レクサスLCのインクリメンタル成形と新型センチュリーの超シャープなラインを実現するレーザー技術【トヨタモノづくりワークショップ2023_9】

新型センチュリーのAピラーからリヤに向かって流れるキャラクターラインは超シャープだ。
トヨタ自動車は「トヨタモノづくりワークショップ」を開き、6月の「トヨタ テクニカルワークショップ」で公開した将来技術を具現化する“モノづくり”の現場を公開した。元町工場(愛知県豊田市元町)では、クルマの個性を高める加飾技術の事例が「先端技術」と「匠の技術」に分類され、2種類ずつ公開された。ここでは加飾の先端技術についてレポートする。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:TOYOTA

レクサスLC EDGEのカナード一体バンパー

言うまでもなくカナードは空力機能パーツ。通常は別体であることが多い。

ひとつめはインクリメンタル成形によるカナード一体バンパーだ。会場にはLC500をベースにしたEDGE(エッジ)が展示してあった。6月8日に60台限定で発売された特別仕様車だ。このEDGEの特徴のひとつが、カナード一体バンパーである。カナードは空力デバイスのひとつで、突起の上面と下面を流れる空気の圧力差によって渦が発生し、中心に負圧域を持つエネルギーの強い流れが、ホイールハウスから漏れ出てくる乱れた空気を制御することで、ドラッグ(空気抵抗)の削減につながる。あるいは、ホイールハウスまわりの空気の流れを制御することでリフト(揚力)を抑え、前輪の接地性を高めるといった効果が期待できる。

レクサスLCの特別仕様社EDGEには、バンパー一体成形のカナードが付いている。

カナードはレーシングカーでは定番のアイテムで、WEC(FIA世界耐久選手権)に参戦するTOYOTA GAZOO RacingのGR010ハイブリッドや、SUPER GTのGRスープラGT500にも取り付けられている。だが、どちらもバンパーに別体パーツを後付けするタイプ。一体成形は異色だ。「レクサスにふさわしい美しいカナードをつくる」ため、継ぎ目のないシームレスかつ高剛性なカナードを開発した。

そのキー技術がインクリメンタル成形である。インクリメンタルは「徐々に」とか「逐次」といった意味を持つ。まず、突起のないプレーンな形状のバンパーを樹脂で成形し、追加工によってカナードを成形する。その追加工がインクリメンタル成形(逐次成形)。棒状の工具を連続的に押し付けて成形する工法で、鉄などの金属に適用するのが一般的なこの工法を樹脂に適用すべく開発に取り組んだ。

鉄は叩けば伸びるが樹脂はそうはいかない。温度を高めれば柔らかくなって多少は伸びやすくなるが、ベースのバンパーの精度を崩すことになるので、それはできない。常温のまま加工する必要がある。樹脂はもろいので、叩いたり、伸ばしたりすると簡単に破れたり白化したりする。開発の初期には真っ白になってしまい、バンパーとしての強度を担保できない状態だったという。

試行錯誤を繰り返すことで、白化を抑制し、強度をしっかり担保する技術を確立した。そのポイントは、樹脂の性質を知り、その性質を利用することだったという。樹脂は金属と違い、圧縮にはある程度の強さがあるが、引っ張りには弱い(引っ張ると白化してしまう)。そこで、圧縮と引っ張りを上手にコントロールしながら棒を押し付けて成形する技術を確立したというわけだ。

追加工なので、ベースのプレーンなバンパーとカナード付きのバンパーの2種類の金型を用意する必要がなく、コスト面でメリットとなる。また追加工なので、カナードに限らず、ニーズに合わせてさまざまなバリエーションを展開しやすいのもメリットだ。EDGEの60台だけで終わらせるにはもったいない技術である。

新型センチュリーの超シャープなキャラクターライン

矢印が示しているラインがレーザー加工技術を使ったキャラクターライン

先端技術の事例その2は、シャープなキャラクターラインを実現するレーザー加工技術だ。この技術を適用したのは、9月6日に発表されたばかりのセンチュリー。Aピラーからルーフにかけてシャープなキャラクターラインが通っており、背筋がピンと伸びたような折り目正しさを感じる。

従来型では実現できないシャープだ。

これを実現しているのがレーザー加工技術だ。従来は型でプレスして曲げを実現していたが、プレスではここまでシャープなラインは形成できないという。センチュリーのシャープなキャラクターラインは、まずプレスで曲げたところを裏からレーザーで加熱し、熱収縮させて実現しているという。トヨタは約10年前からレーザー・スクリュー・ウェルディング(LSW)というレーザー溶接技術を車体の溶接に適用している。そこで培った技術を織り込み、超シャープなラインを実現する技術を確立した。

レクサスLC EDGEのカナードといい、センチュリーのキャラクターラインといい、何気なく眺めている意匠に最新技術が隠れており、それが製品の魅力を高めるのにひと役かっている。そんなことを実感させてくれたプレゼンテーションだった。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…