自由な発送で、様々な架装にも柔軟に対応できる
ジャパンモビリティショー2023で話題となった「IMV 0」は、2002年に体制を発表し、2004年よりその市販モデル「ハイラックスヴィーゴ」などを順次発売した、新興国向けピックアップトラックおよびMPVの世界最適生産・供給体制を構築する「IMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)プロジェクト」によるものだ。
2002年当時アジア本部長に就任したばかりの豊田章男会長が陣頭指揮を執り発売に漕ぎ着けた同プロジェクトの「原点に立ち返った」とし「IMV 0」と名付けられた同車の中身とは。その企画発足当初よりデザインを統括している、トヨタ自動車の長谷川和也さんに聞いた。
遠藤:この「IMV 0」はどのような形で発売を予定しているのでしょうか?
長谷川さん:今のところは東南アジアを中心に、商用車として売るつもりでいます。詳しいことは決まっていませんが、ほとんど市販手前の状態まで来ています。
「IMV 0」のコンセプトとしては、なるべく価格を抑えて、その分をお客様それぞれのニーズに合わせた架装に使っていただく。
実際、いろいろな経済状況の方もいらっしゃいますし、「これから商売を始めよう」と思っておられるお客様に向けて、今までにない自由度のある架装ができるようなクルマに仕立てています。
遠藤:架装部をボルトとナットでデッキ部と締結可能ということですが……。
長谷川さん:トヨタで用意するのは、クルマとしては70%の状態、半完成でお届けします。残りの30%はお客様の好きなようにカスタマイズして下さい、それで完成します。ですから車両としてはフラットベッドの上に何もない状態で販売します。
遠藤:その架装の部分に関しては、架装メーカーさんや車体メーカーさんに作ってもらおう、ということでしょうか?
長谷川さん:いろんなビジネスのやり方が考えられますので、各地域のニーズに合わせたやり方をいろいろ探っていくことになると思っています。
遠藤:このクルマであれば、先進国を含めた世界中で販売できそうですね。
長谷川さん:ありがとうございます。そういう声が大きい地域では、ぜひ販売を検討したいと思います。
遠藤:日本にも御社のハイラックスが切り拓いてきたピックアップトラックの市場がありますので、この「IMV 0」が日本にも導入されれば、いろんな使い方・カスタマイズができそうですよね。
長谷川さん:今回のトヨタブースでは「全ての人にモビリティを提供したい」というメッセージを打ち出していますが、そのためにはクルマの機能だけではなく拡張性、いろんな地域のニーズ、それぞれの方のニーズに合わせたものを提供できるように……と考えています。
その中でこういう柔軟性が高いクルマは、非常にポテンシャルがある。ですから日本でもこれを展示して、何人たりとも漏らさないというメッセージの中でさらに、我々が考えつかなかったようなアイデアがお客様の側から出てくることを期待して、「あなたならどんなクルマを作りますか?」「どんな夢がありますか?」というのを語り合いたいと思い、展示車両の荷台に「はてなボックス」(箱形の大型ディスプレイ)を載せています。
ですから展示車両の前でゲーム的に自分で架装を組み上げると、それを「はてなボックス」に映せるんですよ。自分の考えたクルマはこうなるというのが分かるようにして、我々の方でもトヨタグループ全体のデザイナーに公募をかけて、「あなたならどうする?」というアイデアを会場内に展示しています。それをヒントに「このクルマでこんなことをしたい」というのを、ぜひ一緒になって考えていきたいと思います。
遠藤:パワートレインはどういうものを搭載する予定でしょうか?
長谷川さん:基本的には「IMVシリーズ」の一つですので、その中で使われているものは搭載できます。そして、各地域で必要なパワーソースを選べるようにしていますので、今のところガソリンエンジンとディーゼルエンジンは選べる見込みです。
遠藤:電動パワートレインに関しては先々、ということでしょうか?
長谷川さん:なぜこのクルマを作ったかという一つの理由に、マルチパスウェイで考えても、BEVを買える方、特に新興国ではそう多くはありません。となると、いま中古車でギリギリ商売されている方でも、ちょっとでもクリーンなエンジンを使っていただく。
あるいはボディや内装もカスタマイズしやすいように……商売はダウンタイムがあるとその分儲けが少なくなりますよね。で、ハイラックスのIMVのプラットフォームを使っていけばQDR(Quality(品質)、Durability(耐久性)、Reliability(信頼性))がしっかり確保されていますので、その分ダウンタイムが少なくなりますし、パーツ交換も容易になるようなデザインにしています。
同時にそれはカスタマイズのしやすさにもつながっていきますので、仕事だけではなく趣味で使いたい方向けに、カスタムパーツをサードパーティに作っていただいたり、我々とコラボしてもいい。そういうパーツの提供も可能性はありますから、「みんなでイジって好きなクルマにしていきましょうよ」というメッセージが伝わるといいですね。
遠藤:駆動方式はFRのほかに4WDもあるのでしょうか?
長谷川さん:4WDを設定するとまた高くなってしまいます。まずはとにかく安く提供したいので、FRのローフロア、4WDより背の低い仕様にしています。
遠藤:その安価という価格も気になります。
長谷川さん:同じ仕様のハイラックスよりは必ず安くします。要らないものを全部剥ぎ取っていますから(笑)。「要らないもの」と言ったら語弊がありますが、取れるところは取って、そこも含めてカスタマイズしてもらおうと考えていますね。
遠藤:いわゆる加飾パーツを省いたということでしょうか?
長谷川さん:加飾パーツだけではなく、インテリアは今はお見せできませんが、なるべくAピラーを立てて、前方のヘッドクリアランスを多く取っています。そこにオーバヘッドコンソールを用品で付けていただけるので、商用車として使うとそこに書類を収めていただいたり、カスタマイズならキャンピングカーではそこにストレージを作れます。そういうことができる、いろんな要素を込めています。
それが逆にツールライクなクルマのスタイルになって、若い方に、自分でクルマを作る喜び、安くクルマに乗れる喜びを提供できると思います。遊びにも仕事にも楽しく使っていただけると思いますね。
遠藤:すぐ近くに展示されている「ランガコンセプト」とは?
長谷川さん:アジアではすでにお客様とのコミュニケーションを始めており、その中でインドネシアの「TUKU(トゥク)」というカフェのオーナーさんから「まだ実店舗しか持っていないので移動カフェを作りたい」という話が出ました。現地で、現地のニーズに合わせた、現地のための、現地の人によって作り上げた一台で、そのオーナーさんの夢を現地のトヨタがプロトタイプとして叶えてみよう……というトライアルで生まれたんですね。ですから、彼のニーズがいっぱい詰まっています。
例えば、クルマから降りて、店をぐるっと回りながら立ち飲みで提供するので、なるべくコンパクトにして……それで全体がちょっと可愛らしいイメージになっていますね。
また、路上で売ることを考えていて、かつ右ハンドル車ですから、車両右側にはストレージエリア、冷蔵庫などを配置し、後部でコーヒーを作って、左側でそれをパッキングし提供する……という流れができています。
そうしたオーナーさんのこだわりがあるので、それを叶える架装にしようということで、こうなったんですよね。
実際にこれを作ろうとすると、架装メーカーさんと上手くやっていかなければなりませんが、夢が広がる一つの具体例になったと思います。
遠藤:トヨタさんは、自由にイジれるベースとなるクルマを作るのが、本当に上手な自動車メーカーさんだと思います。
長谷川さん:ありがとうございます。初代や2代目の「キジャン」は元々そういうコンセプトで発売して、その地域のお客様の糧になるようなクルマを提供してきたんですね。ある意味、そのトヨタのオリジナルの、皆さんが豊かに、便利になるようなクルマを提供したいというコンセプトをそのまま引き継いでいます。
そういう意味で、原点に帰るという意味も込めて「0」を車名に付けています……あくまでコンセプトカーの名前ですが。
遠藤:市販モデルは東南アジアではいつ頃発売の予定でしょうか?
長谷川さん:今はハッキリとは言わないようにしているのですが、もうそろそろという感じですね。
遠藤:日本で売るかどうかに関しては……?
長谷川さん:全く未定なんですよ。ただ、反響が大きければ大きいほど、実現の可能性は本当に高まると思います。実際にいろんな声を聞いていますので、もっともっと声をあげていただければ、我々も役員に「日本仕様を作らせて下さい!」と言えますので(笑)、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。
遠藤:私も日本での発売を楽しみにしています。ありがとうございました!