陸上自衛隊:最新世代戦車「10式戦車」の性能①、ヒトマルの機動力に注目する

芝生と土の混じる地面を高速で右旋回中の10式戦車。
これまで90式戦車、74式戦車を紹介してきたが、今回から10式戦車を見てみよう。装備された2010年度にちなみ名称は「10(ヒトマル)式戦車」と呼ばれる。開発は防衛省技術研究本部(現・防衛装備庁)が2002年から09年まで行い、製造は三菱重工。最新世代の戦車として登場して以来、主力戦車のひとつとなっている。
TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
同じく右に急旋回中の10式戦車の姿勢変化を正面から見る。大きくロール(傾斜)し、柔らかい脚周り・サスに見えるが単に柔らかいだけでもない。意図的な姿勢変化を見せる機会、富士総合火力演習ならではの動きでもある。

10式戦車は「攻・走・守」それぞれに高い能力を持っている。そのなかでまず注目したいのは「機動力」だ。本車のパッケージはエンジンに水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル、それに油圧式無段階変速機を組み合わせ、脚周りには油気圧式サスペンションをセットするもの。陸上自衛隊戦車のエンジンをみると、74式戦車が空冷2サイクルV型10気筒ディーゼル、90式が水冷2サイクルV型10気筒ディーゼル。これに対し10式は前述したように水冷4サイクルV8ディーゼルで、燃焼行程と気筒数に差異がある。10式の新型エンジンは熱効率の良い小型化された心臓部だという。

姿勢変化機能「①前傾」。車体の前側だけ車高を低めた状態。稜線射撃で見せる姿勢だ。

エンジンについてごく軽く振り返る。

先の大戦後初の国産戦車「61式戦車」は4サイクルエンジンだった。しかしこれは例外的なものだったそうだ。日本の戦車は軽量コンパクトで高出力な2サイクルエンジンを採用する傾向があったといえる。しかし2サイクルエンジンはご存知のとおりその燃焼行程と特性から未燃焼ガスや有害ガスを排出しがちで、燃焼や駆動ロスが大きく燃費が悪い性質がある。90式戦車は同じ世代の諸外国戦車からみて比較的に航続距離が短かったといえるようだ。

それが10式戦車では無段階変速機を積む設定がなされ、これは損失を低減し、起動輪へ無駄なく力を伝えることを追求したもの。加えてトラクション性能の高い新型履帯(キャタピラ)でグリップする走りを標榜。これでいわゆる走破性の向上が予想され、エンジンに過大なハイパワーを求めなくとも良くなった。そこで燃費が良く、排気煙の少ない4サイクルエンジンに目が向いたという。さらに良好な燃焼効率を狙い燃料噴射装置には電子制御式インジェクターを組んでいるそうだ。

姿勢変化機能「②正立」。傾斜させていない、ほぼニュートラルな状態。10式は前後左右に姿勢変化させられ、全体での昇降も可能。
姿勢変化機能「③左右の傾斜」。これは右側だけ車高を最低にした状態。

油圧式無段階変速機は量産型戦車として世界初の採用だ。エンジン回転数にとらわれず出力軸の回転数を任意設定できることが特徴で、伝達効率が高められるという。だからエンジンパワーでみると10式戦車は1200psで、90式戦車より300psほど低い。しかし起動輪での出力は90式よりも大きく、そのぶんだけエンジンや車体をコンパクトで軽量にできたという。

油気圧式サスペンションはすべての転輪に付けられる。同様な脚周りを持つ74式戦車は射撃精度を向上させるために導入したといえる。一方、10式の油気圧サスは走行安定性を重視して採用された脚周りだ。採用はされなかったが油圧式アクティブ・サスペンションの研究も技術研究本部で行なわれたそうだ。これら研究・開発の結果、すこぶる走りのいい戦車ができ上がった。走りに注力したのは守るべき我が国の地勢、狭く山地が多く、離島を多数抱えた島国であることをふまえたからだろう。比較的小型軽量で輸送もしやすい。輸送性が高いなら保有数も絞れる、そんな考えだろう。そうしてみると、旧式化し退役中とはいえ74式戦車の車体設定は現在でも通用するのだと考えられなくもない。

陸上自衛隊:油気圧式サスで姿勢を変える「74式戦車」、日本の戦車乗りを育てた名戦車は退役中

前回は90式戦車を紹介したが、今回は時代を遡ってその前代にあたる74(ナナヨン)式戦車を見てみたい。油気圧式懸架装置(サスペンション)をその脚周りに取り付け、前後左右、自在に姿勢を変える。地形に合わせて潜み迎え撃つ姿は独特の凄みがある。マニュアルの操作系で日本の戦車乗りを育て、現在退役が進む。 TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

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著者プロフィール

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貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…