新車価格1870万円! オーテック・ザガート・ステルビオを『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング2023』で見た!

2023年10月7日(土)、神奈川県中郡大磯町の大磯ロングビーチ駐車場で開催された恒例の『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング』。377台のオーナー参加車両に加え、日産の最新モデルやレーシングカー、パーツメーカーのデモカーなども展示された。その中でひと際目を惹くクルマがあった。それが、オーテック・ザガート・ステルビオだ。

参加台数377台! 『オーテックオーナーズグループ湘南里帰りミーティング2023』は今年も大盛況!! 日本未発売モデルの展示もアリ?

コロナ禍や台風の影響で中止はあれど、2023年で15回目(プレイベントを含めると16回目)の…

オーテック・ザガート・ステルビオとは?

「ステルヴィオ」というクルマは、今ではすっかりアルファロメオのSUVで通っているが、その約30年近く前にオーテックとザガートが共同で開発・発売した高級グランツーリスモがあったことを覚えている読者はいるだろうか?

オーテック・ザガート・ステルビオ(PHOTO:日産自動車)

そのデビューは1989年3月のジュネーブモーターショー。オーテックジャパンが1986年の設立以来開発に取り組んできた高級グランツーリスモを、イタリアのカロッツェリア・ザガート車と共同開発を発表し、同ショーのザガートブースに参考出品された。

オーテック・ザガート・ステルビオ(PHOTO:日産自動車)

ベースは日産のF31型レパードで、レパードのシャシーにハンドメイドのアルミ製ボディを架装。ボンネットフードはカーボン製とした。
エンジンはVG30DET型3.0L V型6気筒DOHC24バルブターボを改良したものを搭載。280ps/6000rpmと41.0kgm/2800rpmの出力とトルクを発揮している。トランスミッションは4速ATのみの設定となっていた。フロント:ストラット/リヤ:セミトレーリングアームの四輪独立サスペンションもレパードに準じる形式だ。

オーテック・ザガート・ステルビオ(PHOTO:日産自動車)

「手作りでしか表現できない個性豊かなスタイルをもった高性能・高級グランツーリスモ」(発表時リリース資料)が開発コンセプトだけに、スタイルだけでなくインテリアにも力が注ぎ込まれている。
やはりレパードをベースとしつつも全面本革とベロア張りを施し、ステアリングも専用品が装着された。さらにシートもイタリア製の本革シートを採用(そのためレパードの中折れ式助手席シート「パートナーコンフォタブルシート」はなし)。

オーテック・ザガート・ステルビオ(PHOTO:日産自動車)

ジュネーブショーでの参考出品後、1989年10月に販売開始。価格は1870万円。ハンドメイドに近いとはいえ、バブルらしい強気な価格設定だ。その価格もあってか、生産台数は当初203台と発表されていたが、実際の生産台数や販売台数ははっきりとわからない。一説には100台を超える程度で、それが世界全体なのか日本での販売台数なのかも不明だ。いずれにせよ、かなり貴重なクルマだし、一体何台が残っているのだろうか?

東日本大震災の津波を乗り越えオーテックに里帰りしたオーナー車

『オーテックオーナーズグループ里帰りミーティング2023』に展示された車両は、宮城県のさるオーナーから寄贈されたもの。オーナーは1991年に新車で購入し、親子二代に渡って維持してきたが、2011年の東日本大震災で被災。このステルビオも津波により冠水してしまったという。

『オーテックオーナーズグループ里帰りミーティング2023』に展示されたオーテック・ザガート・ステルビオ。

その後、なんとか復活させようと努力が続けられたものの、カロッツェリアによる少数生産車だけに部品の調達もままならず、復活は思いにまかせなかったそうだ。
そこでオーナーは「たとえこの姿で保存されなかったとしても、少しでもいいので使える部品を活用していただければ、車にとっても幸せだと思うのでぜひ引き取っていただきたい」と寄贈が提案された。

『オーテックオーナーズグループ里帰りミーティング2023』に展示されたオーテック・ザガート・ステルビオ。

『オーテックオーナーズグループ里帰りミーティング2023』では「わたしたちは、オーナー様のお気持ちとこの『ステルビオ』を大切にし続けていきます」という言葉と共に、寄贈車がお披露目された。
ぜひ、この貴重なクルマをオーテックの手でフルレストアしてほしいものである。

『オーテックオーナーズグループ里帰りミーティング2023』に展示されたオーテック・ザガート・ステルビオ。

ディティールチェック&フォトギャラリー

オーテック・ザガート・ステルビオがかなり希少なクルマであることは前述のとおり。じっくり見ることができる機会はそうそうないだけに、詳細にチェックしていこう。残念ながら手を触れることはできないので、インテリアについては窓から見る限りになってしまった。

正面から見るとフェンダーミラーを内包したボンネットの張り出しがよくわかる。ライト内側の腐蝕が水没被害を物語る。

ステルビオのデザインにおける最大の特徴はボンネットフードと一体化したフェンダーミラーと言えるだろう。これは当時オーテックジャパン社長だった桜井眞一郎氏のアイデアという説がある。
非常に奇抜なデザインではあったが評判は芳しくなく、販売台数に影響したのではないかと邪推させる。

ボンネットフードと一体化したフェンダーミラーは市販車唯一のデザイン。フェンダーミラーの方が視線移動が少ないという。
ミラーの左(左ミラーなら右)と下にはエアアウトレットなのか、左が縦型、下が横型のスリットが入っている。
日産のグループCカー、R90CPもフェンダー一体型ミラーを設置している。
日産Cカーの最終進化形、R92CPは左のみフェンダー一体型で左右非対称配置のミラーに。
リヤはトランクがかなりハイデッキになっており、右に車名のエンブレムが配置される。また、ルーフの左右が盛り上がったダブルバブルもステルビオのデザイン上の特徴だ。

ハイデッキのリヤビューは横一文字のガーニッシュが1980年代末の流行を感じさせ、ザガートによるアルファロメオSZに通じるものがあるように感じられる。また、トランクサイドに切り欠きがあり、その中にはスリット付きのカバーが見えるのだが、例えばエアアウトレットのようななんらかの機能があるのかはわからなかった。

車名エンブレム。
トランクサイドに切り欠きがある。
切り欠きの中にはスリット付きのカバー。

オーテックジャパンとザガートの共同開発車だけに、フロントグリルの中央に配されたエンブレムは「A」と「Z」を縦に並べて図案化したものに「AUTECH ZAGATO」の文字が刻まれる。一方でフロントタイヤ後方のエンブレムや、アルミホイールにはザガートのロゴのみがあしらわれたいた。

フロントグリルの「オーテック・ザガート」のエンブレム。グリルのデザインも「A」を表しているのだろうか?
ボディサイド(フロントタイヤ後方)にザガートのエンブレムを配置。「Z」の文字の中に「ZAGATO milano」の文字が入る。
一見ホイールキャップのようなアルミホイール。エアバルブの部分がNACAダクト状になっている。センターキャップにザガートのロゴが入る。メーカーはO.Z。

インテリアについては先述のとおりドアを開けたりすることはできなかったので、窓越しでしか見ることはできなかった。水没したとは思えないくらい綺麗に見えるが、センターコンソールのパネルに大きなヒビらしきものも見えそれなりにダメージは蓄積しているようだ。

センターコンソール上部中央の黒いものはひび割れか?
基本的にはデザインやレイアウトはレパードに準じる。ステアリングは専用だが、シフトレバーとブレーキレバーは共通。
一方でインテリアは本革とベロア張りで、シートはイタリア製レザーを使用した専用品。
車名オーテック・ザガート・ステルビオレパード・アルティマV30ツインカムターボ
(参考)
全長×全幅×全高4370mm×1800mm×1345mm4805mm×1690mm×1370mm
ホイールベース2615mm2615mm
重量1560kg1520kg
エンジンVG30DET(改)
2960cc V型6気筒DOHC24バルブターボ
VG30DET
2960cc V型6気筒DOHC24バルブターボ
最高出力280ps/6000rpm255ps/6000rpm
最大トルク41.0kgm/2800rpm35.0kgm/3200rpm
燃料タンク容量60L65L
サスペンションF:マクファーソンストラット
R:セミトレーリングアーム
F:マクファーソンストラット
R:セミトレーリングアーム
ブレーキ4輪ベンチレーテッドディスク4輪ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズF/R:225/50R16F/R:215/60R15
価格1870万円416万2000円
日産レパード・アルティマV30ツインカムターボ[F31/1988]。オーテック・ザガート・ステルビオのベースとなった。(PHOTO:日産自動車)

余談:ステルビオの兄弟車、ザガート・ガビアを知っているか?

予定生産台数203台、販売台数100台代のオーテック・ザガート・ステルビオに、まさかの兄弟車が存在することをご存知だろうか? これはザガート・ガビアと呼ばれるモデルで、1991年のミラノショーに登場。ザガートのレース部門であるスクーデリア・ザガートの30周年記念モデルとして30台限定とされたが実際の生産台数は不明。少なくとも16台が日本に正規輸入されたようだ。

ザガート・ガビア(PHOTO:ZAGATO)

ステルビオで評価の低かったフェンダーミラーなどのアクの強いデザインはシンプルに改められたが、これはステルビオのデザイン案のひとつだったという説もある。
本来ならステルビオとして生産される予定だったレパードのシャシーやステルビオのコンポーネンツを流用して仕立て直されたためか、価格はステルビオの1870万円に対し880万円に大幅ダウンしている。

ザガート・ガビア(PHOTO:ZAGATO)

車名のガビアはステルビオ同様にイタリアンアルプスの峠の名前で、やはりステルビオとの関係性を感じさせる。一方で、ガビアは車名にオーテックが入らない。
ステルビオに輪をかけて希少なクルマで、筆者は20年ほど前に渋谷の国道246号線で見かけたのが唯一である。もし実車を見たいのであれば石川県の日本自動車博物館にステルビオ共々展示されているので、出かけてみてはいかがだろうか?

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