新車で買って30年! シトロエン・エグザンティアはトラブルが少なかったってホント!?『さいたまイタフラミーティング2023』で見つけた名車・旧車vol.6

1990年代のシトロエンのミドルクラス実用車を代表するエグザンティアは、ハイドロニューマチック・サスペンション(上級グレードのV-SXは電子制御化されたハイドラクティブIIを採用)による快適な乗り心地、夜会実用性、抜群の信頼性、そして美しいスタイリングにより依然として多くのファンを持つクルマだ。1990年代に故・小林彰太郎氏が『カーグラフィック』で長期リポートを行い、故・徳大寺有恒氏や清水草一氏らモータージャーナリストが愛用したことも手伝ってわが国でも人気に火がついた。シトロエン好きの筆者も新車時から過去何度となく購入しようとしたが、不思議とこのクルマには縁がなく、未だに所有したことはない。『さいたまイタフラミーティング2023』で程度抜群な前期型エグザンティアV-SXと出会ったことで、このクルマを手に入れられなかったことを心の底から悔やみ、思いがけず購入熱がフツフツと再燃してしまった。今回はそんなエグザンティアを解説する。

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シトロエン・エグザンティア……未だ後悔冷めやらず

胸に手を当てて思い返してほしい。クルマ好きなら誰にでも1台くらいはあるであろう。心底欲しかったのに縁に恵まれず、愛車にするチャンスを逃してしまったクルマのことを。筆者の場合、それはシトロエン・エグザンティアだ。

『さいたまイタフラミーティング2023』の会場で出会ったシトロエン・エグザンティアV-SXの前期型。

1993年のデビュー時こそ古参のシトロエンファンから「個性が薄れた」「インテリアがつまらない」「スパッツがなくなったのが残念」「シートの座り心地が低下した」などの不満が聞かれたが、逆に言えば運転席周りの内装デザインや操作系に適度な普遍性を弁えたことから、シトロエンに馴染みがないユーザーでも戸惑うことなくすぐに運転できるようになったわけであるし、個性についても「BXやCXの時代に比べれば」という話であって、同時代の他のメーカーに比べればこれでも充分に個性的と言えた。

そして、何と言っても伝統のハイドロ・ニューマチックサスペンションの採用である。二代目C5を最後にコスト高を理由としてシトロエンが廃止したことから現在ではロストテクノロジーとなっているが、この時代まではミドルクラス以上のシトロエン車にはお約束ごととして備わっている。

007~2015年にかけて生産された二代目シトロエンC5。このクルマをもってシトロエンはハイドロニューマチック・サスペンションを廃止した。

その乗り心地は「アラジンの魔法の絨毯」に例えられるほどの快適なもので、ハイトコントローラーの恩恵で道路の起伏や乗員や荷物の過多ををものともせず、ソフトかつフラットライドな乗り心地を約束してくれる。しかも、エグザンティアの上位グレードV-SXには、電子制御でハイドロニューマチックのダンピングをコントロールする「ハイドラクティブII」が採用されているのだ。

故障が少なく信頼性の高いシトロエン車だった!?

さらに、シトロエンのアキレス腱と言われた信頼性もエグザンティアから大幅に改善されている。故障の巣窟のように言われたBXからは大幅な改善である。定期メンテナンスと消耗品の交換だけで10万km無故障というケースも珍しくはなく、20万km、30万kmを問題なく走破した個体もあるほどだ。

シトロエン・エグザンティアのリアビュー。一見すると4ドアセダンだが、じつはノッチの付いた5ドアハッチバックである。

エグザンティアを経験して「シトロエンの信頼性は大幅に改善された。これからは安心して乗れるブランドになった!」と早計な判断をしたファンも少なくなかったようだが、無理なく枯れた技術で作られたエグザンティアだけが驚異的な信頼性を持つに至ったというのが事の真相のようで、次世代の初代C5やC6はまたまたトラブルが続出するようになって結構な苦労をさせられたオーナーが少なくないとか。

2005~2012年にかけて生産されたシトロエンC6。同社にとっては16年ぶりの大型乗用車であった。CXを彷彿とさせるエレガントなスタイリングで人気となったが……。

かく言う筆者も数年前に低走行距離の初代C5を中古で購入して愛用していたが、購入から2年はほぼほぼノートラブルで過ごせたものの、車検直前にエアコンをはじめとして様々な箇所が一斉に壊れたことから、車検を通すことなくそのまま手放した経験がある。

筆者が2017年に車両本体10万円で購入した初代シトロエンC5。2005年登録の後期型で、2年間は問題なく走ってくれたが、車検前に故障が頻発したことで手放した。

そんなわけで現在でも心憎くからず思っているエグザンティア。思えば、新車当時から何回か購入しようと思ったのが、新車時はアルファロメオ155と散々悩んで結局購入に至らず、お手頃価格で中古車が出回るようになってからはたまたま良い個体に出会うことがなく、結局買わずじまいで今日まで来てしまった。
筆者はアルファロメオと並んでシトロエンが好きで、これまでにGSA,BX、初代C5を所有して来たにも関わらずだ。

筆者がかつて所有していた1983年型シトロエンGSA。理想的な設計を追い求めた結果、小型車ながら高度なメカニズムを惜しげなく採用していた。筆者の所有個体はトラブルは少なかったが、一般的にはトラブルの多い車として知られる。

すでにネオクラの領域に入ってしまったエグザンティアは相場が上昇し、ひと昔前のように30万円以下で良質な個体が買える状況ではなくなっているし、市場に流通する台数もだいぶ少なくなっている。おまけに部品の欠品もそれなりに多くなっているので、気楽に安く買って維持できたすでに時代は過去のことになってしまった。

会場で見かけたシトロエンBX。エグザンティアの前モデルに当たるクルマで、マルチェロ・ガンディーニが手掛けたスタイリングは現在でも人気が高い。

聞けば、イランでは2010年までエグザンティアをライセンス生産しており、一時期はイラン製の並行輸入車を販売している業者もいた。彼国では車両の生産終了後も一部の補修パーツは生産しているとの話も聞くが、ご存知のように核関連技術開発の問題で対イラン制裁が続いている情勢では、それらを並行輸入することも難しいだろう。

ユーノス販売店取り扱いの前期型V-SX

「こんなことなら買っておけば良かった」と後悔するのは、『さいたまイタフラミーティング2023』のようなカーミーティングでエグザンティアの実車を見たときだ。今回、会場で出会ったのは程度が良さげな1994年型エグザンティアVS-Xで、ダブルシェブロンのエンブレムがボンネットフード上にあることから貴重な初期型と判断できる。

1994~1995年前半にかけて生産されたエグザンティアは、ダブルシェブロンのエンブレムがボンネットフードに備わるのが特徴。

1990年代当時、エグザンティアは1970年代からシトロエンを取り扱っていた西武自動車販売(現在は廃業)と、メインバンクだった住友銀行の後押しで半ば強引に5チャンネル体制を整備したマツダが新規に立ち上げのユーノス店で販売した車両が存在した。
両社は同じ車種を取り扱いながら系列の違いからそれぞれ独自に輸入ルートを持っていたようで、オプションや装備、ボディカラーの設定などで差異があった。

ユーノスが販売したエグザンティアにはサンルーフの設定がなかった。他にも装備やボディカラーの設定などの差異が西武自動車販売が取り扱った車両とは異なる。

この車両はリアエンドに貼られたディーラーステッカー、そして、ステアリングホイールにオーディオコントロールスイッチを備えないこととアルパイン製のレシーバー(西武自動車販売取り扱い車はソニー製だったはず)、サンルーフを備えないことから、今は亡きマツダ系のユーノスが輸入販売した車両で間違いはない。

エグザンティアのリアエンドに輝くユーノスのステッカー。この次期のマツダはシトロエンをユーノス店、ランチアをオートザム店、フォードをオートラマ店でマツダ車とともに併売していた。

シトロエンの個性を残しながらも
適度な普遍性と実用性を兼ね備えるベルトーネのスタイリング

エグザンティアのスタイリングは今見ても魅力的だ。とくに1998年のマイナーチェンジ以前のスタイリングはシンプルでクリーンな美しさがあり好ましく思う。シトロエンらしい個性を保ちながらもDセグメント乗用車に望まれる実用性と普遍性を併せ持つスタイリングは、当時ベルトーネに在籍していたマルク・デュシャンの仕事と言われている。

会場で見かけたもう1台のエグザンティア。同じ前期型でも1995年後半以降にラインオフした車両で、エンブレムがグリル内に移設された点が違い。前期型のホワイトカラーは珍しい。

外装デザインで特徴的なのは、リアに小さなノッチを持つことから一見すると4ドアセダンに見えるが、じつはフランス人好みの実用性の高い5ドアハッチという変わり種のボディ。また、4555mmの全長に対して2740mmという長いホイールベースをもつことと、リアドアが大変大きく作られていることが、乗員の快適性を何よりも重んじるシトロエンらしさを感じるところだ。

1998年に登場した後期型のエグザンティア・ブレーク。フロントマスクのサーフェイス化が進み、フロントフェンダーの意匠も異なる。

ボディバリエーションはミーティングにエントリーしていた5ドアのほか、1995年にはブレーク(ステーションワゴン)が追加されている。

独特のメカニズムもエグザンティアの魅力
30年所有するオーナーはこれからも日常の足として乗り続けると言う

エンジンはフランス本国にはディーゼルをはじめ様々な選択肢が用意されていたが、日本仕様はガソリン車のみで、前期型が2.0L直列4気筒SOHCを搭載。1998年に登場した後期型では直列4気筒モデルがDOHC化され、それに合わせて3.0L V型6気筒DOHCも追加されている。
組み合わされるトランスミッションは「ガラスのミッション」として知られる4速ATのAL4。かなり繊細なトランスミッションなので、乱暴な扱いをすると5万kmも保たずに壊れてしまうこともあるようだ。

ただ、筆者の周りのフランス車ファンでエグザンティアのミッションを壊したという話はほとんど聞いていないし、筆者自身もAL4/DP0(ルノーでの名称)を何台も乗り継いできたが、今まで壊した経験はない。高品質なASH製のATフルードを入れて車検ごとに交換し、発進前に充分な暖気をして、ミッションが温まるまでは急発進・急加速をしないように心掛けることでATの寿命を大きく伸ばすことができるようだ。

エグザンティアにはスタンダードグレードのSXと上級グレードのV-SXの2種類があり、前述したように電子制御でハイドロニューマチックのダンピングをコントロールする「ハイドラクティブII」が採用されている。従来までのハイドロニューマチック・サスペンションを採用したSXには窒素ガスとオイルによりバネとショックの役割を果たすスフィアは車両前後に合計で5つ備わるが、V-SXはハイドラクティブ制御用にふたつ増えて7つ(1995年型からは停車後の一定時間車高保持する「アンチシンク」の採用にさらにひとつ増えて8つ)となる。

オーナーに話を聞くと1994年に新車で購入して以来、およそ30年間このクルマに乗り続けているという。トラブルはエグザンティアでお約束のエンジンルームのフューエルラインからのガソリン漏れ(劣化した樹脂製チューブを新品交換することで直る)くらいなもので、あとは定期的なメンテナンスと消耗品の交換だけで問題なく乗り続けてこられたとのこと。
最近はパーツの欠品に悩まされることもあるそうだが、乗り換えたいクルマもないことから、これからも日常のアシとして使い続けたいと話していた。

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