全固体電池、ギガキャスト、匠の技……革新技術とデジタルを融合 トヨタがものづくりの現場を公開した理由【トヨタモノづくりワークショップ2023_1】

トヨタ自動車は「クルマの未来を変えていこう!」をテーマにした「トヨタモノづくりワークショップ2023」を開催した。6月に「トヨタ テクニカルワークショップ」を開催して電動化、知能化、多様化の領域での将来技術を公開している。今回のワークショップはテクニカルワークショップで公開した技術を具現化する“モノづくり”を紹介する内容だ。そこで見せたものは、トヨタの圧倒的なものづくりへの想いとパワーだった。
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO & FIGURE:TOYOTA
TOYOTA MONOZUKURI WORKSHOPのロゴマークまでデザインされていることからも、このイベント(とTOYOTA TECHNICAL WORKSHOP)へのトヨタの強い想いが感じられる。

ワークショップが行なわれたのは貞宝工場(愛知県豊田市貞宝町)と明知工場(愛知県みよし市明知町)、そして元町工場(愛知県豊田市元町)の3拠点だ。1986年に操業を始めた貞宝工場はトヨタモノづくりのスタートアップ拠点であり、「無」から「有」を生み出す開発の現場に位置づける。実際に製品を生み出す他の工場とは異なり、クルマ事業を支える新製品の設備・型・工法づくりを行なう。また、Woven City(ウーブンシティ)や新モビリティ、物流改善や社会貢献、モータースポーツといった、モビリティカンパニーへの変革をリードするモノづくりの拠点でもある。

トヨタの最大の強みは、クルマづくりで培ってきたリアルな現場の知恵と工夫、そして匠の技。これに革新技術とデジタルを融合することにより、アイデアを素早く形にする。その拠点が貞宝工場というわけだ。人財も大切にしており、短期間に何度もチャレンジする機会を設けているという。

新郷和晃 執行役員・Chief Production Officer(CPO)

新郷和晃 執行役員・Chief Production Officer(CPO)はワークショップの開催にあたり、「『人中心のモノづくりで工場の景色を変え、クルマの未来を変えていく』、モノづくりにおけるトヨタらしさの継承と進化を感じていただきたい」と話した。

貞宝工場 トヨタモノづくりのスタートアップ拠点

貞宝工場でのワークショップは3つのパートで構成されていた。第1のパートは「『知恵と工夫、匠の技』で無から有を生み出す」内容で、佐吉翁の木製人力織機、モーター設備づくり、匠工房が紹介された。第2の内容は「『革新技術、デジタル』を活用し、進化し続けるモノづくり」で、デジタルによる技能の継承と進化、デジタルを活用したモノづくりの働き方改革、現場力×デジタルでリードタイム短縮、の各テーマについて説明があった。

第3は「実践事例『次世代電池ライン』」である。次世代電池普及版(バイポーラ型リチウムイオン電池)開発ラインと全固体電池の開発ラインが公開された。

豊田佐吉翁が発明した自動織機。レプリカを製作する課程で、さまざまな気付きがあったという。

明知工場 鋳造技術、鋳造部品の開発・試作の拠点 ギガキャストはここで

操業50年を迎える明知工場と、操業47年を迎える明知工機工場は、グローバルに展開するトヨタの鋳造工場の鋳造技術、鋳造部品の開発・試作の拠点として機能している。ここでは、モータースポーツとギガキャストの2つのテーマについて説明があった。低圧鋳造法で作られるモータースポーツ用のエンジンは究極の性能と信頼性を確保するために複雑な形状を高精度に作ることが求められる。そこに適用された「匠の技の伝承と改善・応用」について説明があり、匠の技が公開された。

ギガキャストはトヨタが目指すTPS(トヨタ生産方式)を追求したモノづくりの最新事例で、ワークショップでは車両アルミ一体構造部品の試作用設備が公開された。魅力ある性能を廉価に実現するための技術のひとつである。

元町工場 工程1/2への取り組み

1959年に東洋一の乗用車生産工場としてトヨペット・クラウンの生産を開始した元町工場では、マルチパスウェイの量産ラインでハイブリッド車(HEV)、FCEV、バッテリーEV、ICEなど9車種を混流で生産している量産ラインが公開された。また、工程と工場投資1/2(2分の1)を目指す次世代BEVの実証ラインが紹介され、物流問題への対応事例として、車両搬送ロボットによる人手不足の解消と作業負荷軽減の取り組みについてデモンストレーションがあった。

また、カーボンニュートラルなモノづくりの事例として、塗着効率の大幅な向上とCO₂排出量の低減に結びつくエアレス塗装技術が公開。9月6日に発表されたセンチュリー新型モデルの用品に採用された手作りのスカッフプレートなど、クルマの個性を高める匠の加飾技術について丁寧な紹介があった。

CPOの内示を受けたとき、新郷氏は「正解のない時代に開発と生産が垣根を越え、ベンチャー企業のように一体となって未来を作ってほしい」と期待されていると理解したという。その後、現場を回ることで、次の3つの点について感じたという。

  1. 「誰かの仕事を楽にしたい」「みんなの笑顔のために」という創業期から変わらぬ精神が現場に息づいている。
  2. モノづくりの「高い技能と技術」がしっかり受け継がれている。
  3. 「人財を鍛える現場の力」がある。

これら3点こそがトヨタしか持ち得ないモノづくりの強みであり、だからこそ、その技をしっかり継承していくことがますます重要になると感じたという。そのうえで、「トヨタの技で、モノづくりの未来を変えたい」と話す。そのためには、「『技能と技術』と『デジタル・革新技術』の融合でモノづくりを進化させ、リードタイムを短縮して『すばやく、何度もチャレンジする』ことが重要」だと説明した。

例えば貞宝工場では、設備の開発にあたって技能を持ったメンバーが3D空間上で改善活動を重ね、それをリアルな設備製作に反映させる仕組みがすでに動いている。また、全固体電池の生産ラインでは、技能者の創意工夫による高速かつ高精度な生産ができるようになっている。これらは今回のワークショップで公開された。

「CPOとしての決意をお伝えします。トヨタの持つ技とデジタル・革新技術で、工程1/2を実現します。また、開発と生産の垣根をなくし、新しいモビリティをすばやく提供します。そして、工場カーボンニュートラルや物流などモノづくりの基盤の課題解決にも取り組んでいきます。これからはトヨタが持つ強い現場力をベースに、人とテクノロジーがうまく助け合いながら、誰かの笑顔のために仕事をする現場をつくることで、新しい時代を切り拓き、幸せの量産を目指していきます」

どんなに先進的な技術であっても、それを量産できないことにはユーザーの手に届かない。早くつくりたいし、手の届く価格に収めるためには効率良くつくらなければならない。働く人の負担も減らしたい。そのために、トヨタが継承してきた技とデジタルを融合し、開発と生産が垣根をなくして知恵を出し合い、さまざまな領域でアイデアを具現化している。トヨタのモノづくりの現場は、クルマの未来を変えようとするパワーで満ちあふれていた。

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…