新型スペーシアのデザインは何が変わった?「コンテナ」がテーマの意味をデザイナーに聞いた

新型スズキ・スペーシアとスズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリアグループの佐藤優花チームリーダー
2023年11月22日に発売された新型三代目スズキ・スペーシアの内外装は、スーツケースをモチーフとしていた先代二代目から一転、コンテナをモチーフとしたものへと生まれ変わっている。そこに込めた想いや狙いについて、新型スペーシアのエクステリアデザインを担当した、スズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリアグループの佐藤優花(さとうゆうか)チームリーダーと、同インテリアグループの小木曽貴文(おぎそたかふみ)係長に聞いた。

REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●中野幸次(NAKANO Koji)/スズキ

デザインテーマを「スーツケース」から「コンテナ」に変更

遠藤 新型スペーシアの内外装デザインは、特に標準車が先代のキープコンセプトとなった印象を受けますが、新型ではどういった点を守りつつ、変えようと考えられたのでしょうか?

小木曽さん エクステリアの方では、先代のパッケージングやデザインが高く評価されているので、そこは守ろうとしていますが、スーツケースに収まりきらないくらいの楽しさを表現しようと思い、デザインモチーフを先代のスーツケースから新型ではコンテナに変更しました。

コンテナをモチーフにした新型スペーシア標準車のエクステリア。ボディカラーはオフブルーメタリック×ソフトベージュ

遠藤 特に標準車のヘッドライトの形状は先代と非常に似ているように見えますが、これは別物ですか?

小木曽さん そうですね。全車LED化しています。

遠藤 コンテナをモチーフにしたデザインは、生産技術上非常に大変だったと鈴木猛介(すずきたけゆき)チーフエンジニアはおっしゃっていましたが、デザイナーさんと生産現場とではどんなやり取りがあったのでしょうか?

小木曽さん コンテナらしい守られ感を表現するため、陰影が深く出るようにしたいんですが、ビード形状の凹凸をしっかりと出す必要があり、それには限界があります。そこでせめぎ合って、量産車の形状に落ち着きましたね。

標準車のLEDヘッドランプ

佐藤さん C〜Dピラーにかけてリヤクォーターパネルが45°に跳ね上がる部分も生産が難しかったのですが、これもデザイナーの強いこだわりだったので、クレイモデラーとも一致団結して作り込んでいきました。

後方に向かって45°跳ね上がる形状が与えられたリヤクォーターパネル

遠藤 2トーンのボディカラーを選択した際に貼付されるDピラー中央のデカールですが、この狙いは?

佐藤さん スペーシアでDピラーがボディ色になるのは今回が初の試みですが、モノトーン色でもコンテナの力強さを持ちながら、2トーン色でもコンテナにつながる表現ができないかと考え、コンテナハウスや、台車にキャビンを載せたような形から着想を得て、部品をつなぐようなイメージで、2トーンの見切り線も部品が装着されているような表現をするため、シルバーのデカールを貼付しています。

触っていただくと分かりますが、デカールはただのプリントではなく、深いシボが入っていて、部品がはめ込まれているようなイメージを狙って表現しました。数あるクルマの中でスペーシアを選ばれるお客さんには、ワクワク感などのユニークなところを日常に取り込みたいと考えている方が非常に多いので、新しい表現ができる2トーンを持たせました。

標準車の2トーンボディカラーに貼付されるDピラーのデカール。2トーンカラーの境目はデカール下側太線の中央にある

さらにホイールキャップの方も、シルバーを反復させるようなコーディネートにすることで、2トーンと言いつつ実は、ルーフ色とボディ色とシルバーの部品とで3トーンにしています。そうすることで、こだわりをより満たすようなコーディネートにしています。

遠藤 2トーン色でデカールが貼付される部分は、モノトーンの場合はどうなりますか?

佐藤さん モノトーン色では何も貼られず、通常のボディ色になります。

遠藤 部品の分割点があるわけではないですよね?

佐藤さん はい。

小木曽さん 2トーン色ではそこに塗装の境目があるので……。

佐藤さん モノトーンの場合は何もありません。

遠藤 なるほど、デカールで色の境目を隠したいという狙いですね? どうしても段付き感が出ますものね。

佐藤さん そうですね。どのクルマも段が付くので、それを隠しつつ、意匠をより良く見せたいという狙いです。

小木曽さん 貼り付け位置の高さにもこだわってチューニングしています。

佐藤さん 実車サイズのモデルで黒のテープを何回も貼り直して、吟味しながら高さを決めていきました。普通のクルマよりは見切りが低いと思います。

遠藤 生産の都合を考えると、窓の頂点あたりで見切りますよね。

佐藤さん 今回はコンテナをモチーフとしたスタイリングを外したくなかったので、それを叶える高さにしました。

遠藤 実際の色の境目はどこに入るんですか?

佐藤さん デカールにある太いラインの中央付近に隠れるようになっています。

標準車で2トーンボディカラーを選択すると装着されるベージュ×シルバーのホイールキャップ

カスタムのテーマは「ホテルのラウンジ」のような華やかさ

遠藤 「カスタム」はフロントまわりのデザインが大きく変わりましたね。

佐藤さん 先代はメッキが鮮明に出たデザインでしたが、新型はダウンサイジング層にもご満足いただける上質感を出す狙いから、ホテルのラウンジのような雰囲気、精緻で正統派な面を表現するため、メッキレスにしました。

クラムシェル型のボンネットを採用する新型スペーシアカスタムのエクステリア。ボディカラーはアーバンブラウンパールメタリック

遠藤 スペーシアには「ギア」と「ベース」もありますが、それらがあることで新型の標準車や「カスタム」を差別化しやすかった、あるいはしなければならなかったポイントはありますか?

小木曽さん そこまでは特に考えていませんね。あくまでも今回の標準車と「カスタム」の世界観にマッチしたデザインをしていますね。

遠藤 ボディカラーも充実していますね。「このカラーがないから買わない」というお客さんは多いんでしょうか?

佐藤さん スペーシアはデザインで選んでいただいていることが多いので、そうしたこだわりを満たす色を求められていると思います。

遠藤 新型では標準車の方に新色を2色(ミモザイエローパールメタリックとトーニーブラウンメタリック)投入していますが、先代にもポップな色が多かったですね。

佐藤さん 先代はオフブルーメタリックというボディカラーが新色として投入され、非常に人気でしたが、その色も大事にしつつ、新型ではこれまでとは少し違う、心地良いワクワク感を表現する新色を2色用意しました。

遠藤 ボディカラーもインテリアと同様にマットな雰囲気を重視したのでしょうか?

佐藤さん 全体の雰囲気もさることながら、人や町に馴染む方向にするために、2トーンカラーのルーフカラーもソフトベージュにしています。

標準車の新色・ミモザイエローパールメタリック×ソフトベージュ
標準車の新色・トーニーブラウンメタリックメタリック×ソフトベージュ

遠藤 「カスタム」は王道のギラッとした路線でしょうか?

佐藤さん 「カスタム」はこだわりを持つお客様に向けて、クールカーキパールメタリックやアーバンブラウンパールメタリックを設定しています。

「カスタム」に設定されるクールカーキパールメタリック

空間の心地よさを重視したインテリア

遠藤 インテリアも質感がグッと上がった雰囲気がありますが、先代は艶やかだったのが、新型はマットなテイストになりました。

小木曽さん これも室内空間の心地よさを踏まえた時に、先代はスーツケースをモチーフにして、外に飛び出していくイメージを持たせましたが、新型は自由に、よりストレスなく室内空間を使ってもらえるように、考え方を変えました。

新型スズキ・スペーシアとスズキ商品企画本部四輪デザイン部インテリアグループの小木曽貴文さん

佐藤さん 新型でもワクワク感を失いたくはなかったんですが、そのワクワクにもいろんな種類があって、新型では室内で心地良く過ごせることが心も体もワクワクできると考え、アウトドアリビング、ベランダで外の空気を味わいながら、でもゆったり過ごす……というイメージで、マットなシボでファブリックのような質感を表現しました。

また標準車にはパイル添加樹脂という、本物のファブリック生地を樹脂に混ぜ込んだものを使うことで、スーツケースとはまた違った素材感を表現しています。

パイル添加樹脂を用いた新型スペーシア標準車の助手席側ビッグオープントレー

遠藤 インパネはメーターまわりを特に大きく変えてきましたね。

小木曽さん 先代は一般的なアナログメーターでしたが、新型はデジタルメーターにしました。スペーシアの性格を考えると、収納も重要なポイントになるので、助手席側のビッグオープントレイだけではなく、メーターの上にも収納を設けようとすると、指針のあるアナログメーターは背が高すぎ、収納が設定できなくなるので、デジタルメーターにしています。

メーターパネル上のオープントレー

遠藤 インパネ中央のモニターも存在感が強まった印象ですが、サイズも大きくなっていますか?

小木曽さん こちらは先代も9インチですので、サイズは変わらないですね。新型ではエアコンルーバーとハザードスイッチの位置を見直して、ナビのガーニッシュの中に統合したので、大きく見える印象に仕上がっています。

スイッチ類の配置も見直された運転席まわり。写真は標準車

遠藤 気になったのは、EPB(電動パーキングブレーキ)スイッチが操作しにくい位置にあることですが、これはシフトレバーの奥に配置するより他になかったのでしょうか?

小木曽さん インパネにEPBが設定されている車種をベンチマークしたんですが、ステアリングの裏に隠れてしまい、見えていなかったんですね。本当はもっといい位置があるのでは……と相当議論して、ステアリングには隠れず、ドライバーが視認できて手が届きやすい場所ということで、シフトレバーの奥にしました。

遠藤 インパネの造形が難しくなりそうですが、本当はシフトレバーの手前がベストでは……?

小木曽さん シフトレバーの手前にすると、運転席と助手席とのウォークスルーが阻害されるので、スペーシアでそれはまずいだろうと。本当にいろんな場所にスイッチを置いては「ここじゃない」「ここじゃない」と繰り返して、シフトレバーの奥に配置しています。

EPBおよびオートブレーキホールドスイッチはシフトレバーの奥に配置

遠藤 新型ではシートの表皮が、座り心地に対しプラスの方向に働いていると、鈴木CEがおっしゃっていましたが……。

小木曽さん 心地よさを求めて、いろんなパターンがありモコモコしている、カラーメランジ表皮を標準車に採用しました。シートの形状に関しては特に変えてはいません。

遠藤 標準車は身体へのフィット感が良くなった印象を受けました。

小木曽さん 表皮の触り心地が変わることで、服とのマッチングが変わり、それが座り心地にも影響していると思います。

佐藤さん 凹凸のある小さな四角が並んでいる表皮になりますが、見ても触っても柔らかいようになっています。

遠藤 「カスタム」はツルッと張りを出しているのでしょうか?

佐藤さん ツヤ感を大事にしていて、メインはスエード調生地ですが、編まれている糸をキラッとしたものにして、上質感を表現しています。色もボルドーにして、それをインパネやパイピングにも反復させて、室内空間全体が充実した雰囲気にコーディネートしています。

遠藤 ホテルラウンジのイメージとのことでしたが、どちらかと言えばバーのような印象を受けます。

佐藤さん そうですね、お酒が似合うかもしれないですね(笑)。

ホテルのラウンジをイメージしたという「カスタム」の運転席まわり

「ひと味で何度も美味しい」後席のマルチユースフラップ

遠藤 そしてリヤシートには「マルチユースフラップ」が採用されましたが、こういったものは初めてですよね?

小木曽さん 他社は分かりませんが、スズキとしては初です。

遠藤 これのためにリヤシートはほぼ別物になっているというお話でしたが、後席のフィット感も良かったですね。こちらは中身ごと変わっているので、その影響も大きかったのでしょうが。こういったものを作ろうという発想はどこから生まれたのでしょうか?

小木曽さん 基本的には、室内空間をどう快適に過ごすか、ということが根底にあり、それがカーライン(商品企画)から依頼され、デザインと設計が協力しながら開発しました。

遠藤 座面の延長とオットマン、ストッパーを兼ねるというのは画期的なアイディアですね。

小木曽さん 贅沢な機能をだいぶ盛り込んだと思います。

佐藤 「ひと味で何度も美味しい」ですね(笑)。

「マルチユースフラップ」のオットマンモード
「マルチユースフラップ」のレッグサポートモード

遠藤 オットマンはショーファードリブンカーやミニバン、ストッパーは軽自動車やコンパクトカーに、単体では何車種かあると思いますが、3つ全部兼ね備えているのは初めてでしょうね。

ストッパーの機能を持たせたのは、お客さんへのヒアリングの中で、後席へ荷物を載せる人が多かったということでしょうか?

小木曽さん お客様の使用シーンとして実際にありましたね。ブレーキをかけた際に荷物が座面から前滑りしてしまう、特にカゴに入れるとより滑りやすいので、それは防ぎたい。でもシートとしては座り心地を良くしたいので、「マルチユースフラップ」という形にしました。

「マルチユースフラップ」の荷物ストッパーモード

遠藤 スペーシアをファーストアーとして使われている方は多いんでしょうか?

佐藤さん 平均は50代ですが、高齢の方だけではなく20代の方もパーセンテージは高いですね。最初のクルマとして買う方が、自分のまわりにも多くいます。

遠藤 これだけ後席がしっかりしているということは、それだけ3〜4人乗車の機会が多いクルマという印象を受けました。極端な話、子育て世代でチャイルドシートを装着するなら、後席をむしろここまで充実させない方がいいくらいだと思いますが。

佐藤さん 子育て世代だけではなく、幅広いお客様に買っていただけるクルマだと思いますので、もっと広い層に……ということを大事にして進化させました。

遠藤 幅広い層に支持されるクルマとなることを期待しています。ありがとうございました!

スズキ・スペーシアカスタムハイブリッドXSターボ

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…