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公式的に発表されているのは、2ローターRotary-EVシステムを搭載していること。ロータリーエンジンを縦置きに搭載していること。前後重量配分は50:50なこと。全長×全幅×全高は4180×1850×1150mmで、ホイールベースは2590mmなこと。リヤに搭載するモーターの最高出力は370psなこと。車両重量は1450kgなことくらいだ。
我々はアイコニックSPをどのように受け止めればいいのだろうか。マツダ株式会社 執行役員 R&D戦略企画・カーボンニュートラル・コスト革新担当 R&D戦略企画本部長の佐賀尚人氏と、デザイン本部 本部長の中山雅氏に話を聞いた。
マツダは将来的にどんな価値をお客様に伝えたいのか
──アイコニックSPにはどんな思いが込められているのですか?
佐賀:一番伝えたかったのは、どんな時代になっても我々マツダがお客様に提供する価値は変わらないということです。ワクワクしてほしいし、このクルマを見て「カッコイイ」「乗りたい」と思ってほしい。EV化や自動運転化が進んでいくなかで、クルマはコモディティ化すると言われています。本当にそれをお客様が求めているのか、という疑問があります。
──そうじゃないと思っている人もいるだろうと。
佐賀:我々は以前から「ひと中心」と言ってきました。今回も(マツダ株式会社 代表取締役社長兼CEOの)毛籠は「走る歓び」を「人生の歓び」に変えたいと言いましたけれども、クルマは人がいて初めて成り立つもの。その人にワクワクとした感情が芽生えることがないと、クルマ本来の価値は継続しないと思っています。
地球環境の面でのサステナビリティもありますが、人とクルマの関係においてのサステナビリティもある気がしています。そう考えたときに、マツダとしてはワクワク感を表現するのにスポーツカーが一番わかりやすいと思っています。
マツダの歴史を振り返ってみると、コスモスポーツがあり、RX-7があり、ロードスターがある。レースカーでは(1991年のル・マン24時間で総合優勝した)787Bがあります。いつの時代もこれらのクルマとファンに支えられ、マツダは存続してこられたし、我々のモチベーションにもなってきました。100年に一度の変革期と言われるなかで、東京モーターショーは今回、ジャパンモビリティショーに名称を変えました。これをきっかけに、マツダは将来的にどんな価値をお客様に伝えたいのか、それをアイコニックSPに投影しました。このクルマを見て、ワクワクしていただいたり、カッコイイとか「乗ってみたい」と思っていただけたりしたら、我々のメッセージは伝えられたと思っています。
──充分伝わっていると思います。
佐賀:クルマがBEVになっていくと、ホイールベースが伸びて、バッテリーを床下に積むので背が高くなり、電費を稼ぐために空力に力を入れてとやっていくと、どんどん同じような形になっていく。
アイコニックSPにはロータリーエンジン(RE)とバッテリーとモーターが載っています。これまでREは燃費に不利だと言われてきましたが、電動化技術が出てくると弱点を補えるところも出てきます。REの価値であるコンパクトさを最大限に生かすことができる。そうすると、コモディティ化したボディスタイルではなく、アイコニックSPのようにできる。バッテリー容量も小さくできます。
エンジン直結もアリ?
──バッテリー容量が小さくできるのはなぜですか?
佐賀:このクルマはシリーズハイブリッドなのですが、ジェネレーター(発電機)から直接モーターに電流を流すのと、バッテリーを介してモーターに流す2つのパスを考えています。プラグインハイブリッドにしてしまえば、普段使いはバッテリーだけで走れますし、遠出やサーキット走行ではバッテリーとジェネレーターの両方を使ってもいい。なんなら直結にしてエンジンとモーターの出力をパラレルで使ってもいい。
MX-30ロータリーEVでベースができたので、あれを2ローターにして縦置きにした。現時点ではどのように使うかは決めていません。
──エンジン直結も考えているというと、プロペラシャフトが通るということですか?
中山:通してもいいですねぇ。インテリアを見ていただくと、センターがあんなに盛り上がっている。まさか荷物入れじゃないですよね(笑)。
佐賀:一応、そういう形にしています。デスクトップ上ではありますが、技術的なパッケージは確認していて、「入りそうだね」というのは全部見ています。我々のなかでは、そこに価値がある。「すぐにでも発売しそう」と言っていただけるのはうれしいのですが、それは技術的な裏付けをきちんととっているからです。
──だからコンセプトカーといえども空想ではなく、リアルに感じられる。
佐賀:バッテリーEVになるとクルマが大きくなる傾向を疑問に思っています。航続距離を確保したいので、バッテリーが大きくなる。居住スペースを確保したいので、クルマも大きくなる。大きくなれば重くなる。重くなるとボディの補強が必要。重さが重さを生む構図です。でも、コンパクトな内燃機関とバッテリーとモーターがあれば、大きくする方向にはアジャストすればいい。軽くなればバッテリーも小さくて済むので、軽さが軽さを生むはずです。大きくなることでクルマ本来の有機的な価値が失われてしまうのは、マツダの進むべき方向ではないと思っています。
ICONIC SPは「上から見ていただくとドラマがある」
中山:有機的な価値について話を続けます。今回のマツダのブースを見ていただくと、ミニカーがあったり、お子様向けの小さなクルマ(2/3ロードスター)があったりします。これらは子供のときの原体験を、今の子供にはそのまま体験してほしいし、大人には思い出してほしいという意図が込められています。「子供のときにクルマを見たときって、こんな気持ちだったよね」と。
大人になるとクルマを見る角度が変わります。ミニカーだって上から見ていたはずなのに、いつの間にかクルマは横から見る物になっている。アイコニックSPは「クルマを見たときのときめきが復活するはずですよ」というのをデザインのコンセプトに掲げています。だから、上から見ていただくとドラマがある。
──ミーティングルーム前の壁に掲げてあるパネルの写真がすごくいいですね。グラマラスで。
中山:そうなんです。決めつけかもしれませんが、牛乳パックとコカコーラの瓶、どっちがドキドキしますかという話です。牛乳パックは運搬効率の観点からするとイエスです。ではコカコーラの瓶がなぜあの形をしているかというと、それが価値を持っているからです。持って、飲むときの感触までを考えている。どちらが人間っぽいか。「こっちのほうが効率はいいんですよ」というのは作り手側の一方的な押し付けです。
ややもするとバッテリーEVって効率側に行きがち。マツダはそれをなんとか技術と努力と真心で人間っぽくできないかと。「何か忘れていませんか」という感じなんですよね。
──忘れかけている何かを思い出させてくれるクルマ。
佐賀:それはもちろん外部に対してもそうですし、実は我々に対してもそうなのです。電動化は手段のはずだったのに、いつの間にか目的化してしまっている。クルマって何なのか、もう一回思いだそうよと。その意味で、アイコニックSPを作った意義は大きいと思っています。
中山:デザインでいうと、クルマって大きくしがちなんです。身長2メートルのスーパーモデルみたいな感じで。それをやるとすごいプロポーションは得られるんだけど、距離を感じてしまう。美術館で名画を見たときと同じで、欲しいとは感じない。ただ、「すごいっすね」と。心のメーターはまったく動かない。
心のメーターがビーーーーーーンと動くことが大事
──それは違うと。
中山:心のメーターがビーーーーーーンと動くことが大事。これからのマツダのデザインの価値は、心のメーターがビーーーーーーンと動くような。「きれいですね」と言われるけれども心のメーターがまったく動かないようなデザインではなく、何も言われなくてもビーーーーーーンと針が振れるようにしたい。それが提供価値。あのクルマを見たときに、そうなりませんでした?
──なりました。ビーーーーーーンと。心のメーターが。
中山:魂動デザインとの連続性がないじゃないかと言われるのですが、マツダは魂動以前に「ときめきのデザイン」を掲げた時代がありました。ユーノス・ロードスター(1989年)やFDのRX-7(1991年)がそうです。それ以前はコスモスポーツがありました。これら、すべてがアイコニックSPにつながっています。ロードスターのニオイもするし、RX-7のニオイもする。今の魂動デザインのニオイもする。それがマツダなんじゃないかなと思うんです。
──デザイナーとしては、どんな想いを込めたのでしょうか。
中山:シュッとするデザインがいい。「シュッ」にはいろいろあるのですが、基本は流線形だと思っています。木の葉のような形にこだわっています。横から見てもそういう形だし、開けたドアを見ていただいてもシュッとなっている。人間が「いいな」と思うシュッという形をそこかしこにちりばめています。
先ほども言いましたが、上から見ていただくとドラマチックです。私はプラモデル少年で、当時のプラモデルは箱を開けることができました(現在は透明ビニールでラップされている)。箱を開けたときに、ボディが見える。それを上から見て、ダメだったら元に戻していた。購買意欲をそそられるようにするには、上から見たときに何かを感じなければいけないんじゃないかと。だから、今回はクルマを上から見ていただくために、ブースに2階を設けました。そこから見ていただくと、「ウォーッ」となると思います。
──公開された広報画像を見ると、センターコンソールに4本のラインが入っているし、リヤにも4本のラインが入っているのがウインドウ越しに見えます。今回、外板色をVIOLA RED(ビオラレッド)と名づけています。色は花のビオラ(スミレ属)でしょうが、あの4本のラインは楽器のビオラ(バイオリン属の弦楽器)との関連でしょうか。上から眺めたときのリヤフェンダーの膨らみが楽器のビオラを連想させますが。
中山:そのとおりです。ビオラは赤を連想する花のビオラと楽器のビオラから来ています。花言葉も美しいんですよ(調べてみてください)。ビオラは小さいので、クルマが小さいことも重ねてビオラなんです。ビオラにしようと思ったときから、誰かに気づいてほしいと思っていました。4本の線には正直意味はないのですが、何かを感じてもらいたかった。
赤はマツダのこだわりです。広島カープのヘルメットにするくらいソウルレッドにはこだわりましたし、ブレイズレッドやクラシックレッドなど、いろんな赤を持っている。でも、みなさんのなかにある赤いファミリアとかは記憶のなかですごく美化されている。現実にその色を見ると、「こんなんだったっけ?」となるのですが、記憶はすごくて、美化される。その美化される記憶に負けない赤を作りたかった。そのためにはすごい赤じゃないとだめなんです。みなさんの記憶に勝つ赤を作るために、白の上にクリアの赤を27回塗りました。
──ショー会場で展示するので、人工照明で映える色にしたのですか?
中山:いいえ。屋外(自然光)ではもっとすごいです。世界一であり続けたいとの思いから、ビオラレッドはソウルレッドとは違う方向性でつくりました。27回重ねるとなったら、工場で「できない」と言われるでしょう。でも、それをやってしまうのが技術です。厚塗りの均一塗りが一発でできればいいのですが、できないから薄塗りを27回繰り返しました。
──目指したいところがあると、知恵を絞る。
佐賀:そうです。ソウルレッドもそうでした。デザイナーがバカラのグラスを持ってきて、これをやりたいと。
中山:そうそう。マツダはそれをやっちゃうんですよ。厚塗り一発でできるようになるかもしれない。
──ありがとうございました。これから2階に上がって、じっくり眺めてみます。