ブルーインパルスが被災地を激励! 北陸の空を彩った2つのイベントをレポート【自衛隊新戦力図鑑】

晴れ渡った青い空にスモークの白い航跡を描くブルーインパルスの6機編隊。2023シーズンを締めくくる飛行は、北陸が舞台となった。
2024年3月15日から19日にかけて、航空自衛隊が誇るアクロバットチーム「ブルーインパルス」が石川県小牧基地に展開。本年1月の能登半島地震による被災地への激励飛行など、北陸各地の空を舞った!
TEXT & PHOTO:鈴崎利治(SUZUZAKI Toshiharu)

人々を勇気づけるブルーインパルスの飛行

ブルーインパルスは、各地の航空祭やさまざまなイベントで展示飛行を行なっているほか、近年では東日本大震災からの復興を祈念した東北六魂祭(現在は「東北絆まつり」)での飛行や、コロナ禍における医療従事者への感謝飛行など、人々を鼓舞するフライトも多い。今回も当初から予定されていた北陸新幹線の延伸区間(金沢~敦賀)の開業記念に加え、今年1月1日に発生した能登半島地震の被災者への激励飛行があわせて実施された。2023シーズンの活動の締めくくりとなった北陸での活動をレポートする。

3月16日:北陸新幹線開業記念の祝賀飛行

ブルーインパルスは、本番前日の3月15日午前にホームベースである松島基地(宮城県)から小松基地に移動し、午後には予行を行なっている。基本的にブルーインパルスの展示飛行は1カ所で行なわれるが、今回は新幹線沿線(直線距離で約90km)に沿っての編隊飛行に、福井駅と小松駅の2カ所での展示飛行を組み合わせた非常に珍しい構成となった。飛行経路や燃料・スモークオイル使用量の計算を綿密に行ない、関係各所と調整したことだろう。ブルーインパルスの合言葉「創造への挑戦」にふさわしい新たな試みとなった。

16日の本番当日は早朝から新幹線各駅で開業イベントが催され、鉄道ファンなどで賑わった。筆者は福井駅での撮影に臨んだ。福井駅周辺には巨大な恐竜モニュメントがいくつも置かれており、これらとブルーインパルスを組み合わせれば、おもしろいシーンが撮れそうだと考えたからだ。撮影にあたっては、予行の状況を参考にアングルと動線をイメージする。ただし、予行と本番で進入経路や課目の位置が変更されることもあるので、注意が必要だ。正午を過ぎるころには、駅前はブルーインパルスの飛行を目当てにした人々が溢れ、注目度の高さが感じられた。

福井駅西口に立つフクイティタン(福井県で発見された恐竜)のモニュメントを「トレイル・ローパス」で横切るブルーインパルス。新幹線をイメージした一直線の隊形で、展示飛行はスタートした。新幹線開業に合わせて、福井駅周辺には新しい商業施設やホテルが建ち並ぶ。

午後0時38分に小松基地を1機ずつ離陸したブルーインパルスは、6機でデルタ隊形を組むと小松駅から敦賀駅まで編隊航過を行なう。新幹線各駅の上空ではスモークを展開して、美しい航跡を空に描いた。敦賀駅で引き返した編隊は続いて福井駅の上空へと飛来する。航空祭などと違い事前のナレーションは無いため、地上の観客にとってはいきなり展示飛行が始まる感覚だったかもしれない。

午後0時55分から約15分かけて、福井駅上空で6課目を実施した。その構成は以下のとおり――①トレイル・ローパス(縦に一列の隊形)、②デルタ・ローパス(三角の隊形)、③フェニックス・ローパス(フェニックスをイメージした隊形)、④サクラ(スモークで空に花を描く)、⑤レベル・キューピット(2機が左右に展開してハートを描く)、⑥サンライズ(旭日のように扇状に広がり上昇)。

新しく福井駅前に設置されたティラノサウルスの上空で「サクラ」を描く。前日の予行での状況から撮影位置を選んでいたが、展示飛行のポイントがややズレたため、慌てて修正した。

ブルーインパルスは、小松駅上空でも同様の展示飛行を行ない、午後1時40分すぎに小松基地へと着陸している。にぎわう街中での展示飛行でもあり、初めてブルーインパルスを見ただろう人々も多く、楽しそうに空を見上げていた。航空祭での曲技飛行もいいが、自衛隊に関心のなかった人々にも感動を与えられるリモートショー(離れた飛行場から飛来して行なわれる展示飛行)の重要さを改めて感じさせた。

西口から東口に移動し、新幹線ホームとトリケラトプスと絡めて「サンライズ」を撮影した。新幹線開業にともない、周辺の恐竜モニュメントが増えており、いろいろと撮影するのも楽しい。

3月18日:能登半島地震の被災地における激励飛行

2024年元日に能登半島を襲った大地震は、同地域に大きな被害をもたらした。取材のため輪島市に向かう道沿いでは、北に行くほど瓦屋根をブルーシートで覆う家が増え、倒壊した家屋も少なくなかった。3時間かけて輪島に到着したものの、観光地として知られる輪島朝市通りは地震後の火災で一帯が消失し、かつての面影はなかった。筆者は東日本大震災(2011年)や熊本地震(2016年)でも現地取材を行ったが、被災地の光景は何度見てもいたたまれない気持ちになる。救援活動にあたる自衛隊や行政、そのほかの関係機関、ボランティアの方々には頭が下がる。

当初は17日に予定されていた激励飛行だが、悪天候のため18日の実施となった。激励飛行は志賀町・輪島市・珠洲市・能登町・穴水町・七尾市の6市町、13ヶ所の避難所上空を約30分かけて航過飛行する。高度がやや高めなので、市内のさまざまな場所からその姿を見ることができたことだろう。輪島市の飛行ポイントは高台にある輪島中学校だ。

輪島市上空を「フェニックス・ローパス」するブルーインパルス。フェニックス隊形は、東日本大震災後に復興の願いをこめて作られた隊形で、今回の激励飛行には欠かせないものである。写真下の消失した建物は漫画家、永井豪氏の記念館。幸いにして原画など展示物の一部は消失を免れたそうだ。

輪島市は三方を山に囲まれており、どの方向からブルー編隊が進入してくるのか、直前まで見えにくい地形である。筆者は山を避けて北の海側から来るものと予想していたが、反対の南西方向からの進入となった。デルタ隊形での通過ののち、フェニックス隊形に変換し、再び輪島上空をローパスするブルー編隊をカメラに収めた。それは無人の焼け跡の上空を飛ぶブルーインパルスという、やや寂しい一枚ではあるが、復興への願いをこめて撮影した。

その後、立ち話ではあったが住民の方々に感想を伺ったがおおむね好評であり、SNSでも感謝や好意的コメントが多く見られた。飛行するポイントが多く、各地ともそれぞれ数分間のみの展示飛行ではあったが、少なくない被災者を元気づけることができたものと確信する。

さて、2024年度のブルーインパルスによる展示飛行は、現時点で22カ所が予定されており、4月6日の大分県別府市の別府八湯温泉まつりからスタートする。スケジュールは航空自衛隊のホームページ(https://www.mod.go.jp/asdf/pr_report/blueimpulse/schedule/ )に掲載されているので、近くで展示飛行が予定されているのであれば、ぜひ見に行くことをおすすめする。

被災地では陸上自衛隊中央音楽隊による慰問演奏も行われている。同部隊のソプラノ歌手、鶫真衣3曹は自衛隊音楽隊の歌姫の一人として名高い。当日は石川さゆりの演歌「能登半島」を熱唱した。 このときの動画をYoutubeにもアップしているので、興味のある方はご覧いただきたい。[KIKU Channel:https://www.youtube.com/watch?v=cpNEBur_Vns

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