MAZDA3 e-SKYACTIV Xは「とにかく、エンジンとの対話が楽しく懐が深い」6MTとの相性は?

筆者の愛車であるMAZDA3 X PROACTIVE Touring Selection 、4WD、6MT
e-SKYACTIV Xは、マツダが開発した革新的燃焼方式SPCCIが採用したエンジンだ。愛車にしてから、マツダが主張していた「自在感」と「瞬発力」という謳い文句が身に染みてわかってきた。
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)

理想の内燃機関を追求するマツダが生み出した成果が、新世代ガソリンエンジンのe-SKYACTIV X(イー・スカイアクティブ・エックス)だ。通常のガソリンエンジンは燃料と空気が混ざった混合気に点火プラグで着火する火花点火燃焼である。火がついたところから燃え広がっていくので、火炎伝播燃焼とも表現する。

エンジンの熱効率を向上させる(と燃費は向上するし、出力向上に振り向けることもできる)手段のひとつに比熱比の向上がある。燃料に対する空気の比率を高めていくほど、すなわちリーンにしていくほど比熱比は高まり、熱効率は向上する。しかし、混合気は薄くなってしまうので、点火プラグの火花では着火しづらくなっていく。

そこで、圧縮などによって混合気の温度を高め、ディーゼルエンジンのように自己着火させるのが、HCCI(Homogenous Charge Compression Ignition)などとも呼ばれる均一予混合圧縮着火燃焼だ。圧縮着火が成立する筒内温度の範囲が非常に狭いのが課題で、こうした理由もあってHCCIは“究極の燃焼”に位置づけられながらも、実用化に至らずにいた。

マツダは点火プラグが作る膨張火炎球を利用することで圧縮着火を手なづけることができ、予混合圧縮着火の実用化にこぎつけた。この、膨張火炎球による独自の圧縮着火燃焼技術を、マツダはSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition Combustion:火花点火制御圧縮着火)と呼んでいる。マツダ社内で連綿と受け継がれる“飽くなき挑戦”のスピリットが、この革新的な燃焼技術の実用化(世界初)に結びついた。

SKYACTIV-Xが目指したのは、できるだか多くの気体(空気は燃焼ガス)を入れること。そうすると、ストットルを開けられるためにポンプ抵抗が減り、燃焼温度が下がるために、熱として逃げる損失が減りNOx排出も下がる。多くの空気が膨張するため多くの圧力を発生させられる、というメリットがある。

SPCCは燃焼が速く、燃焼期間が短いのが特徴で、これらの特徴により、「優れた初期レスポンスと力強いトルクを発生」、「素早い操作にもリニアに追従し、高回転までスムーズに伸びていく」と説明する。高い燃焼効率はピンポイントで実現するのではなく、全域で実現した。そのため、ギヤ選択の幅が広がるし、低速から高速まで、あらゆるシーンで力強く、しかも燃費のいい走りが実現できる素性を備えている。


2019年デビュー当時のe-SKYACTIV Xの最高出力は180ps(132kW)/6000rpm、最大トルクは224Nm/3000rpmだった。マツダは20年11月19日にMAZDA3の商品改良を行ない、制御ソフトウェアの改良を行なうことでSPCCIの燃焼制御を最適化。最高出力は10ps(8kW)アップの190ps(140kW)/6000rpm、最大トルクは16Nmアップの240Nm/4500rpmに進化した。さらに、21年4月26日には排ガス性能と燃費を改善している。筆者のMAZDA3は最新バージョンだ。

最高出力と最大トルクを高めた商品改良にあたり、マツダは「自在感」と「瞬発力」という表現を用いてe-SKYACTIV Xの進化を説明した。新旧を試乗してみると、確かに、進化バージョン(マツダは「進化の第1弾」と表現)は力強さが増している気がした。しかし、力強く強調するほど「自在か?」「瞬発力あるか?」と疑問を感じざるを得なかった。しかし、良くなっているのは確かで、だから購入を決断したのである。

納車され、普段の足として近所のスーパーマーケットに行ったり、箱根に行ったり、栃木に行ったり、山梨に行ったり、ときには宮城に行ったりしてみると(東京が基点です)、マツダが主張していた「自在感」と「瞬発力」の意味が身に染みてわかるようになった。ひとことで言えば、e-SKYACTIV Xは気持ちのいいエンジンだ。「あのときすぐにわからなくて、申し訳ありません」と、床に手を突いて謝罪したい気分である。と同時に、“飽くなき挑戦”のスピリットを持ち続け、e-SKYACTIV Xという気持ちのいいエンジンを実用化したマツダの技術者に感謝したい気持ちでいっぱいだ。

とにかく、エンジンとの対話が楽しい。e-SKYACTIV Xは燃焼室の温度を適切に保つためと遮音のためにカプセル構造となっているが、エンジンを始動すると、エンジン音は適度なボリュームでドライバーの耳に届く。聞かせたい音と聞かせたくない音の選別とチューニングは徹底的に行なっているに違いない。ディーゼルのような圧縮着火をしているからという先入観があるせいかもしれないが、ガソリンとディーゼルの中間のような、独特の音がする。筆者にとっては、ずっと聞いていたいと思わせる部類の音だ。

6速で100km/h巡航時のエンジン回転数は2500rpmだ。現代的な水準で言えばだいぶ高い回転数だ。

筆者のMAZDA3は6速MTで、100km/h走行時のエンジン回転は2500rpm前後である。2000rpm以下で走るクルマが増えているなかで、ずいぶん高いと最初は感じた。6速ATの場合は2100rpm前後である。「高速燃費悪くなるじゃないか」とも思ったが、e-SKYACTIV Xは燃費の良好なゾーンが広いので、イメージするほどの燃費は悪化しないはずである。実際、高速走行で燃費が悪くなる実感はない。

それより、「100km/h巡航時にいい音を聞かせるために回転数を設定した?」と勘ぐっている。とくに、この速度域でちょっとアクセルペダルを踏み増して加速していくときの、クォーンというハミングが機械的でもあり、官能的でもあり、病みつきになる。前のクルマに詰まって追い越す際、ひとつやふたつ下の段に落とす必要はなく、6速のまま、踏み込んだら即座に力を出して加速し、いい音を響かせながらサッと仕事を終えてしまうのがいい。

低〜中速域の扱いやすさも感心する。スピードメーター内にはギヤ・シフト・インジケーター(GSI)の表示がある。GSIは現在のギヤを表示するだけでなく、燃費の良い快適な走行をサポートするために推奨ギヤを表示する機能もある。4速で走行時に5速で走ったほうが燃費のいい走りができるとクルマが判断した際は、「4▷5」と表示される。このSGI、状況によっては48km/hで走っているときに「5▷6」と表示する。

「いやいや、さすがにそれは無理でしょ」とはじめは思ったが、試しに6速に入れてみると、難なく走る。さすがにエンジンブレーキの利きは弱くなるし、加速したいと思ったときの反応は鈍くなるが、実用上はさほど問題ない。4速、5速についても、これまでの感覚より低い速度域をカバーできる。e-SKYACTIV Xの懐の深さは、日常的に付き合ってみての大きな発見だった。

4カ月経って、e-SKYACTIV Xの特性が身体に馴染んできた。

納車後まもなくは、すぐに上の段を促すGSIがわずらわしく感じたが、4ヵ月経った現在ではほぼ自発的に、SGIの指示どおりにギヤを選択していることに気づく。飼い慣らされた(?)感じがしないでもないが、エンジンとの対話が心地いいことに変わりはない。e-SKYACTIV Xの特性が身体になじんできた印象だ。

著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…