全長5.3m!三菱の新型トライトンは日本国内で売れるのか?ライバルのハイラックスに勝つ秘訣は?

三菱の新型ピックアップトラック「トライトン」が2024年初頭には日本にも導入されることが発表された。国内でも「ピックアップトラックの選択肢が欲しい」という声があり、三菱はこれらの情勢を踏まえて、満を持して新型を投入したと見られる。果たして、新型トライトンは日本国内で成功するのだろうか?ライバルとなる「ハイラックス」の動向も踏まえつつ、今後の展開を予想してみよう。

TEXT:山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka) PHOTO:小林直樹(KOBAYASHI Naoki)/三菱

ユーザーの声に応え、満を持して新型トライトンを国内投入!

新型トライトンは100カ国以上で20万台規模の販売を目標とする、三菱の最重要モデルの一台という位置付け。

三菱の新型ピックアップトラック「トライトン」は2023年7月26日にタイ・バンコクにて発表され、2024年初頭には日本にも導入されることが決定している。かつて国内販売された初代モデルの販売中止から、実に12年ぶりとなる。

初代トライトンは、国内販売台数では5年間で2000台にも満たない数で商業的には失敗作と言えるものだった。しかし、ライバルとなるトヨタ「ハイラックス」は2018年以降の販売が順調で、いまや同社のカローラセダンを抜く売れ筋商品となっている。

国内でも「ピックアップトラックの選択肢が欲しい」という声があり、三菱はこれらの情勢を踏まえて、満を持して新型を投入したと見られる。日本ではダブルキャブのみの発売となりそうだが、これ以外のボディバリエーションとして、シングルキャブとクラブキャブと名付けられたエクストラキャブも設定されている。

先代トライトンの国内販売台数は5年間(2006年〜2011年)で2000台にも満たない厳しい状況だった。

迫力のアメリカ顔と電子デバイスでライバルと勝負

デザインコンセプト「BEAST MODE」(勇猛果敢)ピックアップトラックに求められるタフさや力強さを表現。

トライトンが目を惹くのは、その現代的なデザインだ。スクエアで押し出し感の強いマスク(もちろんダイナミックシールドのデザインプロトコルだが)は、北米をはじめとするピックアップトラック市場で主流のデザインだ。いわゆるアメリカ顔。少々前時代的になってしまったハイラックスとは違い、イマの気分を反映した秀作と言えるだろう。

「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」は路面の状況に合わせて、7つのドライブモードを選択可能。

さらにライバルより秀でているのは、数々の電子デバイスだ。三菱の伝家の宝刀「AYC」を筆頭に、レーダークルーズコントロールシステムを商用車ながら採用。さらに4WDシステムには、路面状況によってトラクションをコントロールするモードが付いた「スーパーセレクト4WD-Ⅱ」を奢った。トラクション性能を発揮しつつ旋回性を維持させる「トルク感応式LSD」も同モデルの武器のひとつだ。

インテリアは走行時の車体姿勢を掴みやすい水平基調のデザイン。

こうした最新デバイスを、伝統のラダーフレーム構造に内包することで、現代的な走行性能や快適性と、ピックアップトラックに求められる実用性を見事に両立させている。

エンジンも、初代ではガソリンエンジンの設定しかないことで商業的に失敗したことを踏まえて、今モデルは日本でニーズの高い2.4Lターボディーゼルを搭載してきた。出力の違う3種類のパワーユニットを用意することで、世界の市場に対応できるようにしている。ライバルと同じスペックのものだけでなく、大幅に上回るユニットも設定しておくことで、ハイラックスのハイブリッド化に対抗できるようにしたのかもしれない。

エンジンは2.4L直列4気筒DOHCディーゼルターボを搭載し出力の違う3タイプが設定される。高出力モデルは最高出力204ps、最大トルク470Nmを発揮する。

価格はまだ公表されていないが、おそらくハイラックスの価格帯を意識することは間違いない。となると、市場では強力な競合になるはずだ。

さて、前述の通り、ハイラックスは国内で顕著な売り上げを見せており、ひとつの成功例を作った。加えて、「タンドラ」や「タコマ」といった逆輸入モデルも並行車市場で好調だという。だが、トライトンは果たして「二匹目のドジョウ」になり得るのだろうか。

ライバルとなるトヨタ・ハイラックスの価格は407万2000円〜431万2000円となっている。

確かにピックアップトラックは不便なことも多いけど。。。

日本でピックアップトラックが華やかだったのは、やはり80年代から90年代初頭だと言える。ハイラックスを筆頭に、日産の「ダットサントラック4WD」、三菱「ストラーダ」、マツダ「プロシード4WDキャブプラス」など、ピックアップトラックの顔ぶれも多彩であった。

日産ダットサントラック

当時は一部を除いて4ナンバー車だったこともあり、税金や自賠責保険、高速料金などが今の1ナンバーほどは高くなく、また車体もクロスカントリー4WDに比べるとリーズナブルだったことから、1年車検という点を除けば手が出しやすいクルマだったのである。

さらに当時はバブル期でもあり、水上バイクやオフロードバイク、サーフボードを積んで乗る若年層もいて、北米ほどではないものの憧れのクルマのひとつではあった。しかし多雨な日本では使いにくさがあり、また居住スペースも狭いことから、結局はハイラックスサーフやテラノといったSUVを購入するユーザーの方が多かったという現実があった。

それから40年、今ではSUVがスタンダードとなった上に、他人と差別化を図れるクルマが少なくなってしまった。そういう点で、ピックアップトラックに注目が集まるのは自明の理と言えるかもしれない。ただ、現代のピックアップトラックは1ナンバーが当たり前。海外での実用性、つまり積載性だったり牽引力だったりを考えて造られているため、排気量は2000cc以上が当たり前、全長も5m以上がスタンダードという、日本で乗るには少々厄介なクルマになってしまったのである。

それでも、日本でハイラックスが好調なのはなぜなのか。1ナンバー車はランニングコストが高く、唯一財布に優しいのは燃料が軽油だということ。それ以外はほとんどが3ナンバーよりも割高だ。なのに、なぜ人はピックアップトラックに曳かれるのだろうか。

ピックアップトラックの荷台に積むものは…?

オフロードでの走破性は折り紙付きだ。

ひとつの理由が、前出の「他人との差別化」だ。スポーツカーは日常でそれほど乗りやすいクルマではないし、高級車も今更感がある。若年層でラグジュアリーカーに乗るのは抵抗があるだろう。高級SUVも、今となってはさほど目新しさがない。

そこで浮上するのが、ピックアップトラックというわけである。筆者がピックアップトラックのユーザー層を調査したところでは、年代が2極化している傾向が見られた。まず、50&60代のピックアップトラックがかつてオシャレ車だった時代の人たち。そして、20&30代の若年層である。共に経済的に余裕があるという共通項があり、そのため1ナンバーに乗ることも厭わない。

ちなみに用途などを聞いたところ、オフロードバイクやアウトドアレジャーユースという声もあったものの、多くの人が特に荷台に何かを積むわけではなく、ピックアップトラックというカテゴリーに乗りたいから乗るというのが理由の筆頭に来ていた。あるユーザーに、何を積むのか聞いたところ、「夢」という答えが返ってきたが、まさに言い得て妙だ。

居住地域は意外にも都市部が多く、富裕層は広いカーポートを持っているから問題ないという販売店の答えに、なるほどと納得できた。

いろいろ調べて見えてくるピックアップトラックユーザーは、平均よりも豊かな経済状態にあるということだった。やはり維持費などをいちいち考えていたら、日本では乗れないカテゴリーなのかもしれない。ただ、よく考えてみれば、日本でも3ナンバーのクルマがオーソドックスになっているし、ガソリン180円時代でもかつてのオイルショック時のように走っているクルマの台数が減ったわけではない。

ピックアップトラックは、リアル庶民には高嶺の花の存在な気もするが、車両価格と維持費を相殺すれば、それほど高い所にはないのかもしれない。だとすれば、いろいろな点で魅力的に映るトライトンは、十分に“2匹目”を狙えるのだろう。

燃費やコスパは気にしない“好きなクルマに乗りたい!”と考えるユーザー層の心を掴めるかがカギとなる。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…