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ヒョンデ「Nブランド」とは?
2022年に日本再上陸を果たしたヒョンデ(Hyundai=現代=ヒュンダイからヒョンデと呼び方を正式に変更した)は、いまは世界第3位の自動車メーカーだ。
日本では水素燃料電池車のNEXO(ネッソ)とBEVのIONIQ5の電動2モデルでスタートし、2023年にはBEVのKONA(コナ)を投入している。
そのヒョンデの次の一手が「N」モデルの投入だ。
ヒョンデのNブランドは、2015年のフランクフルト・モーターショーで立ち上げが発表されたスポーツ/パフォーマンスモデルのブランドである。Nの由来は
開発拠点の韓国Nanyang(南陽)のN
開発テストのドイツ・ニュルブルクリンクNürburgringのN
に由来している。「N」のカタチが「シケイン」に似ているというのもあるらしい。
WRCを戦うヒョンデのワークスマシン「i20 N Rally1 Hybrid」のNもNブランドのNである。
そのNブランドの最新モデルにして、BEVの初めてのNが「IONIQ 5 N」だ。
WRCラリージャパンの会場に構えたヒョンデのブースでもIONIQ 5 Nは展示され、大きな注目を集めていた。そのIONIQ 5 Nにいち早く試乗できたのでレポートしよう。
まず、「N」がどんなブランドなのか? 説明したのは、Joon Park氏。Nブランドマネジメントグループの副社長である。このJoon氏が熱いプレゼンテーションを繰り広げた。とにかく、クルマが大好き、スポーツカーが大好き、スポーツドライビングが大好きなJoon氏。トヨタMR2も所有しているという。
「Nはモータースポーツから生まれたブランド。WRCをはじめとするモータースポーツはNブランドのCradle(ゆりかご)です」
その技術を採り入れた実験車は「ROLLING LAB」。そこで開発され、試乗に投入されるのが「Nモデル」ということになる。
Nブランドの軸は次の3つ。
「Corner Rascal」
「Racetrack Capability」
「Everyday Sportscar」
2つめと3つめはわかりやすいが、ひとつめはなんて訳したらいいのだろう?「コーナリング小僧」みたいな意味だと思う。
IONIQ 5 N=ドリフトが楽しめるBEV
Joon氏率いるチームがIONIQ 5をベースに開発したIONIQ 5 Nは、さまざまな技術が投入されている。目指したのは「ドリフトが楽しめるBEV」だ。
モーターはフロントが166kW/250Nm、リヤが282kW/390Nm。もちろんAWDである。システム最高出力は448kW(609ps)/740Nmだ。
これに
「Corner Rascal」→N Torque Distribution/N Pedal/N Drift Optimizer
「Racetrack Capability」→N Grin Boost/N Launch Control/N Battery Preconditioning
「Everyday Sportscar」→N Active Sound+/N e-shift/N Light Sport Bucket Seat
というNブランドならでは技術が組み込まれている。
すべてを説明はしないが、試乗で感じ入った技術は後ほど解説したい。
試乗コースは、スパ西浦サーキットだ。ベースとなっているIONIQ 5には何度も試乗したことがある。個性的なエクステリア、充分に練られたインテリアが好印象だった。ただし、ちょっと大きい。
全長×全幅×全高:4635mm×1890mm×1645mm ホイールベース:3000mmのサイズは、”スポーツドライビング”を標榜するには、大きくて重い(車両重量2100kg)。
このIONIQ 5をベースに、どうやったらスポーツドライビングが楽しめるクルマができるのか? 試乗前はかなり懐疑的だった。BEV=エコカーとは言わないが、一部の超高価なスポーツBEV(ポルシェ・タイカンのような)以外で、サーキットを走りたくなるBEVはなかなか存在しない。
あらためてサーキットでIONIQ 5 Nを見る。明らかにIONIQ 5がベースなのだが、明らかにタダ者ではない佇まいだ。全高は20mm低く、全幅は50mm広い。タイヤは275/35R21サイズのピレリP-ZEROを履く。ビシッとしていてカッコいいのだ。
スポーツドライビングに音は欠かせない!
先導車(IONIQ 5 Nのテスト車両。ちなみに、IONIQ 5 Nの日本仕様は、富士スピードウェイや箱根ターンパイクでセッティングを詰めたという)に誘われてコースインした。
前述したように、IONIQ 5 Nには、数周のサーキットドライブでは試しきれない機能が載っている。Nトルク・ディストリビューションは、フロント/リヤのトルク配分を11段階に調整できる。リヤアクスルの電子制御LSD(e-LSD)は、コーナリング性能を高めてくれる。
まずはノーマルモードから。もちろん、ノーマルでも速い。ステアリングホイールの左上のスイッチでドライブモードをスポーツに切り換える。さらに速くなる。
が、本領はここではない。
ステアリングホイール下にある「N」ボタンを押すと、明らかに別次元へ切り替わる。NブランドのNだ。
アクセルを踏むと、まるでよくできたエンジンが淀みなく高回転まで回るサウンドがする。これは、「N active Sound+」の効果で、
Ignitionはレシプロエンジンの音
Evolutionは、より高回転なヒョンデのレースカーの音
がする。個人的には、Ignitionのサウンドが気に入った。いい音なのだ。これは、10個のスピーカー(社内向けが8個、車外向けが2個)が鳴らす音で、もちろん音量はそれぞれ調整可能だ(さらにSupersonicモードだと「ジェット戦闘機の音」がする。これはあまり気に入らなかった……)。
「BEVなのにエンジン音を鳴らす」ということに対しては、「そんなの意味ないよ」と思っていたのだが、実際にサーキットで体験すると、これが楽しいのだ。気持ちいいのだ。
N e-Shitのパドルを使って変速する(正確にはエンジンを搭載するNブランドモデルの8速DCTの感覚をシミュレートした疑似体験なのだが)。これがじつによくできている。レブリミットまでアクセルを踏み込むと、フューエルカットのような音と振動が伝わってくる。コーナー手前でシフトダウン(のシミュレーション)をすると、ブリッピングしてくれる。
俄然、ドライブが楽しくなる。ここまでBEVでドライビングプレジャーを演出できるなんて! Joon氏のチームが成し遂げた仕事に感銘を覚えた。
BEVだから、あらゆることは電気信号で制御できる。といっても、たやすいことでない。ドライバーの感性に寄り添って気持ちを盛り上げる演出は、非常に難しい仕事だっただろう。
なにより、当たり前のことだが、その制御技術を受け止めるボディが素晴らしい。ベースモデルより42ヵ所スポット溶接を増やし、構造用接着剤の使用も増やした。サスペンションもしなやかだし、ステアリングの剛性も高い。
サーキットを走っても楽しいBEV、気持ち良くアドレナリンが出るBEVというのは、これから世界中の自動車メーカーが、それぞれのスポーツブランドで目指す方向だろう。ヒョンデは、IONIQ 5 Nで、それをひと足先に実現してみせてくれた。
おそらく、1月の東京オートサロン2024で実車を大々的にお披露目するだろう。その後、2024年の前半に日本市場に正式にデビューするはずだ。
チャンスがあれば、ぜひ一度試乗してみてほしい。それだけの価値があるクルマに仕上がっていた。
ヒョンデIONIQ 5N 全長×全幅×全高:4715mm×1940mm×1585mm ホイールベース:3000mm フロントモーター 最高出力:166kW(N Grin Boost 175kW) 最大トルク:250Nm(370Nm) リヤモーター 最高出力:282kW(N Grin Boost 303kW) 最大トルク:390Nm(400Nm) トータル 最高出力:448kW(N Grin Boost 478kW) 最大トルク:740Nm(770Nm) バッテリー容量:84.9kWh 充電時間(350kW) 18分で10%~80%まで充電可能 最高速度:260km/h 0-100km/h加速:3.4秒