ボディカラーの流行を予想、3年後は新しい色の時代が来る!オススメ4色を筆者が紹介

塗料大手のBASFジャパンが9月28日、自動車のカラートレンド予測を発表した。このトレンド説明会は毎年行われているが、今回は「伝統的なカラーが終焉を迎え、新しいカラーの時代がやってくる」と打ち出したところが大きな注目点。自動車のボディカラーが今後、大きく変わっていきそうだ。

なぜ伝統的なカラーが終焉するのか、新しいカラーとは具体的にどんなものなのか?BASFジャパンの発表内容なら探っていこう。

TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:千葉 匠(CHIBA Takumi)/BASF

新しいカラーの時代、軽やかな色たち

アジア太平洋地域のキーカラー「ELECTRONIC CITRUS(エレクトロニックシトラス)」

塗料大手のBASFジャパンは自動車のカラートレンド予測を発表した。トレンド説明会の会場となったBASFジャパン会議室には、3〜5年後の量産採用を目指す数多くの色見本が壁に掲げられていた。BASFはドイツに本社を置くグローバルな化学メーカー。自動車塗料についてはドイツ、アメリカ、横浜(BASFジャパン)、上海を拠点にデザインと技術開発を行っている。今回お披露目されたのは各拠点が提案したカラーだ。

それをざっと見て感じた第一印象は「重たい色が少ない」。黒を含めてダーク色もあるのだが、全体としては、どこか軽やかで楽観的な雰囲気のカラーが並んでいる。

今回の提案色。中間色/パステルカーや明るい色が例年より増えている。

「パステル調や明るい色など、全体にトーンが上がって軽くなってきた」と語るのは、BASFグループでアジアパシフィック地域のチーフデザイナーを務める松原千春さん。

プレゼンテーションする松原千春さん。日本ペイントからBASFジャパンに移籍し、中国を含めたアジア太平洋地域のチーフデザイナーを務めている。この発表会の直前にも中国に出張していたとか。

「ダークカラーのほうが高級に見えるけれど、人々が求めるものは高級一辺倒ではない。日本ではパステルカラーは軽自動車の色と思われがちですが、中国ではパステル調の高価格車が売れている。電気自動車など新しい概念のクルマを若い人たちが従来とは違う視点で見るようになって、ボディカラーも変わっていくと思います」

漸進する社会の価値観変化

BASFのデザイナーたちは各拠点の模索と議論を経て、今年のトレンド予測のテーマを「ON VOLUDE(オン・ヴォルード)」という造語で示した。松原さんはそれを「漸進(ぜんしん)」と訳す。漸進とは段階を追って少しずつ進んで行くことを意味している。

「ON VOLUDE=漸進」のテーマを代表するのが、これらの色見本。ポジティブな時代観がここに映し出されている。

過去数年に見えていた技術革新が人々の行動に現れるようになり、社会が新しい未来に向けて確実に進み始めた。そんなポジティブな時代観を「ON VOLUDE=漸進」のテーマに込めている。

「少し前までは新しいテクノロジーで、あれができる、これができると言われても、具体的に何を生活に取り入れられるのかがわからなかった。しかし今はそれを使うアプリが開発されるなど、生活のなかで新技術を実感できるようになってきた」と松原さん。そして「それは自動車も同じ」と告げる。

「電気自動車や自動運転車など、伝統的な自動車とは違うファンクションが求められている。とくに中国ではそれが顕著で、伝統的なクルマを買いたくないという若者も出てきた。私たちの生活が変わっていけば、自動車も変わっていく。そのときに新しいカラーが必要になると考えています」

EMEA(欧州、中東、アフリカ地域)のキーカラー「PREDICTOR(プレディクター)」

何色とも言えない色

米州のキーカラー「ZENOMENON(ゼノメノン)」

新技術を生活に取り込み、その価値を実感することで、私たちは未来に向かって漸進し始めた。そう分析するBASFは今回、中間色/パステルカラー、カラーシフト、触感という三つの方向性を打ち出した。

中間色とは赤や青など主要な色相の中間の色、もしくは各色相の最も鮮やかな色(純色)に灰色を混ぜた色のこと。後者はパステルカラーとも呼ばれる。

もちろん中間色/パステルカラーは自動車のボディカラーとして新しいものではないが、そこにカラーシフト、つまり見る角度による色の変化を加えて新しさを表現したことが今回の提案のひとつの特徴だ。

アメリカ拠点が米州向けキーカラーとして提案した「ゼノメノン」。微細な構造が光の干渉を起こすことで色が見えるという構造色の原理を用いて、見る角度によって色がブルーからグリーンに変化する。モルフォ蝶の羽根は自然界にある構造色の代表例で、それを応用した。

例えばアメリカ拠点がキーカラーとして提案した「ZENOMENON」は、ブルーからイエローグリーンに変化する色。ブルーとグリーンの中間なら一般にターコイズと呼ぶわけだが、大胆にカラーシフトする「ZENOMENON」はその範疇に収まらない。「何色とも言えない色」と松原さんは告げる。

BASFジャパンがキーカラーとしたのは「エレクトロニック・シトラス」。明るいところは蛍光剤によって強く発色し、照明が当たったハイライト部分はグリーンの干渉色が浮かぶ一方、影の部分は輝度感のないソリッド調に見える。

アジア太平洋地域向けのキーカラーとして横浜拠点が開発した「ELECTRONIC CITRUS」は、シトラスの名の通りパステル調のライトグリーンに見えるが、ハイライトはよりグリーンに輝き、影の部分はソリッド調。蛍光色のイエローグリーンに、光の干渉でグリーンが浮かぶパールカラーを重ねることで深み感を表現した。デジタルイメージの蛍光色と温かみのあるパステルカラーが複合して、これもひと言で何色とは言いがたい色になっている。

筆者が注目した4色

長らくカーデザインを取材し、かつては『オートカラーアウアォード』(主催:日本流行色協会)の審査委員長を10年にわたって務めた筆者にとって、BASFジャパンのトレンド説明会は貴重な情報源。なにしろこれは自動車メーカーのカラーデザイナーにプレゼンテーションした内容を、ほぼそのまま見聞きできるイベントなのだ。

今年もさまざまな色が提案されたが、そのなかで上述の2色の他に、ぜひ読者の皆さんにご紹介したい色を4つ選んでみた。

ザラザラ触感のバイオレット

表面がザラザラした赤味のバイオレット。ドイツ拠点が提案したものだが、色見本に色名の表記がないので、まだ開発初期段階の色のようだ。今回の方向性のひとつにあった「触感」を表現する、これは代表例。欧州ではマットカラーが人気だが、マットの次を狙うザラザラ感が印象的だ。「バイオレットは自動車では難しい色域ですが、あえてそこにチャレンジした」と松原さん。「これをツートーンやスリートーンのデザインに使うと、斬新でお洒落な感じになると思う」

スポーツカーではないレッド

横浜拠点=BASFジャパンが提案したソリッドの明るいレッド。これも色名はまだない。スポーツカーで多用される鮮やかでピュアなレッドよりも明度を上げつつ、少しだけくすませてリラックス感を醸し出している。「カジュアルで、ちょっとガジェット感のあるレッド。若い人たちは従来の自動車感で自動車を見ていないので、ソリッドのレッドにも新しい視点が必要だと考えた」と松原さんは説明する。

赤く輝くガラスフレーク

色名は「GLORIA」。赤いガラスフレークを入れたブラックだ。10〜20年前の中国では黒いアウディA6がステータスシンボルだったが、「今はもうそんな概念はまったくない」と松原さん。そこで上海拠点が個性を表現できるブラックとして、この「GLORIA」を提案した。ブラックにガラスフレークを入れてハイライトをシャープに光らせる手法は以前からあるが、これはガラスフレークに赤いコーティングを施した点が新しい。赤く輝くハイライトがガラスフレークの新たな可能性を示唆している。

リサイクル・カーボンブラック

今回の提案のなかでいくつかの色が、廃棄タイヤからリサイクルしたカーボンブラックを黒顔料として使っていた。アメリカ拠点が提案したこのクールグレー(色名の表記なし)もそのひとつ。リサイクル・カーボンを使えば環境に優しいが、松原さんによれば、「まだ耐候性などをテストしている段階」とのこと。「リサイクルした顔料の特性を把握しながら、どう使いこなせるかを考えていきたい」。

実は純白のボディカラーでも、その塗料には微量の黒顔料が含まれている。白は光りを通しやすいので、下地が透けないように黒顔料で光を吸収させるためだ。このように黒顔料には着色材というだけではない用途があり、その意味でもリサイクル・カーボンには大きな可能性がありそう。塗料の世界の深遠さを、あらためて実感するトレンド説明会だった。

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著者プロフィール

千葉 匠 近影

千葉 匠

1954年東京生まれ。千葉大学工業意匠学科を卒業し、78〜83年は日産ディーゼル工業でトラック/バスのデザ…