第3世代戦車の最高峰「90式戦車」、攻守の能力を高次元でまとめた陸上自衛隊の現用主力

陸上自衛隊の現用主力「90式戦車」。
登場当時「ハイテク戦車」と呼ばれたのが90式戦車だ。通称は「キューマル」。デジタルコンピュータや射撃統制装置(FCS)、砲安定装置などに日本独自の高精度技術を投入した。北海道の機甲部隊に集中配備されており圧倒的な威力を誇る。陸上戦闘・防衛力の切り札といえる存在だ。
TEXT & PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

90式戦車は東西冷戦の時代に旧ソ連からの侵攻を想定して計画・開発され、北海道の陸上自衛隊機甲部隊に重点配備されてきた。車重約50tのサイズは存在感も大きく、能力も高い。現在でも北方の脅威へ備えながら、近年の統合機動防衛力構想では他の地域への展開も目論むのが90式だ。

戦車砲は独ラインメタル社製44口径120㎜滑腔砲「Rh120」をライセンス生産したものを積む。

本車は現在の陸自主力戦車のひとつという位置付けになる。戦後開発された国産戦車、61式戦車と74式戦車に続く3車種目だ。戦車を世代別に見たときの第3世代に分類される。車体規模では前型の74式戦車を上回り、性能面では制式化時点で諸国軍の主力戦車と同等の最新鋭戦車だった。開発は74式戦車が制式化された直後の1975年より開始、1990年8月6日に制式化されている。1990年度から2009年度までの19年間に製造と調達が行なわれ、09年時点での保有数は計341両だった。このうち大多数は前述のように北海道へ重点配備され、本州以南にはごく少数となっている。

本車の特徴は、戦車砲弾の自動装填装置をいわゆる西側諸国の戦車として初めて実用化したこと、そして射撃統制装置(Fire Control System:FCS)を国産技術で構成したことにある。

富士総合火力演習で射撃する90式戦車。走行中の射撃「走行間射撃」でも初弾命中率は高い。

自動装填装置は砲塔後部に置かれ、十数発の戦車砲弾を詰め込めるそうだ。装填から射撃のサイクルは約4秒間隔で連続できるという。次弾発射までの時間を短縮できていて、故障などの場合には手動装填も可能だ。

射撃統制装置FCSはレーザー測遠機と弾道コンピューター、自動追尾装置や環境センサーを組み合わせた高度なシステムだ。命中率を高めながら自動装填装置と組み合わせることで、走行中の射撃(走行間射撃、行進間射撃とも)や連続射撃などを可能としている。走りながらの射撃でも命中精度は高水準に保たれている。

これは90式戦車の砲手用照準器(広報センター展示物)。上部パネルの中央右寄りの接眼レンズで見る。実物ではこの機器の右手に直接照準器、コントローラー左手に熱源感知モニターが設置されているという。

照準・視察システムには熱線映像装置(サーマル・センサー)を装備して昼夜間で対応、悪天候下でも目標を探し照準することができる。砲安定装置を働かせた照準・視察システムは目標を自動追尾する。目標をモニター上で捉えてロックすると、自車の進行方向にとらわれず、車体の傾斜や揺れの影響を打ち消して戦車砲は目標を追尾し続け、そのまま射撃すれば当てられるという。

エンジンは三菱製ターボ・ディーゼル(1500ps)。国産戦車として初めて水冷エンジンを積んだ。変速機はフルオートマチック式で、これも国産戦車初となるのものを搭載した。ハイパワー・AT戦車である。


脚周りをみると、車体を支えている転輪は片側に6個。サスペンションは1、2、5、6番輪が油気圧式で、3、4番輪がトーションバー式。トーションバーにすることで走行安定性が増し、走行間射撃時の精度を高めることに役立っているという。サスを使った姿勢の変換、車高の上げ下げや前後傾斜が可能で、ロール方向への側方傾斜はトーションバー保護のためやらない。左右への傾斜はFCSを使った照準補正で対応可能だという。

120㎜装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS弾)。先端のダーツ様の物体が弾芯で、素材はタングステン等。弾芯は装弾筒に包まれ、砲から撃ち出されると装弾筒は分離し弾芯だけが飛翔する。超高速で相手の装甲に激突した弾芯は高圧で圧縮され、弾芯と装甲は流体のようになり相互に侵蝕。弾芯はさらに内部へ侵入し破壊する仕組み。
120㎜対戦車榴弾(HEAT弾)。いわゆる成形炸薬弾。命中時、爆発した炸薬の燃焼ガスが弾頭部からジェット噴流となって一極集中的に目標物の表面(装甲)へ流れ込み、表面を溶かして侵入、内部を破壊するもの。

戦車砲は独ラインメタル社製44口径120㎜滑腔砲「Rh120」をライセンス生産したものを積む。使う砲弾は徹甲弾にJM33 120㎜装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)、榴弾にJM12A1 120㎜多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)を用意。そのほか演習弾や10式120㎜戦車砲空包も用意されている。

砲手が握るH型コントローラー。小型で、前後に倒すと砲身の上下、左右に回せば砲塔の回転を操作できる。右グリップの赤ボタンが発射ボタン。右グリップの裏側にレーザー照射レバー、左側の同位置にはロックオンレバーがある。

個の性能をみると90式は現在も一線級の能力を持つ主力戦車であることがわかる。しかし防衛環境は変化した。冷戦当時の北方脅威に備えた防衛思想と北海道の地理地形特性に合わせた設計で生み出された本車。時代を経て、戦車を投入するような防衛戦闘の発生可能性は低まったとみられ、結果、戦車を削減している。

戦車不要論・必要論ともに合理性に基づく考えによるものだ。どちらかだけが絶対的な正解ということではないはず。そして現在の日本は南西海域の島嶼防衛が緊急テーマだ。

これに防衛省の打ち出した統合機動防衛力構想では、初動の陸上即応展開戦力として普通科(歩兵部隊、水陸機動団や第1空挺団含む)が充てられ空輸で島へ入る。後続の1次展開には西日本の即応機動連隊が装甲戦闘車両を伴って移動、そして2次展開には東日本の機動師団・旅団が機甲戦力を伴って移動、最後の3次展開で北海道の機甲戦力が増援部隊として移動・投入される。陸自戦力の輸送は海自・空自が担う。想定する最終局面で北海道に偏在する90式戦車を南西地方へ輸送し投入、決着をつけるという目論見だ。

まず、ヘビー級の90式戦車までも投入する最終局面とは、これはかなり深刻な状況を示すものだろうと筆者は想像する。それも北海道から九州沖縄へ長駆させる。そのために北海道での機動・輸送訓練を重ねていたり、海上輸送力を具体化させる新鋭輸送艦の開発建造も計画し始められたようだ。しかし現状の島嶼防衛で、90式戦車や道内の機甲戦力は切り札、その投入は最後のカードを切ることに相当するはずだ。最終手段頼みにならないよう南西方面での海上保安庁や陸上警察力の増勢、そして陸海空自衛隊、とくに海空の態勢整備は本当に重要だと思う。

著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…