される昨今、五十嵐さんが愛車をレプリカする可能性はあるのだろうか?

並べ方もあるが、GRヤリスのボリューム感が際立つ。正面寄りに停めているST185型セリカがとても小さく見える。大きいと言われたST205型セリカですら車高の低さからGRヤリスよりコンパクトに見えるから不思議だ。

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